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第二十三話 牙 その一
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通路にを辿るにつれ猿の死体がここあそこと目につくようになっていった。
「何か争いがあったようですね。死体を動かせる奴はいますか」
「お前の右手のそれはとうだ?」
「今のところは何も感じません」
公一の右手首につけている数珠は危険を知らせる兆候は見せない。
「そうか、だったら何もなしだ。もし術が掛けられているなら、とうの昔に暴れたしているよ」
公一は試しに槍の先で猿の体から流れ出た床の血をすくい取った。まだ血は乾いておらず刃先に赤く粘りついた。
「固まっていない所をみると時間は立っていませんね」
猿の死体は殺されて間もない物で、腐敗始まってはいない。その証拠に汚れを始末
する透明な者どもの集まりもまばらだった。
公一は槍の先で死体の傷を突いてみた。
「刀の傷もありますが力任せですね。とにかく荒っぽい」
「そうか、おいサル。こいつらを殺した奴に覚えはないか?」
老猿も心当たりがない様で目を大きく見開き肩をすくめるだけだった。元の仲間の死体に焦る様子も無く慎重に足を進める。
「公一、あれを見ろ。今度は生きてい奴がいるぞ」
ノイは通路の中央の瓦礫の山に腕をかけようやく立っている猿を指さした。
怪我をしているせいか息遣いは荒く暗闇に浮かび上がった姿が左右にゆらゆらと揺れていた。
老猿と公一は辺りの様子をうかがいながら怪我をしている猿に近寄ろうとした。
しかしノイはそんな二人にはお構い無しで猿に近づき声をかけた。
「おい、お前なかなか酷い目に遭ったな。死ぬ前に誰にやられたか言えるか」
老猿と公一は一足遅れてノイに並んで瀕死の猿の顔を覗き込んだ。
猿の眼には力が無く焦点は結ばれていない。息使いも荒く短く浅いものだった。
「うん、可哀想だな。公一ひと思いにやってやれ」
「え、俺ですか? いきなり何を言い出すんですか? 俺が止めを刺すわけにはいかないでしょう。この人の同族ですよ」
公一は慌てて手を左右に振った。
「なんだよ度胸が無いやつだな」
「いえ、止めを刺すのはこの人の役目だといっているんです」
いつの間にか言葉を話すことが出来なくなっいた老猿はノイと公一に喉を鳴らして注意を引いた。
猿の生きる力は今まさに尽きようとしていて、身体を横向きにして崩れ落ちる様に倒れた。
公一と老猿は倒れた猿を少しでも呼吸を楽にしてやろうと仰向けに寝かせた。
猿の呼吸は弱々しく顎だけでの呼吸で命をつないでいる有様だった。
老猿は猿の口元に耳を近づけたが何も答えは無なく公一とノイに向かって左右に首を振った。
「結局、こいつの口から聞きたかったがしょうがないな」
「ノイ様、少しお待ちを。もしかしたら亡くなる瞬間に猿の魂から聞けるかも知れません」
「なんだ、お前も出来るのか。私は迎えの船の船頭を捕まえて聞こうと思ったんだがな。あいつら愛想は無いし相手を滅多にしてくれないんだ」
こちらにもお迎えの現象に似たことのに驚きを感じながら答えた。
「こちらでは船に乗るのですか……」
「船や船頭は、お前たちには見えないと思うぞ」
ノイと公一が話しているうちに猿の息遣いはいよいよ終わりを迎えようとしていた。猿の顎の動く音だけが静かな空間に消えていく。
公一は神経を研ぎ澄ませ辺りの空気の重さ暗さや僅かな変化を感じ取ろうとした。
「どうしていつも病気、怪我人の時はこうなるのか……」
広間の壁から黒い霧が出す様に押し迫り公一達を飲み込もうとする。
黒い霧、異形の闇に用事が有るのは死にゆく者だけなのだが、生者にとっては異常な圧力になる。
公一は息を殺してその時を待った。
暗闇が迫るなか猿が口をあけ最後の息を吐き出した。公一は猿の喉からせりあがって来た丸い息の塊に向かって素早く印を結んだ。
公一の結んだ印のせいか息の塊は暗闇が持ち去る前、一瞬だけ三人の方に向かって揺らいだ。
暗闇は猿の息の塊を飲み込むと死体を残して何事もなく消え去っていった。
「公一、何かみえたか?」
「腕から肩までが見えました。ただ……」
「腕が多くあるようにみえたか?」
「はい、二の腕からもう一本生えてえているように視えました」
「おい、サル、おまえは何がみえた?」
老猿は自分の視た腕の異常を身振り手振りで訴えた。
「そうか、公一が少しだけ時間を稼いでくれたので船頭と話ができた。船頭たちの言うには自分達の仕事の邪魔をした奴がいた。教えてくれたのはこれだけだったがな」
「邪魔ですか。何が邪魔だったんでしょうね」
「まあ、あいつらは自分の仕事さえつつがなく仕舞えれば文句は無いだろうが、お前のやったことも少しでも遅れていたらな邪魔者扱いだったな」
公一は息を微かに吐き出した。
「大丈夫ですよ。無理はしませんから。それよりも暴れている奴がこの人の同族でない事は判りましたね。しかも得体のしれない怪物だ」
「おいサル急ぐか?」
老猿は首を横にふり剣でこれから行くべき道を指した。
「慎重だな。また隙間を歩き回らないといかんのか。ウンザリするな」
いささかノイは不満げだった。
「ノイ様、敵が増えたんですよ。どんな奴か確かめないと」
「お前は小言ばかり、つまらん」
ノイの相変わらずの血の気の多さに公一は苦笑した。
「だが、これから起こる事はこのサルの話しだ。まずは、こいつのやりたいようにさせてやる」
「サルよ、道案内を頼む。もしも不首尾となったとしても私がなんとかしてやるさ」
さすがの老猿も焦りのせいで足の運びも先程までと違い早いもとなっていた。
あとに続く二人の口も重く各々は物思いにふけりながらの道中だった。
細い通路や枯れかけた水路をぬけ再び広い通路に行き当たった。
「ちょっと待ってください」
公一は肩から下げた鞄の中から最初の広間で手に入れた地図を拡げ辺りを見回した。
「今いる道と、さっき潜り抜けた水門と水路は地図のここだと思います」
ノイに地図を見せながら現在の位置と思しき場所を指さした。
「それに出口とか私を閉じ込めた馬鹿どもの事が書いてあるか?」
「そこまでは判りませんが、ノイ様の閉じ込められていた広間まで寄り道をせずに行った訳では無さそうです。判るのはその程度です」
「そうか、また何か判る様なら教えてくれ」
行き当った通路はいよいよ異常な様相を増してきた。
「おいサル、よお前の部族にとんでもない厄災が降りかかったぞ」
ノイは先ほど通った通路より死体の数が増えていることを言っているのだった。
「しかも子ザルまでやられているじゃないか」
「そうですね手当たりしだい、見境なしですよ」
「公一、近くには何もいないな」
「はい、まだ感じません」
老猿は子ザルの死体を身じろぎもせず見つめていた。
珍しく焦った声をしてノイが怒鳴りつけた。
「お前、急がんと一族皆殺しになるかも知らんぞ」
「ガァァァァァ……」
老猿の答えは年老いたせいで黄色くなった牙をむき出して絞り出した雄たけびだった。その悲痛な雄叫びは辺りの空気を震わした。
「何か争いがあったようですね。死体を動かせる奴はいますか」
「お前の右手のそれはとうだ?」
「今のところは何も感じません」
公一の右手首につけている数珠は危険を知らせる兆候は見せない。
「そうか、だったら何もなしだ。もし術が掛けられているなら、とうの昔に暴れたしているよ」
公一は試しに槍の先で猿の体から流れ出た床の血をすくい取った。まだ血は乾いておらず刃先に赤く粘りついた。
「固まっていない所をみると時間は立っていませんね」
猿の死体は殺されて間もない物で、腐敗始まってはいない。その証拠に汚れを始末
する透明な者どもの集まりもまばらだった。
公一は槍の先で死体の傷を突いてみた。
「刀の傷もありますが力任せですね。とにかく荒っぽい」
「そうか、おいサル。こいつらを殺した奴に覚えはないか?」
老猿も心当たりがない様で目を大きく見開き肩をすくめるだけだった。元の仲間の死体に焦る様子も無く慎重に足を進める。
「公一、あれを見ろ。今度は生きてい奴がいるぞ」
ノイは通路の中央の瓦礫の山に腕をかけようやく立っている猿を指さした。
怪我をしているせいか息遣いは荒く暗闇に浮かび上がった姿が左右にゆらゆらと揺れていた。
老猿と公一は辺りの様子をうかがいながら怪我をしている猿に近寄ろうとした。
しかしノイはそんな二人にはお構い無しで猿に近づき声をかけた。
「おい、お前なかなか酷い目に遭ったな。死ぬ前に誰にやられたか言えるか」
老猿と公一は一足遅れてノイに並んで瀕死の猿の顔を覗き込んだ。
猿の眼には力が無く焦点は結ばれていない。息使いも荒く短く浅いものだった。
「うん、可哀想だな。公一ひと思いにやってやれ」
「え、俺ですか? いきなり何を言い出すんですか? 俺が止めを刺すわけにはいかないでしょう。この人の同族ですよ」
公一は慌てて手を左右に振った。
「なんだよ度胸が無いやつだな」
「いえ、止めを刺すのはこの人の役目だといっているんです」
いつの間にか言葉を話すことが出来なくなっいた老猿はノイと公一に喉を鳴らして注意を引いた。
猿の生きる力は今まさに尽きようとしていて、身体を横向きにして崩れ落ちる様に倒れた。
公一と老猿は倒れた猿を少しでも呼吸を楽にしてやろうと仰向けに寝かせた。
猿の呼吸は弱々しく顎だけでの呼吸で命をつないでいる有様だった。
老猿は猿の口元に耳を近づけたが何も答えは無なく公一とノイに向かって左右に首を振った。
「結局、こいつの口から聞きたかったがしょうがないな」
「ノイ様、少しお待ちを。もしかしたら亡くなる瞬間に猿の魂から聞けるかも知れません」
「なんだ、お前も出来るのか。私は迎えの船の船頭を捕まえて聞こうと思ったんだがな。あいつら愛想は無いし相手を滅多にしてくれないんだ」
こちらにもお迎えの現象に似たことのに驚きを感じながら答えた。
「こちらでは船に乗るのですか……」
「船や船頭は、お前たちには見えないと思うぞ」
ノイと公一が話しているうちに猿の息遣いはいよいよ終わりを迎えようとしていた。猿の顎の動く音だけが静かな空間に消えていく。
公一は神経を研ぎ澄ませ辺りの空気の重さ暗さや僅かな変化を感じ取ろうとした。
「どうしていつも病気、怪我人の時はこうなるのか……」
広間の壁から黒い霧が出す様に押し迫り公一達を飲み込もうとする。
黒い霧、異形の闇に用事が有るのは死にゆく者だけなのだが、生者にとっては異常な圧力になる。
公一は息を殺してその時を待った。
暗闇が迫るなか猿が口をあけ最後の息を吐き出した。公一は猿の喉からせりあがって来た丸い息の塊に向かって素早く印を結んだ。
公一の結んだ印のせいか息の塊は暗闇が持ち去る前、一瞬だけ三人の方に向かって揺らいだ。
暗闇は猿の息の塊を飲み込むと死体を残して何事もなく消え去っていった。
「公一、何かみえたか?」
「腕から肩までが見えました。ただ……」
「腕が多くあるようにみえたか?」
「はい、二の腕からもう一本生えてえているように視えました」
「おい、サル、おまえは何がみえた?」
老猿は自分の視た腕の異常を身振り手振りで訴えた。
「そうか、公一が少しだけ時間を稼いでくれたので船頭と話ができた。船頭たちの言うには自分達の仕事の邪魔をした奴がいた。教えてくれたのはこれだけだったがな」
「邪魔ですか。何が邪魔だったんでしょうね」
「まあ、あいつらは自分の仕事さえつつがなく仕舞えれば文句は無いだろうが、お前のやったことも少しでも遅れていたらな邪魔者扱いだったな」
公一は息を微かに吐き出した。
「大丈夫ですよ。無理はしませんから。それよりも暴れている奴がこの人の同族でない事は判りましたね。しかも得体のしれない怪物だ」
「おいサル急ぐか?」
老猿は首を横にふり剣でこれから行くべき道を指した。
「慎重だな。また隙間を歩き回らないといかんのか。ウンザリするな」
いささかノイは不満げだった。
「ノイ様、敵が増えたんですよ。どんな奴か確かめないと」
「お前は小言ばかり、つまらん」
ノイの相変わらずの血の気の多さに公一は苦笑した。
「だが、これから起こる事はこのサルの話しだ。まずは、こいつのやりたいようにさせてやる」
「サルよ、道案内を頼む。もしも不首尾となったとしても私がなんとかしてやるさ」
さすがの老猿も焦りのせいで足の運びも先程までと違い早いもとなっていた。
あとに続く二人の口も重く各々は物思いにふけりながらの道中だった。
細い通路や枯れかけた水路をぬけ再び広い通路に行き当たった。
「ちょっと待ってください」
公一は肩から下げた鞄の中から最初の広間で手に入れた地図を拡げ辺りを見回した。
「今いる道と、さっき潜り抜けた水門と水路は地図のここだと思います」
ノイに地図を見せながら現在の位置と思しき場所を指さした。
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「そこまでは判りませんが、ノイ様の閉じ込められていた広間まで寄り道をせずに行った訳では無さそうです。判るのはその程度です」
「そうか、また何か判る様なら教えてくれ」
行き当った通路はいよいよ異常な様相を増してきた。
「おいサル、よお前の部族にとんでもない厄災が降りかかったぞ」
ノイは先ほど通った通路より死体の数が増えていることを言っているのだった。
「しかも子ザルまでやられているじゃないか」
「そうですね手当たりしだい、見境なしですよ」
「公一、近くには何もいないな」
「はい、まだ感じません」
老猿は子ザルの死体を身じろぎもせず見つめていた。
珍しく焦った声をしてノイが怒鳴りつけた。
「お前、急がんと一族皆殺しになるかも知らんぞ」
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