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158 狙われた弱点

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イーサイド兄妹3人と向き合っている。

長男ライナーだけ名前を知っている。

残り2人は知らない。知る必要もない。

男爵家の直系とはいえ、犯罪者だ。

狙ったのは平民の私だけではない。

カナミール子爵家当主の第一夫人で、かつ武闘派伯爵様の長女フランソワ。

さらに伯爵様が溺愛する孫娘も巻き込んだ。

法に守られたとしても、死ぬまで追われる。

「ライナー、なんで先行きが見えない戦いを仕掛けてきたのよ」

「フランソワ夫人を人質にしようとしたことか。それは勝算がある。君を王に差し出す」

この国の王は、延命のために私が得たようなスキルを探している。

「王の庇護下に入れば、伯爵クラスの相手でも退けられる」

「変な話ね。王様って、そういうワンマン経営のような国を嫌って、合議制を取り入れたんでしょ」

スマトラさんが読み書きと一緒に教えてくれた情報。

それでもこいつら、王の権限は残っていると思っている。

合議制って、大きな決断を1人では許さないためのもの。

爵位の上げ下げ、軍隊の動員なんて、すでに側近の了承なしでは行われない。

「しかし、王は王だ」

「今はただの老人みたいなもんでしょ」

すでに、何人もの貴族が私のスキルを把握している。王に報告が行っても不思議でない。

もしも王に権限が残っているなら、王の兵士が私のとこに来ている。

それが来ないということは、実権がない証拠だ。

「平民のくせに、裸のくせに、知った風な口を聞くな」

「思考低下だよ。あなた、追い詰められているのね」

言い終わらないうちに、ライナーは私から距離を取った。

約20メートル。

弟妹も動いて正三角形の中央に私を置く形で陣形を作った。

作戦か。乗ってやろう。

ノエル達から大きく離れていない。フロマージュも見ている。

私がスキルで押して勝つのか、それとも高位の土魔法使い3人で連携して私を倒すのか。

「しっかり見てて、ノエル」

私が勝つとき、3人は死ぬ。もう決めた。

それでもフロマージュちゃんにも、みんなにも、しっかり見てもらいたい。


一斉に土魔法が飛んで来た。ストーンバレットが3方向から同時に来た。

『超回復』『超回復』ばちっ。無駄だ。

いや・・

ライナーの弟がナイフを出した。
だだの魔法使いの構えでもない。何か仕掛けてくる気だ。

あちらは、私の拘束が第一の目的。

そして接近戦の危険性も理解している。

私では正確な狙いが分からない。出たとこ勝負だ。

ライナーと妹が、魔法のつぶてを当ててくる。

私では分からない。

だけど、何をされるか。その可能性は、嫌というほど教えられている。

私を少し研究すれば、弱点は簡単に浮かび上がってくる。

それを指摘し、対策方法を体に覚え込ませてくれたのはアルバ、サルバ、メルバ、ジェルバの暗殺4兄弟だ。

「師匠達と確認した『超回復』の特性を生かせるね」

ライナーの弟君はステータスを生かして私に急接近。首に向かってナイフを振った。

私は思わず弟君の前に左手を伸ばす。

これは、私の罠だ。

ざくっ。親指を除く4本の指が切断された。

中指には収納指輪がはまっている。弟君はしてやったりの表情。

私のことを研究している。

私が不死身性を発揮出来る土台は、大量の物資。

切り札は、両手にはめた収納指輪。

「等価交換」のことは知られていないと思う。
だけど、収納指輪から何かを出して戦うところは、良く見られている。

「普通、強さの秘密がそこにあると予測するわな」

右手でナイフを振った弟君は、左手を飛んだ指と切断箇所の間に素早く入れた。

「遮断面」を作った。そして指輪付きの指を握った。

私の切り札を奪った。そう思ったよね。

「だけどさ。それ、私の命綱だよ。対策を練っていると思わないのかな」

アクティブ『超回復』。ばちいい。

どすっ。どす、ドスドス。「ぐうううわ」

私の4本の指は、元の位置に戻ってきた。

もちろん、弟君が間に入れた手のひらなんぞ、シカト。

「逆ロケット指パーンチ」

私の手は指を伸ばして元通り。

結果、私が弟君のでかい手のひらを、武術の貫き手技で、貫いた形になっている。

もちろん収納指輪は元の位置に納まっている。

「散々、ストーンバレットでダメージくれたね。損失分は、あんたからもらうよ」

身長135センチ。

私の左手と彼の右手は密着。私は右手で彼の太い首を掴んだ。

「等価交換」ぱちっ。首と右手から栄養をもらった。

首は大きな血管の上をつかんだ。

等価交換で気道を干からびさせ、ピンポイントで脳に続く血管も壊す。

「死んでもいい」。そう思った相手に対してしか、使わない。

接近戦で収納指輪を狙ったのは愚策。

なぜ、私が対策をしていないと思った。

アルバ4兄弟と訓練させてもらい、戦闘技術の前に指摘されたのはここだ。

「善意の切り裂き」
嫌になるくらい、あの超一流暗殺者から食らった。

話してるとき、指ポトリ。
水飲もうとして、指さくり。
笑顔で歩いてきたアルバさんに、指ちょんぱ。

帰り際に手を振ったら、指、飛んでました。

たまんねえっす。泣きそうだったっす。


おかげで、収納指輪がはまっている中指に何か触れただけで、反射的に『超回復』

私、そんな体に仕込まれました。

痛かった。
そして痛かった。
とにかく痛かった。


ちなみに、収納指輪自体は、アーティファクト。空間魔法の作用で、破壊されていない。

「かひゅっ、かひゅっ」

呼吸困難を起こした弟君は放っておく。

どうせ、このまま死ぬか、フランソワ夫人の護衛に斬られるか。

その二択しか残されていない。


アリサと顔の造形だけよく似た女。そいつの方を向いた。

初めて会ったときのアリサより、少し幼い。

「あんた、アリサが追放されるとき、かばったりしたの」

「するわけないでしょ、あんな劣等人」

「私は、彼女には感謝し切れないほど世話になったよ」

「血が繋がっていると思っただけで、不名誉だったわ」

「血が繋がってなくても、大切な友達だった」

アリサ、改めて言う。

ありがとう。

こんな弟妹や親の間で苦しんだのに、私に優しくしてくれたんだね。


妹ちゃんは魔法の用意を始めた。視界の隅に映るライナーも魔法の準備をしている。

私は、2人の心を折りたい。

裸のまんま、私をはさんだ2人が攻撃するのは待っている。

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