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156 再びイーサイド

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伯爵家に到着した。

フロマージュちゃんとフランソワ夫人が待っていた。

「お父様、そして皆様、ご無事の帰還を喜ばしく思います」

「おお! ユリナ殿やノエル、みんなの活躍でワイバーンの脅威も去った」

そのまま宴会に突入したが、視線が痛い。

フロマージュが、私をじと目で見てる。

「ユリナお姉様、今度は上空1000メートルでノエルさんをゲットですか。吟遊詩人にチクりますよ」

「いや、フロージュちゃん。私達そんなんじゃないから」

「そうですよ。これから私がユリナを口説いていくんです」

そんなこんなで待機部隊も加わり、大宴会の1日が終わった。

またも伯爵様に引き留められた。

魅力的だったけど、オルシマに帰る。

フランソワ夫人達がカナワに戻るし、私とノエルも、一緒に伯爵領を辞去することにした。

「フロマージュちゃん、途中までよろしくね」
「はい。本当はユリナお姉様にはカナワに住んでいただきたいんですが」

「私もですわ」

だけど、私は今度こそオルシマに帰る。

「ふーどこーと」を任せっぱなしのみんなに感謝して、冒険者ランクアップに励もう。

そんで、今度こそミールとしっかり話をしよう。

帰りは自由な気分だ。

「超回復走り」を使ったり、たまに騎士さんの馬に乗せてもらったりして、1日で街道の分岐点近くまできた。


「フランソワ夫人。色々とありがとうございました。お陰様でいい出会いもありました」

「貴族としては何のお礼もできておりませんが、またの再開を楽しみにしております」

別れる予定の分岐点まで来た。

今は夕方で、道は一番大きな南北街道。

南がカナワ方向で夫人たちは今夜、2キロ先にある村に泊まる。

私とノエルは東方向になる左側に向かう。

海岸沿いの細い道を抜けて旅を続ける。


そして・・

別れを惜しもうとすると、必要のないお出迎えがいた。

待ち伏せともいう。

久々に見たイーサイド男爵家長男ライナーだ。

そして、似た顔の男女もいる。四兄妹のうち、3人だ。

意外・・。いや。

親戚である、第三婦人の息子を使い、カナミール子爵家の乗っ取りまで考えていた。

「そりゃあ、密偵くらい置いているよね」

「やつら悪人ね。優しいフランソワ夫人も鬼のような顔で、にらんでる。どこの人間か分かった」

ライナーら兄妹とは、フランソワ夫人、フロマージュちゃんも一緒に向き合っている。

魔法の射程距離内だけど、ノエルがいてくれる。

風、火、水と3種類の強力防壁を張る準備を終えている。

逆に私と、5メートル以上離れてくれている。

ノエルとは一緒に戦いやすい。


「伯爵様と話した中でも出てきた、汚い手でカナワ領主になろうとした三男の親戚だよ、ノエル」

「フワンソワ夫人を亡き者にしようとした奴の仲間か」

ライナーは20人ほど、剣士と魔法使いを従えている。

「ライナー、次に会うときは、4兄弟がそろって来るかと思ってたよ」

「その予定だったがな・・」

カナミール子爵の兵がイーサイドへの、強行調査に入っている。
そこには、ライナーの妹が兵を率いて応対している。

ライナーが連れてきた兵は「凶信者部隊」に襲われ、わずかな人数が、ここにたどり着いた。

「あせってるわね。愛するお母様が死にそうなの?」

「ふっ」とライナーが笑った。

そしてフロマージュちゃんに特に強調するように言った。

「母は死んだよ」

私でなく、私側の陣営に向かって言い出した。

「君が母の治療を断ったせいで、胸を押さえて苦しみながらね」

「お前のせいでお母様が死んだ!」
「責任取りなさい」

弟妹もピーピー騒ぎ出した。

フロマージュは、驚いた目で私を見ている。

私は言った。

「そう、残念だわ」

「そうだろう。そちらのお嬢様、ユリナがどう取り入ったか知らないが、この女は性根は冷たいですよ」

「残念だわ。ババアが勝手に死んじゃったんだね」

「なっ」

「親友のアリサの仇、直接取るつもりだったのにね」

「お前には、憐憫の情はないのか!」

「あるよ。人間に対しては、持ってる」

ライナーはアリサと同じ顔で、嫌らしい目をしている。

「恩を感じた人間も、しっかり守りたい」

アリサの泣き顔が、また浮かんだ。

「だからね」

まだ夕方だけど、まん丸な月が浮かんでいる。

アリサが悔し涙を流した日と同じように。

「親友アリサの仇を殺しても、ショックは感じなかった」

月が、まん丸だ。

「ライナー家ってもう、私にとってはゴブリンの巣窟なんだよね・・」


フロマージュが目を見開いている。

だけどフランソワ夫人とノエルは、私に賛同するような目を向けている。

今は守るべきはフランソワ夫人親子と10人の護衛。

幸いに護衛は、ライナーら高位戦闘職から夫人たちを守るため、近距離に固まっている。

「ノエル」
「ユリナ」

「え」
「え」

私達はお互いにお願いするつもりだった。

ハイレベルの魔法で多くの人を守ることができるノエル。
騎士的に、多人数を守りながら戦えない私。

絶対に死なせてはならない人がいる。

役割は私がアタッカー、ノエルがディフェンダー。

申し合わせてもいない。

なのに、私が1人で前に飛び出て、ノエルが全員を守る水と風の複合結界を作った。

「ノエ・・あはは」

「ふふふ、ユリナ、思い切り暴れてきて」

思わず、一緒に笑ってしまった。


こんなタイミングで現れた戦力不足のライナー。

フランソワ夫人かフロマージュちゃんを人質に取るのが目的。

確かに私ひとりなら、多人数を守りながら戦えない。

作戦は良かったと思う。


「だけどね。ノエルがいてくれるんだよ。愛して・・」
「あいして? なに、ユリナ」

結界のせいで聞こえないはず。なのに、うっかり出かかった私の言葉をノエルが拾った。

思わず赤面して顔を背けてしまった。

ばーーーーん。

「あっちぃー!」

『超回復』

意識がノエルの方を向いている間に、ファイアランスを背中に食らって宙を舞った。

我ながら、アホなミスだ。

私がノエルの結界から離れたとき、私を逃さないように陣形が組まれていた。

半円に4人ユニットが5つ。

空いた方に、こちらの仲間がいる。

みんな自信ありげな顔。恐らくはBランク以上の魔法使いか戦闘職だろう。

私だけは、こんなときビビらなくなった。

逃げない奴ら。むしろ私が戦いやすい相手だ。


「ライナー、墓穴を掘ったね。あんた、カナミール子爵家とイツミ伯爵家を敵に回したよ」

「どうせ、我が家は没落するだけだ。これからは傭兵団でも立ち上げるさ」


最低でも、ライナーは逃がさない。

焼け焦げたワンピースを捨てて、ナイフも放り投げた。

裸に収納指輪2個。

これが、オリジナルの究極戦闘フォームだ。



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