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討伐隊に加わり、ワイバーン、ハーピーと戦って30分以上がたった。

ハーピーが多くて最初は苦戦したが、貴族家3家の合同軍は、厳しい訓練を乗り越えた戦士ばかり。

連携しながら局面を有利な方向に変えていった。

すでに、ハーピーの攻撃タイミングを読んで、着実に対応している。

ハーピーは30匹まで減っている。

「すごい。みんなが瞬時に自分の役割を考えて、的確に敵を削っている」

感心してしまう。

軍団の中に加わって戦うのは初めてだ。その流れる動きが見事。

私が加われているとは言えない・・・

「ぐわっ」『超回復』
「ユリナさん」『超回復』
「こちらもお願いします」『超回復』

私はランドドラゴン変身の力を攻撃ではなく、怪我人の間を駆け巡るための脚力強化の手段に使っている。

ま、空飛ぶ敵だから、予想してた。

ワイバーン2匹目は、イツミ伯爵家の精鋭が傷だらけにしている。

傷は主に頭に付いている。機動力を奪いたい人間側が羽を狙う。

しかしワイバーンも羽を奪われては終わるので、防衛している。

ワイバーンは逃げたい。

羽ばたくが、ノエルがワイバーンの足に絡むロープに強化魔法をかけ続け、動きを制限している。

「ノエル、こっちが終わったら駆けつける!魔力は大丈夫だよね」

ハンドサインのやり取り。

「大丈夫。先に怪我した人たちの面倒を見てあげて」

返答あり。

その時、伯爵様がワイバーンの鼻先に剣をたたき込んだ。

「ぎゅるるるうううん!」

苦しみのいななきかと思ったら、違った。

ワイバーンは、支援部隊、を呼んだのだ。

残った30匹のハーピーが反応した。一斉にワイバーンとイツミ伯爵家の激戦地に飛んだ。

「しまった。みんな、ハーピーに備えろ。ワイバーンは逃がしてもいいから身を守れ!」

伯爵が瞬時に叫んだが、伯爵家討伐隊は意外な攻撃に反応が遅れた。

伯爵軍の前にワイバーン。後ろは30匹のハーピー。
精鋭達にも動揺が走った。

しかし、ノエルは叫んだ。

「伊達に67年も冒険してないよ。精霊術、風の障壁!」

「うわ、ノエル、かっこいい」

迫る30匹のハーピーに風の渦を当てた。完全に仲間を守った。

「ユリナ、私もやるっしょ。見てたよね」

「ノエル、後ろ!」
「えっ」

負担がかかる精霊魔法を使った直後、硬直したノエルにワイバーンが迫っていた。

ワイバーンも知能がある。

自分の脚を地上につなぎ止めていた憎いノエル。彼女が無防備になった瞬間、逃亡を考えず彼女を狙ってきた。

がすっ。かぎ爪が付いた足先で蹴られた。そして大きく舞った。

「ノエル!」

ワイバーンのかぎ爪で脇腹を割かれ、血と何かをまき散らしながら宙を舞うノエル。

みんな、絶望的な顔をしている。


もちろん、私だけは違う。

「ノエル、内臓失っても気を失うな!」

反射的にランドドラゴン変身をして、右側に舞うノエルを追った。

ジャンプして力いっぱい体をつかんだ。

滞空している。

腕の中には、血を撒き散らすノエル。

「おまたせノエル」

『超回復』ぱちーーっ。

どんっ。

二人で抱き合った形で地面に落ちた。

頭から、どんっ、と。

だけど、すでに私のスキルは成立している。

「痛てええ!」
「痛ったああ!」

2人で、元気に雄叫びをあげた。
けど、驚異は去ってなかった。

「やばっ」がしっ。

ノエルの魔法が解け、拘束道具から逃れたワイバーン。

旋回してきて、私達を捕まえた。

私とノエルは抱き合ったまま、逃げ損ねた。

ノエルと私の両足がまとめて、巨大な鶏のような足にガッチリととらえられた。

「うわあああ」
「ヤバい!」

ワイバーンの生息地帯に向かっている気がする。

私の技は封印中。

偶然にも最大の弱点を突かれた。

ノエルと私の足が、ガッチリ密着している。

「スライムパンチ」では、ワイバーンの前にノエルが吹き飛ぶ。

「等価交換」を使っても、巨体のワイバーンの前に、ノエルの方が干からびる。

巣に連れて帰られても私は生き残る自信がある。

だけど、複数のワイバーンがノエルに群がってきたら・・

「くそっ、放せ」

ミスリルよりも固い。

ノエルもナイフで叩いているが、爪に弾かれた。


高度が徐々に上がる。

高すぎる。

高度が500メートルなのか、1000メートルなのか分からない。

もう仲間200人は、豆粒に見える。

ノエルを見た。

まつ毛が長くて切れ長の目をしている。

二人、足をホールドされて空で逆さまになっている。


打開策はある。今、考え付いた。

勝算は低い。

「・・こりゃダメかな」
「ノエル」
「なに、ユリナ」

「私を信じれる?」

「・・何か手があるのね」
「ある」


見つめ返された。

「信じる」
「ワイバーンに火の精霊魔法をぶちかまして」

「分かった。こんな不安定な場所で頭なんて狙えない。腹狙いだね」

「そうだよ」

「ねえユリナ」
「ん?」

「キスしよっか」

「偶然だね。私もしたくなってた」

逆さ吊りで唇を重ねた。


確実に魔法が当たるワイバーンの腹。その軌道ギリギリには、私達の足が存在する。

ためらわずノエルは魔力を練り始めた。

「火の眷属よ、我がために炎を吐き尽くせ「サラマンダー」」


火魔法「豪炎」同等の大技。

わずか2メートル先、ワイバーンの腹に当たった。

熱量が尋常じゃない。

ワイバーンの腹から足に走る前に、私とノエルの全身から炎が上がった。

『超回復』。ノエルにアクティブ3回、私には勝手に働いた。

「等価交換」が使えない。私は、どんどん小さくなる。

ワイバーンが燃えながら、バランスを崩した。

ノエルの魔法、強力すぎ。

治した直後には、身体から炎が上がる私達。

数秒感に、数十回も回復させた。

2人の服も残骸のみ。

ワイバーンは甲高い悲鳴を上げ、私達を離した。

ようやくノエルと私は炎から解放された。

そうして・・

裸同然の私達、1000メートルの空中に放り出された。

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