上 下
89 / 188

89 地獄から来たホネマスク

しおりを挟む
「地獄ユニット「ホネマスク」をメルバさんと作った。

ふふふ、強盗だよ。

私とトラブったエルキールさんの家に押し入る。


コンコン。

「どなたですか、こんな夜更けに・・きゃああ」
「静かに。黙っていれば殺しはしない」

メルバさんが、鍵がかかり空いていないドアの取っ手を回した。

普通にだよ・・なぜ? とにかく空けて、渋い声で言った。

「ひっ」
「使用人のお二人にはは、しばらく眠ってもらいます」

「すごい。流れるように、犯行が進んでいく・・」

「行きますよ。1号」
「あ、はい。メ、じゃなかった2号」

エルキールさんの奥さんを看病するためにいた、中年女性2人。

メルバさんが薬をかがせ、1階のソファーに寝かせた。

2階に上がり、階段から3つ目の部屋、アリア婦人が寝ている場所も、メルバさんが知っていた。

「起こしますか?」
「待って」

ふとんをめくっても起きない。

顔は黄色くも感じるような茶色。やつれてはいないが、むくんだような頬だ。

手を触れた。手から悪い情報が流れてくる。

「2号、この人の状態かなり悪い。特におなかのこのへん、なんだか分かる?」

「そんなことも解析できるのですか。そこは肝臓です」

「どんな役割?」
「簡単に説明すると、体のエネルギーを作る場所です」

「自然な修復は?」
「そこまで顔色に出てるなら、100人に1人とか助かればいい方ですね」


そうか・・

エルキールさんは、この奥さんを助けるために無理をしたんだ。

命がけで、私に会いに来たんだ。

「このまま治療されますか?」
「いや、起しましょう」

「なぜです」

「ホネマスクを宣伝しないと。そして・・」
「そして?」

「旦那さんに愛されてるって、教えてあげないと」

奥さんを起こすと、すごく驚いている。

「さあ、2号やるよ」
ぼそっ。「まじですか?」

「婦人よ」
「ひっ」

「わははは。我々は、そなたの夫に召還され、地獄の底からやってきた」

「な、なんなのですか」

「お前の肝臓はもらっていく。地獄ユニット、ホネマスク1号!」

「同じく、ホネマスク2号!」

「・・・」

メルバさんと息があった演技、大成功。

メルバさんも乗ってくれたのに、奥さんの口が、ポカンと開いている。

「こほん、エルキールが命と引き換えに、私達2人を、ここに呼んだ」

「お前の肝臓をもらい、地獄肝臓に付け替える。押さえろ2号」

「了解、1号」

目を見開く婦人のパジャマをめくり、右側の腹に手を当てた。

「・・ひ」

「ホネホネ強奪」


『超回復』ぱちぃぃ・・

「な、なにが・・」

「ご婦人、気分はどうだ」

「え、は、え~と、身体か楽・・ですね」

「私達は玄関から地獄の蓋を開けて、魔界へと帰る。私達が帰ったあと、地獄へ続くドアに鍵をかけ、戸締まりをするのだぞ」

「・・ぷ」

ぼそっ。
「我慢してよ、メルバさん」

「じ、地獄肝臓、魔界、、玄関、戸締まりって」

「さらばだ!」
「くくく、さらばだ!」

私達は宣言通り、玄関から地獄へと旅立った。



2人で秘密の通路から外に出た。

そして私が好きな大きな木の下でシートを広げている。

もちろんメルバさんと酒盛りだ。

「あ~はっは。私まで笑いそうになったよ」

「くふふふふ、いやあ、危なかったです」

乾杯した。

「ユリナ様、記念にこのマスク、持ってていいですか?」

「ええ、絶対に持ってて下さい」

「絶対に?」

「街中って私の回復術、使いにくいでしょ。メルバさんさえ良ければ、たまにホネホネマスクで人助けしない?」

「兄や弟も誘いますか?」

「いえ、そんな手広くやるつもりはないの」
「面白そうですが、2人ですか」

「そう、成り行きだけど、1号、2号の固定でやらない?」

助ける人の基準を聞かれた。

そんなの、決まってる。

「メルバさんが助けたい人だよ」

「え、俺ってそんなに広い視野もなければ、善人とかの区別もできませんよ」

「いいの。さっきの婦人だって、旦那の覚悟に気圧されて治療しただけ。別に尊い理由はないもん」

「じゃあ、このマスク、俺とユリナ様が揃ったときだけ被るものですね。そうか、俺だけか・・」

「面倒くさい?」

「とんでもない。俺、アルバ兄さんとジェルバが羨ましくて、悔しい思いをしてたんですよ」

「む~ん?」

「だって、ユリナ様と孤児院に付き添って、夕飯をご一緒するのはアルバ兄さん。酒場でユリナ様と酒を飲むのはジェルバ、そんな感じでしょ。俺の役割がなくて・・」

「あはは」

笑った。

私なんて、大したもんじゃない。たまたま、いいスキル手に入れて自己満足してるだけ。

「だけど、俺はそのスキルに救われました」

「ありがとう。そうだ、今日のお礼をしなきゃ。なにがいいかな」


「・・恥ずかしいお願いをいいですか?」

「いいよ」

体を求められる、ことはねえか ・・

「ぎゅ・・、ぎゅとして下さい」
「はい?」

「・・俺、上2人の兄と違って母親の顔を知らないんです」

「・・」

「火傷の治療をしてもらってから、ユリナ様が母親と思えるときがあって・・。馬鹿なことを言いました。ユリナ様?」

なんだか可愛い。思わず、頭を抱きかかえていた。

「メルバさんはどこを火傷したの?」
「首筋から右腕と背中です」

首を撫でた。

「もう大丈夫だからね。怪我したら、遠慮せずに来てね」

「はい・・」


マスクは数種類ある。違うマークのマスクも何枚かあるので、新キャラ作りもアリかも思う。

夜中にメルバさんと別れ、ペルセ中級ダンジョン前のホテルに戻った。

そして私は24時間営業の酒場で、出発前と同じ席に着席。

エルキールさんを待つ間、甘い香りがするラムを注文した。

今度は心残りもない。


気持ちよく飲めた。

    
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

闇の王子と光の聖女-燃えない恋には惚れ薬を-

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:5

【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

BL / 完結 24h.ポイント:830pt お気に入り:976

可笑しなお菓子屋、灯屋(あかしや)

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:532pt お気に入り:1

無双転生~チートスキルで自由気ままに異世界を生きる~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:1,223

転生令嬢、目指すはスローライフ〜イベント企画担当者ではないのよ!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:25,121pt お気に入り:2,352

アリスと女王

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:603pt お気に入り:904

最強無双のまったりハーレムぶらり旅 ~森の引きこもりが本気出す~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:677

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:695pt お気に入り:6,243

【BL】できそこないΩは先祖返りαに愛されたい

BL / 完結 24h.ポイント:882pt お気に入り:561

処理中です...