ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる

文字の大きさ
103 / 188

103 悪魔のような、聖女のような

しおりを挟む
俺こと、Dランク冒険者のガノンは「噂のユリナ様」の戦闘力を目の当たりにしている。

カウンタースキルなのか。近くで見ても、何をしているのか分からない。

ただ、視界の中の盗賊は立って動ける奴がいない。


マスクを被ったユリナさんを追って、盗賊の砦に入った。

調査した盗賊の数は最低26人。そこいら中に転がっている人間の数は、それくらいだ。

隣を歩くサナクが呟く。
「27人が転がってる。こんな短時間に・・」


ユリナさんが向かったのは、「ツインズ」の報告にあった方向。

囚われた女性がいるのか・・

ユリナさんは190センチの盗賊剣士と向かい合っていた。距離4メートル。

男は小屋のドアに左手をかけ、右手に松明を持っていた。剣は地面に刺してある。

ユリナさんは、攻めない。

「お前が、この小屋に女3人がいるのを確認したのを知ってるぜ」

「・・そう。それで、その松明は?」

「動くな! 中の女は足の腱を切ってある。まともに動けねえ。中に藁を敷き詰めてあるから、火を投げ込めば中で火ダルマだ」

「それで?」

「中の女には手を出さないから、砦から出ていけ!」

「やれば」

この人は何を言っている。俺達をあてにしている?

入り口が狭い小屋に飛び込んで、燃え盛る炎の中、足が不自由な女3人を抱えて出てこい。

そうことだろうか。

ユリナさんは2メートルある大剣を出した。

「脅しと思ってんのか、なめんな!」

盗賊剣士がヤケになって扉の取っ手を引こうとした。

その瞬間だ。

サク、ザクッ、サクッ。
「ぐえっ、え?」

空いたドアの隙間から3本の槍が突き出された。

盗賊剣士は松明を落とした。

ユリナさんは体勢を崩した剣士の右肩に、大剣を撃ち込んだ。

ゴキゴキッ、容赦なし。

小屋から、槍を持った女3人が出てきた。

「な、なんで足の腱を切った女が3人とも歩いてる」

女性達問いに答えない。

倒れた男を囲み、槍を突き入れ始めた。

「ぐわっ。いでっ。そうだ、拠点は他にもある。俺を殺せば仲間が黙ってないぞ」


「お姉さん達、他に盗賊はいるの?」

「・・こいつら、二拠点を使って領主やギルドの捜査を逃れてました。隣の領の拠点がヤバくなって、全員でこっちに来たんです」

「ありがとう。盗賊剣士さんの出番は終わったわ」

「なんだそりゃ、ごぽっ」

盗賊に隙を与えない。


死んだ盗賊剣士を収納指輪に入れて、ユリナさんはこっちを向いた。

「来ちゃったのね。埋め合わせはするから、あとで彼女達を連れて帰って」

捕まっていた女性3人を促し、壊れた門の方に歩いて行った。

盗賊は、女性3人は足の腱を切られていると言った。なぜ、普通に歩いている。


ユリナさんは門の近く倒れている男達を指差して、女性に何か聞いている。

「ガノン、あれ」
「聖女とか言われてるのに・・」

女性が指差した盗賊の首にロングソードを叩き込んだ。

2度、3度。動きを止めた男を収納した。

女性3人が、恨みを込めて、盗賊に槍を突き入れる。

ユリナさんは、事切れたそいつらを収納していった。


残る盗賊は2人。

「・・この2人を殺すのは、やめたいんですが」

そこには20台半ばの男が横たわっていた。

「この2人は、私達の治療をして、ヤらずに休ませてくれました」

「そう」

「仲間に騙されて、冒険者から盗賊に身を落としたそうです」

2人とも盗賊の仲間。

だけど女性3人は、倒れた男2人を殺す気がない。

ユリナさんは、並んで倒れている2人の前にかがんだ。

どちらも足に大火傷をして傷だらけ。

放っておけば死ぬ。

「盗賊のおふたりさん、あなた方だけ合格だそうよ」

「・・そうか」

「お姉さんたち、助けられて良かったな・・」

「冒険者時代に騙されたそうね。悔しい?」

「悔しいが、自己責任だ。俺ら2人が馬鹿だったんだよ」

「最後に、ちっといいことしたな」
「だな・・」

「彼女達が2人だけは助けてもいいそうよ」

「俺ら、蹂躙されるのを見てただけ」
「助かる資格はねえな」

ユリナさんは盗賊2人の肩に手を当てた。

そして、不思議なことを口走った。

「名もなき神が言ってるわ。女性3人の願いだから、1度だけチャンスをくれるそうよ」

『超回復』ばちっ。

「け、怪我が」
「何が起こった」

「ほら立って。これを持って南に向かいなさい」

金が入った袋を2人に渡し、砦から追い出した。


その後は、女性達に盗賊のトドメを刺させ、8軒の小屋を破壊。隠れていた3人も容赦はせず倒した。

そして金、武器、食糧などの物資も根こそぎ収納指輪に入れた。

まあ、冒険者であり、討伐者でもある彼女の当然の権利だ。

だけど目的は違った。

「ガノン君、この収納指輪を持って、冒険者ギルドに帰って」

「え?」

「盗賊の討伐報奨金全額と盗賊のお金の半分は、彼女ら3人にあげて」

「そんで残りは?」

「収納指輪ごと「炎の誓い」でもらって。指輪は上級ダンジョンクリアの報酬だけど、今回の迷惑料よ」

「いや、それはダメだろ」

「聞いて。迷惑料には捕まった人の情報を持ってきた「ツインズ」へのケアの代金も入ってるわ」

「・・どういうことですか?」

「私がランク落ち、「炎の誓い」が不合格となれば、彼女達はすごく責任を感じる」

「・・そうかもしれんが」

「だからガノン君達には、嘘をついてもらう」

盗賊の砦を再偵察に来たら、マスクを被った大男がいた。
その男が捕女性3人で協力して、すでに盗賊が皆殺しにしていた。

そんな話を頼まれた。

「討伐者をなんで、彼女達に?」

「偵察任務のガノン君達が討伐者だと、試験は即不合格になるわよ」

「・・そうか。ならユリナさんは?」

「私は逃亡して、どこにもいなかった。それでいい」

「それじゃ、ユリナさんにはマイナスしか・・」

「それでいい。捕まっていた女性達にも、しっかり言っておいてね」

朝まで砦の中で休み、夜明けと同時にオルシマの街に向かった。

ユリナさんとは、森の中で別れた。

森の出口に副ギルマスのジェフリーさんが馬車で来ていた。俺らを拾ってくれた。

帰り道、ジェフリーさんに収納指輪、金銭の半分520万ゴールド、多数の物資のことを相談した。

「本当でも嘘でもいい。ユリナ様の願い通りに話を進めろ。金や物は、黙ってもらっておけ」

それだけ言われた。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...