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一章 異世界へようこそ
第一幕 クラス転移
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日本国、とある地域。
宝ヶ丘学園、高等部二学年にて。
「……つまんね」
「ん? 鍠磨、何か言ったか?」
「ああいや、何でもないです」
「テスト中だ。私語は慎めよ」
「はーい」
鍠磨貫太、つまり俺の事なのだが、彼はこの二年七組の中で、特殊な存在だった。
一言で言えば、彼はクラス内で少し、いやかなり浮いていた。
理由は何なのか、当事者である俺が分かるはずもない。
当事者だからこそ分かる事もあるのかもしれないが、俺には全くもってクラスメイトの真意が読めない。
風の噂で耳にした話によると、「協調性がない」「根暗そう」「オタク」「なに考えてるか分からない」「生理的に無理」
って、あああああ!! 何を考えてるんだよ、俺は!
やめよう、何だか悲しくなってきた。
ともかく、俺は今現在、進行形で、クラスメイトから拒絶されているのだが、逆の立場から考えてみれば、俺からしたら彼らの考える事の方がまるで分からなく、彼らこそ進行形で、拒絶したくなるような仲間達だ。
それよりも。
俺の事よりも、この二年七組について考えて欲しい。
俺を否定し、拒絶したこのクラスについて語ろう。
それは、一言で言えば、荒んでいた。
休み時間はともかく、授業中は教師など目に見えていないかのような素晴らしい演技力から見せつけられる自由奔放さ。
連日男女間では言い争いが立ち、同じ性をもってしても起こる内輪揉め。
よくある言葉で片付けてしまえば。
ここは。
この、端から見れば最低最悪なクラスは━━学級崩壊しているのだ。
「あー、テスト疲れた~!」
「全然できなかったぜ!」
「なんでそれで笑ってんだよ」
三日間に渡る第一学期末テストが幕を閉じ、生徒達の心は浮き足立っていた。
まあ、俺も手ごたえを感じたし、今回はいい結果が出せそうだ……
「おい」
背後から声がして、つい後ろを振り向く。
そこに立っていたのは、ある男子生徒。
「えっと、お前は確か……ああ。男子生徒Aか」
「あ? んだそれ、ナメてんの?」
ぐい。
と、いきなり胸ぐらを掴まれる。
守堂孝久。
覚えなくていい。モブだ。
彼は、このクラスを牛耳るカリスマ的なグループの一員で、俺みたいな奴にことごとく突っかかってくる、典型的な、まあ、モブだ。
他に特筆すべき点は……ごめん。無い。とりあえずモブだ。
と、そんなモ……彼がいきなり何を言い出すかと思っていれば、
「お前、なにテスト中喋ってんだよ」
……は?
「いや、だめなの?」
「お前みたいな野郎が、テスト中なのに邪魔するから皆の集中力が切れてくるんだよ。なに、そこまでして皆に注目されたいのかよ?」
「別にそこまで思ってないけど、え? もしかして、俺の独り言で皆に迷惑かけてた? いつも皆の目には見えてないと思ったから大丈夫かなーってさ。あ、それともなんだ、俺と話したいのか? なら仕方ないから話し相手になってやらんでも……」
「ごちゃごちゃうるせぇよ!」
「…………」
ついに激高した守堂が、俺の態度に対し怒鳴り散らした。
ったく、うるせえな……。みんなに見られてんだろうが。
「分かるか? お前にはここにいる権利なんかねぇんだよ! 大人しく消えな! 皆の為にな!」
その声で、周りの生徒達がこちらへ寄ってくる。
「なんだなんだ?」「お、守堂と鍠磨が喧嘩してるぞ!」「可哀想だろ、やめてやれよ守堂!」
周囲から、嘲笑と罵倒が聞こえてくる。
よくもまあ、こういうのだけ団結力が働くよな……。
と、いうか。
もうこんな生活にも飽きてきた所だ。
「聞いてんのかよ! おい!」
(はぁ~あ。なんか面白い事起きないかなー)
「おい! なぁ!」
(俺の家に修道服着たシスターとか魔術師が来たり、VRMMOの仮想世界からログアウト不可になったり)
「もしもーし? あの、聞いてます?」
(いっそのこと、クラスごと異世界転移しちゃったり、なんて)
どうでもいい。
くだらない。
世の男子なら一度は想像しそうな事を考えていた、その時だった。
「うおっ! なんだ!?」
「何なんだよこれ、魔方陣?」
「誰か詳しい奴いねぇのかよ、魔術とかに!」
「いるわけねぇだろ!」
生徒達がこんな反応をするのも、無理はない。
今回ばかりは、俺すらも驚きを隠せなかったからな。
……突如として教室を覆うように現れた、強大な魔方陣。
「……すっげー」
「なにしてんだよ! 鍠磨、てめぇがなんとかしろ!」
「知るか。死ぬときゃ皆一緒だ」
ざまあ見やがれ、てめえら!
こうなりゃ、このまま全員一緒に心中だ!
『え、えー。皆さん、聞こえますかー?』
騒ぎが大きくなる教室内に、今度は何者かの声が響いた。
一斉に、声のする方へ耳を傾ける、が。
(……脳に直接、響いてる?)
「…………まさか!?」
「なんだよ鍠磨。何かあんのかよ!?」
まさか……嘘だろ!?
まさか、まさかまさかまさかッ!
『えっと、今日は、君たちに話したい事がありまーす』
なおも直接、脳に響く声。
「誰だよ、一体何がしたいんだよ!?」
「誰か助けてー!」
「おい、誰か先生呼んでこい!」
ったく、うるさいな。
そんじゃ、続きを聞かせてもらおうか。
『それでは、早速ですがここにいる皆には……』
「なに? なんなの!?」
「…………」
(来いっ!)
『クラスごと、異世界転移してもらいます』
「どういう事だ! 異世界だって?」
「そんなのあるわけ無いじゃない!」
「早く姿見せろよ! どうせテロリストかなんかだろ!」
やっぱ、こうなるわな。
俺は、床に映し出された魔方陣を見つめる。
しっかし、良くできてるなこれ。
……ラノベやらでしか見たことのないこの手のクラス転移モノだが、こうして実際に体験してみるとなんだかワクワクしてくる。
これが異世界転移。
……なんだよ、最っ高じゃないか!
「お前、なんでそんなに余裕なんだよ!」
おっと、さっきのモ……守堂くんじゃあないか。
「なんでって……別に異世界転移だろ? 死ぬわけじゃああるまいし」
「……っ! お前……!」
「それにさ」
力のこもった守堂の拳を、どうどうで抑えながら俺は言う。
「……普段から俺なんかよりお前らの方が強そうなんだし、自分らで考えてみたら?」
「うるせぇな! てめぇ何様のつもりだよ!」
そうこうしている内に、またあの声が聞こえてきた。
『はいはい。喧嘩はそこまで。あと十秒くらいしたら召喚魔法の詠唱に移るから』
…………。
「やばいかも」
「どうすんだよ!?」
残り十秒。
さて、この世界に未練は無いわけだし、ここできっぱり切り捨てて転移を待ちわびるとしよう。
『ごー』
残り、五秒。
『よーん』
残り、四秒。
『さーん』
「う、うぅ……どうして、どうして私達が……」
残り、三秒。
一人の女子の泣き声が聞こえる。
『にー』
「まじでどうするんだよ!?」
「もう無理だ! ああ、まだこのやり残した事があったのに……」
残り、二秒。
『いーち』
残り、一秒。
「うわあああ!」
「落ち着け! まだ何か手があるはずだ! 何か……」
「無理に決まって
『ぜろ』
━━……残り、零秒。
「うわっ!」
「いってぇ! 何すんだ、て」
「…………え?」
突如、巨大な爆音と振動と共に、黒く巨大な物質が、俺たちをこの教室ごと、呑んだ。
「やべえ! どうする!」
「もう何しても無駄だよ。諦めよう」
「そんな! 嫌だ! 俺はこんな所で
そんなクラスメイト達の嘆きを聞きながら。
俺たちは、クラスごと異世界へ転移した。
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