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第一話 『想獣』
起ノ惨 咸木フレンズ
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◆◇◆◇◆
「……ふぁあ~……」
俺は欠伸をしつつ寝ぼけながら、閉めきったカーテンを開けた。
春の暖かい朝日が射し込む部屋には、窓越しに見える鳥の鳴き声が聞こえてくる。
布団でも干そうかと、ベランダに出て雲ひとつ無い青空を見上げた。今日は良い日になりそうだ。
…………目下の誰かさんがいなければ。
「なんの様だよ、海桜」
「遅いよユーキ! 何分待ってると思ってんの?」
「いや、お前の家は隣なんだから大人しく待機してろよ。つか、待ってなんか俺は一言も言ってねぇ」
さて。
唐突だがここで、美少女幼馴染というヒロイン枠がある者の特権を挙げていこう!
幼馴染の特権その一!
・家が隣 (近所)である
これは一度は憧れるだろう? だが実際幸せかというと、答えは断じて否!
普段から視線を感じて、逆になんか怖い!
特権その二!
・朝、起こしに来てもらえる
これはまあ、悪くは無いんだが……。
自分の為にわざわざ早く起きてくれるって考えると、なんか罪悪感というか、背徳感がすごいんだよ。そもそも俺、自力で起きれるし。
特権その三!
・一緒に登校できる
これは、全国の男子諸君なら一度は憧れたのではないだろうか?
朝から可愛い女の子と一緒にいれるなんて、幸せだ~って。「俺だっていつもそうだよ」とかいう奴はひとまず爆ぜとけ。
これらを統括してまとめた結果!
…………あんまし幼馴染も楽じゃない……。
「ったく、迷惑かける訳にもいかねぇし、さっさと着替えるか」
そう言いながら、俺はシャツに手を掛ける。
着替え終えたら、次は階段を降りてリビングへ。
そこにいたのは━━
「おはよー。兄ちゃん」
サラッと伸びる茶髪を揺らし、俺の元へやって来たのは、俺の妹、咸木遥。
人前では、清楚さを醸し出しながら誰にでも笑顔で振る舞うおしとやかな性格。
しかし、忘れてはいけないのが、こいつは俺の妹だということだ。
実際は、見せかけの笑顔を武器に、多くの男を利用しまくるという、大分性格に難がある少女だ。
彼女曰く、
『男なんて所詮道具だよ』
とのこと。
「今日はなんか急いでるけど……遅刻?」
「いや、家の前に海桜がいるだけだ。それ以外は至って普通だよ」
「なんで呑気に朝食を食べようとしてんのさ。入ってもらえば良いのに」
「いや、色んな意味でめんどくせぇよ……」
そう愚痴を溢しつつ、俺は玄関へ向かった。
そのままドアを開け、
「まだ時間に余裕はあんだし、入ってろよ」
「お邪魔しまーす! あ、おはよう遥!」
「うん。おっはよー」
僅かに妹のテンションが上がる。
ここ最近はお互いに忙しくて、二人とも会えてなかったからな。久しぶりに会えて嬉しいんだろう。
お気づきの方も多いだろうが、俺の両親は仕事で家にいない━━と思ってくれて構わない。
実際にはたまに帰ってくるのだが、両親は仕事場がそう遠くないため、夜遅くまで仕事をして帰ってくるのだ。つまり、家にいる時間の大半は俺と遥の二人きりだ。まさにラブコメ状態。
「最近どう?」
「んー、別に変わった事は無いかな。兄ちゃんがだらけすぎなだけだよ」
「おい。さりげなく最近の兄事情を暴露するな」
「こら、ユーキ。あまり遥に迷惑かけちゃだめだよ。アンタも少しは手伝いなさいよね?」
「わ、分かってるよ。でも、だからってお前は関係無いだ……」
「や・り・な・さ・い」
「…………はい」
「━━おっと、兄ちゃんが食器洗いをするのなんて二ヵ月ぶりくらいかな?」
「具体的に記憶しすぎだろ」
「うん、これでよし!」
大人しく食器を洗う俺の姿を見て、笑顔の海桜。
相変わらず、俺に対して厳しい女だ。俺の自業自得なんだがな。
「それじゃあ、行こっか」
咸木家から歩くこと数十分。
住宅街の中でひときわ目立つその建物こそが、全国レベルの有名高━━榮原高等学校。通称榮原高校。
ずば抜けて偏差値が高いわけでも、スポーツが強いという訳でもない。しかしなぜこの学校が有名かと言うとだ。
うちの高校の理事長が、日本でトップの企業の社長で、『ついで』に高校も経営しているだけだ。
「よ、ユーキ!」
「おー、ホワイトか」
ホワイト? なにそれ食えるの?
と思った方の為に説明しよう。
「なんだよ、朝からデートか? 羨ましぃな~!」
この、ムカつく表情で俺をからかってくる男の名は、二年三組の純白真。通称ホワイト。
あだ名の由来は、あいつの本名からある。
『純白真』。見るからに『白』って感じがするだろ? だからホワイト。
成績はもちろん下位━━に思えるのだが、実は優秀だったりする。完全なるGAP詐欺。つっても中の上だけどな。
俺と海桜とは去年同じクラスで、当時お調子者だった性格は今もなお健在である。それどころか、より一層キレが磨かれている。
「相変わらず思い込みが激しいな。そんなんじゃねえよ」
「あ、そうなの? ま、別に良いんだけど」
こうして人の事情に深く踏み込んでこないことも、俺のホワイトに対する評価が高い理由でもある。
「と、そうだホワイト。お前、青春を見なかったか?」
「青春? あー、ユーキ達と一緒のクラスの子か。見てないな」
ま、そうだよな。直接、会いに行った方が早い。
「あの娘もかわいいよなー。……俺もユーキみたいに、美少女に囲まれてみたいぜ」
「なっ……、び、美少女って……」
ホワイトの発言に、直接言われている訳でもない海桜がなぜか顔を赤くし始めた。
おい馬鹿。お前のせいでまた面倒くさくなるだろが。
「あー、俺もかわいい幼馴染とか欲しいぜ」
「かっ! かわいい、幼馴染……」
お前、狙ってるだろ。ありえない程赤面してるよ。どこぞのダンス&ボーカルグループの一員並に関メンだよ。
しかし、どうしてこいつはそんなに恥ずかしがっているのだろう? 大体は気づいてるけど。
けどさ、ホワイトは一言も「海桜」とは言ってないよな?
はぁ……。このままだと色々と面倒くさいし、そろそろ止めるか。
「じゃあなホワイト。また後で」
「おう、んじゃな~」
「じ、じゃあねホワイトくん」
「ああ、じゃな」
この二人の間には、決して恋愛的な関係は築かれていない。
それなのに、どこか二人とも妙な接し方をしている。
不思議なコンビだ。
「しかし、青春の奴どこに……あ」
「あれって、水憑じゃない?」
俺達から数十メートルほど先の廊下で、友達と楽しそうに話し込んでいる少女━━青春水憑あおはるみづきだ。
「……あ、海桜! それに、ユーキくん。おはよう」
青春は俺達の姿を見つけると、話している友達とは別れこちらへやってきた。
青いショートの髪を揺らしながら向かってくるその様は、まるで水の女神のようだった。
「おはよう、青春」
「おっはよー! 水憑!」
どんな接し方だ。テンション高すぎだろ。
「どうしたの? こんな所で」
「そうそう。青春って━━ぐはっ!」
「バカ。バレるでしょ」
「いや、だからって殴らなくてもよくね?」
確かに、今のは俺のミスでもあるが、思いっきり腹を殴るのはどうかと思うんだが?
おや。なんだか海桜が俺の前に手を出したではないか。
ここは私に任せろ的な?
まあ、俺よりは自然にやってくれると……
「な、なんでもないよーそ、その、たまたま通りかかっただけー。うん。本当だよ」
━━全っぜん自然じゃねぇ!
自然とはかけ離れた演技じゃねぇか! あれでいけると思ったの?
そして、そのドヤ顔を今すぐやめろ。すげぇぶん殴りてぇ。
「え、えーっと……?」
戸惑とまどっている。それはもう、かつてない程壮大に戸惑っている。
仕方ない、なんとかするか。……ん?
なんか、俺の背中をモールス信号が伝っている気がするんだけど……。
ツートントン。
『どうやって誤魔化ごまかす?』
「あア!? 知るかボケ!!」
と、どこかのレベル5の様に俺も叫んでみたいものだ。いっそこいつをベクトル変換してやりたい。
『とりあえず何か言っとけ』
さて、今度は何がくる? ツートントンツートンツー。
『ふざけんじゃないわよ! アンタが言いなさいよ!』
どこぞの超電磁砲みたいな口調だな。
おっと、連続して送られてきた。
『私、こういうの苦手だからアンタに任せた。適当に誤魔化ごまかして!』
『ふざけんな。幻想殺すぞ』
はぁ~あ……。面倒くせぇ……。
「そうだ青春。一緒に教室まで行こうぜ。ついでに、訊きたい事があるんだけど……」
どうだ海サカ! この状況を打破した上に、あの質問をする機会を設けてやったぞ!
これはもう、一週間は俺に感謝しなきゃ済まないな!
「あ、琴音! おはよう。愛子もおはよう!」
テメェどこ行ってやがんだクソアマァアア!!
なんで? 俺、超ナイスフォローしたよな!? どうしてこんな事に……。
いやでも、待てよ?
「それじゃあ、教室に行こうよ」
━━今まで一度も二人きりになんてならなかった俺らが、こうして一緒に歩いている。
これは、結果としてはプラスの方向に向かっているぞ!
「……なんか、こうして二人で歩くのって、何気に初めてだよな」
「言われてみれば……確かにそうだね」
うんうん。良き。実に良き!
この流れなら、青春の好きな人について何か聞き出せるかも━━
「わぉ! ユーキと水憑が二人きりだ! なになに、二人共付き合って━━」
「ねぇよ! バカ!」
ほんっと、なんなのコイツ!? どうしてそこまでして俺を追い詰める?
「そ、そんなんじゃないよ!」
青春、その鉄板的な否定の仕方は控えてくれ。勘違いをウェルカムする。
「何をしてんだお前は!?」
「ちょ、声が大きい!」
「あ、ごめん。つい大声が」
「まあまあ。私にいい考えがあるから、そこで見てなさいよ」
何をする気か知らんが……。怖じ気づいてさっきみたいな失敗だけはするなよ。
もっとこう……大胆にいけ!
「あっれぇ? 確か水憑には他に想い人がいるんじゃないの?」
大胆すぎるだろぉがぁあ!!
「ち、ちょっと海桜!」
「まあ大丈夫。誰にも聞かれてないって」
「ほ、本当?」
「本当本当。ね、ユーキ。私達の会話、聞こえた?」
バッチリ聞こえてました。
「い、いや、全然……」
「ほらね?」
「な、なら良かった……」
で、この会話になんの意味があったんだ?
とりあえず、言質はとれたけど……。
その後、教室に向かった俺達は、HRから四限目までの午前中の授業を終え、とうとう昼休みがやってきた。
「さて、いよいよ昼休みになった訳だが……」
昼休みの時間は限られてくる。明日もチャンスはあるのだが、できることなら今日で大体の仕事は終わらせておきたい。
夏休みの宿題は、始めにやる方なのだ。
「海桜、青春の居場所は分かるか?」
「大丈夫。多分あってる」
「それじゃあ、行くか」
「うん」
作戦はこうだ。
海桜の発言から察するに、恐らくあの二人には恋愛以外の裏がある。
そこで、昼休みと放課後の間に、青春と條原しのはらなる人物の居場所をつきとめ、二人の関係について探る、という訳だ。
まあ、海桜は前半の事については知らないから、後半だけ伝えておいた。
「で、どこにいる?」
「多分、最初は友達と学食に。それからしばらくした後、例の男と合うと思う」
「そこからは?」
「二人で移動するんだけど、それはまだ分からない」
「へぇ……」
大まかな予想だけど、大体は解った。
「海桜。あのさ……、痛っ!」
よそ見をした拍子に、目の前の男子生徒一人とぶつかってしまった。
「ごめん……。……っ!」
「なっ……!」
その人物を前に、俺達は唖然として声を出すことができなかった。
「いつつ……あ、ごめんごめん」
「…………」
「どうしたの? 俺、なんか変?」
まさか、こいつは……。
「一応、自己紹介はするね」
「俺は二年二組の條原賢人。……よろしくね」
「……ふぁあ~……」
俺は欠伸をしつつ寝ぼけながら、閉めきったカーテンを開けた。
春の暖かい朝日が射し込む部屋には、窓越しに見える鳥の鳴き声が聞こえてくる。
布団でも干そうかと、ベランダに出て雲ひとつ無い青空を見上げた。今日は良い日になりそうだ。
…………目下の誰かさんがいなければ。
「なんの様だよ、海桜」
「遅いよユーキ! 何分待ってると思ってんの?」
「いや、お前の家は隣なんだから大人しく待機してろよ。つか、待ってなんか俺は一言も言ってねぇ」
さて。
唐突だがここで、美少女幼馴染というヒロイン枠がある者の特権を挙げていこう!
幼馴染の特権その一!
・家が隣 (近所)である
これは一度は憧れるだろう? だが実際幸せかというと、答えは断じて否!
普段から視線を感じて、逆になんか怖い!
特権その二!
・朝、起こしに来てもらえる
これはまあ、悪くは無いんだが……。
自分の為にわざわざ早く起きてくれるって考えると、なんか罪悪感というか、背徳感がすごいんだよ。そもそも俺、自力で起きれるし。
特権その三!
・一緒に登校できる
これは、全国の男子諸君なら一度は憧れたのではないだろうか?
朝から可愛い女の子と一緒にいれるなんて、幸せだ~って。「俺だっていつもそうだよ」とかいう奴はひとまず爆ぜとけ。
これらを統括してまとめた結果!
…………あんまし幼馴染も楽じゃない……。
「ったく、迷惑かける訳にもいかねぇし、さっさと着替えるか」
そう言いながら、俺はシャツに手を掛ける。
着替え終えたら、次は階段を降りてリビングへ。
そこにいたのは━━
「おはよー。兄ちゃん」
サラッと伸びる茶髪を揺らし、俺の元へやって来たのは、俺の妹、咸木遥。
人前では、清楚さを醸し出しながら誰にでも笑顔で振る舞うおしとやかな性格。
しかし、忘れてはいけないのが、こいつは俺の妹だということだ。
実際は、見せかけの笑顔を武器に、多くの男を利用しまくるという、大分性格に難がある少女だ。
彼女曰く、
『男なんて所詮道具だよ』
とのこと。
「今日はなんか急いでるけど……遅刻?」
「いや、家の前に海桜がいるだけだ。それ以外は至って普通だよ」
「なんで呑気に朝食を食べようとしてんのさ。入ってもらえば良いのに」
「いや、色んな意味でめんどくせぇよ……」
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そのままドアを開け、
「まだ時間に余裕はあんだし、入ってろよ」
「お邪魔しまーす! あ、おはよう遥!」
「うん。おっはよー」
僅かに妹のテンションが上がる。
ここ最近はお互いに忙しくて、二人とも会えてなかったからな。久しぶりに会えて嬉しいんだろう。
お気づきの方も多いだろうが、俺の両親は仕事で家にいない━━と思ってくれて構わない。
実際にはたまに帰ってくるのだが、両親は仕事場がそう遠くないため、夜遅くまで仕事をして帰ってくるのだ。つまり、家にいる時間の大半は俺と遥の二人きりだ。まさにラブコメ状態。
「最近どう?」
「んー、別に変わった事は無いかな。兄ちゃんがだらけすぎなだけだよ」
「おい。さりげなく最近の兄事情を暴露するな」
「こら、ユーキ。あまり遥に迷惑かけちゃだめだよ。アンタも少しは手伝いなさいよね?」
「わ、分かってるよ。でも、だからってお前は関係無いだ……」
「や・り・な・さ・い」
「…………はい」
「━━おっと、兄ちゃんが食器洗いをするのなんて二ヵ月ぶりくらいかな?」
「具体的に記憶しすぎだろ」
「うん、これでよし!」
大人しく食器を洗う俺の姿を見て、笑顔の海桜。
相変わらず、俺に対して厳しい女だ。俺の自業自得なんだがな。
「それじゃあ、行こっか」
咸木家から歩くこと数十分。
住宅街の中でひときわ目立つその建物こそが、全国レベルの有名高━━榮原高等学校。通称榮原高校。
ずば抜けて偏差値が高いわけでも、スポーツが強いという訳でもない。しかしなぜこの学校が有名かと言うとだ。
うちの高校の理事長が、日本でトップの企業の社長で、『ついで』に高校も経営しているだけだ。
「よ、ユーキ!」
「おー、ホワイトか」
ホワイト? なにそれ食えるの?
と思った方の為に説明しよう。
「なんだよ、朝からデートか? 羨ましぃな~!」
この、ムカつく表情で俺をからかってくる男の名は、二年三組の純白真。通称ホワイト。
あだ名の由来は、あいつの本名からある。
『純白真』。見るからに『白』って感じがするだろ? だからホワイト。
成績はもちろん下位━━に思えるのだが、実は優秀だったりする。完全なるGAP詐欺。つっても中の上だけどな。
俺と海桜とは去年同じクラスで、当時お調子者だった性格は今もなお健在である。それどころか、より一層キレが磨かれている。
「相変わらず思い込みが激しいな。そんなんじゃねえよ」
「あ、そうなの? ま、別に良いんだけど」
こうして人の事情に深く踏み込んでこないことも、俺のホワイトに対する評価が高い理由でもある。
「と、そうだホワイト。お前、青春を見なかったか?」
「青春? あー、ユーキ達と一緒のクラスの子か。見てないな」
ま、そうだよな。直接、会いに行った方が早い。
「あの娘もかわいいよなー。……俺もユーキみたいに、美少女に囲まれてみたいぜ」
「なっ……、び、美少女って……」
ホワイトの発言に、直接言われている訳でもない海桜がなぜか顔を赤くし始めた。
おい馬鹿。お前のせいでまた面倒くさくなるだろが。
「あー、俺もかわいい幼馴染とか欲しいぜ」
「かっ! かわいい、幼馴染……」
お前、狙ってるだろ。ありえない程赤面してるよ。どこぞのダンス&ボーカルグループの一員並に関メンだよ。
しかし、どうしてこいつはそんなに恥ずかしがっているのだろう? 大体は気づいてるけど。
けどさ、ホワイトは一言も「海桜」とは言ってないよな?
はぁ……。このままだと色々と面倒くさいし、そろそろ止めるか。
「じゃあなホワイト。また後で」
「おう、んじゃな~」
「じ、じゃあねホワイトくん」
「ああ、じゃな」
この二人の間には、決して恋愛的な関係は築かれていない。
それなのに、どこか二人とも妙な接し方をしている。
不思議なコンビだ。
「しかし、青春の奴どこに……あ」
「あれって、水憑じゃない?」
俺達から数十メートルほど先の廊下で、友達と楽しそうに話し込んでいる少女━━青春水憑あおはるみづきだ。
「……あ、海桜! それに、ユーキくん。おはよう」
青春は俺達の姿を見つけると、話している友達とは別れこちらへやってきた。
青いショートの髪を揺らしながら向かってくるその様は、まるで水の女神のようだった。
「おはよう、青春」
「おっはよー! 水憑!」
どんな接し方だ。テンション高すぎだろ。
「どうしたの? こんな所で」
「そうそう。青春って━━ぐはっ!」
「バカ。バレるでしょ」
「いや、だからって殴らなくてもよくね?」
確かに、今のは俺のミスでもあるが、思いっきり腹を殴るのはどうかと思うんだが?
おや。なんだか海桜が俺の前に手を出したではないか。
ここは私に任せろ的な?
まあ、俺よりは自然にやってくれると……
「な、なんでもないよーそ、その、たまたま通りかかっただけー。うん。本当だよ」
━━全っぜん自然じゃねぇ!
自然とはかけ離れた演技じゃねぇか! あれでいけると思ったの?
そして、そのドヤ顔を今すぐやめろ。すげぇぶん殴りてぇ。
「え、えーっと……?」
戸惑とまどっている。それはもう、かつてない程壮大に戸惑っている。
仕方ない、なんとかするか。……ん?
なんか、俺の背中をモールス信号が伝っている気がするんだけど……。
ツートントン。
『どうやって誤魔化ごまかす?』
「あア!? 知るかボケ!!」
と、どこかのレベル5の様に俺も叫んでみたいものだ。いっそこいつをベクトル変換してやりたい。
『とりあえず何か言っとけ』
さて、今度は何がくる? ツートントンツートンツー。
『ふざけんじゃないわよ! アンタが言いなさいよ!』
どこぞの超電磁砲みたいな口調だな。
おっと、連続して送られてきた。
『私、こういうの苦手だからアンタに任せた。適当に誤魔化ごまかして!』
『ふざけんな。幻想殺すぞ』
はぁ~あ……。面倒くせぇ……。
「そうだ青春。一緒に教室まで行こうぜ。ついでに、訊きたい事があるんだけど……」
どうだ海サカ! この状況を打破した上に、あの質問をする機会を設けてやったぞ!
これはもう、一週間は俺に感謝しなきゃ済まないな!
「あ、琴音! おはよう。愛子もおはよう!」
テメェどこ行ってやがんだクソアマァアア!!
なんで? 俺、超ナイスフォローしたよな!? どうしてこんな事に……。
いやでも、待てよ?
「それじゃあ、教室に行こうよ」
━━今まで一度も二人きりになんてならなかった俺らが、こうして一緒に歩いている。
これは、結果としてはプラスの方向に向かっているぞ!
「……なんか、こうして二人で歩くのって、何気に初めてだよな」
「言われてみれば……確かにそうだね」
うんうん。良き。実に良き!
この流れなら、青春の好きな人について何か聞き出せるかも━━
「わぉ! ユーキと水憑が二人きりだ! なになに、二人共付き合って━━」
「ねぇよ! バカ!」
ほんっと、なんなのコイツ!? どうしてそこまでして俺を追い詰める?
「そ、そんなんじゃないよ!」
青春、その鉄板的な否定の仕方は控えてくれ。勘違いをウェルカムする。
「何をしてんだお前は!?」
「ちょ、声が大きい!」
「あ、ごめん。つい大声が」
「まあまあ。私にいい考えがあるから、そこで見てなさいよ」
何をする気か知らんが……。怖じ気づいてさっきみたいな失敗だけはするなよ。
もっとこう……大胆にいけ!
「あっれぇ? 確か水憑には他に想い人がいるんじゃないの?」
大胆すぎるだろぉがぁあ!!
「ち、ちょっと海桜!」
「まあ大丈夫。誰にも聞かれてないって」
「ほ、本当?」
「本当本当。ね、ユーキ。私達の会話、聞こえた?」
バッチリ聞こえてました。
「い、いや、全然……」
「ほらね?」
「な、なら良かった……」
で、この会話になんの意味があったんだ?
とりあえず、言質はとれたけど……。
その後、教室に向かった俺達は、HRから四限目までの午前中の授業を終え、とうとう昼休みがやってきた。
「さて、いよいよ昼休みになった訳だが……」
昼休みの時間は限られてくる。明日もチャンスはあるのだが、できることなら今日で大体の仕事は終わらせておきたい。
夏休みの宿題は、始めにやる方なのだ。
「海桜、青春の居場所は分かるか?」
「大丈夫。多分あってる」
「それじゃあ、行くか」
「うん」
作戦はこうだ。
海桜の発言から察するに、恐らくあの二人には恋愛以外の裏がある。
そこで、昼休みと放課後の間に、青春と條原しのはらなる人物の居場所をつきとめ、二人の関係について探る、という訳だ。
まあ、海桜は前半の事については知らないから、後半だけ伝えておいた。
「で、どこにいる?」
「多分、最初は友達と学食に。それからしばらくした後、例の男と合うと思う」
「そこからは?」
「二人で移動するんだけど、それはまだ分からない」
「へぇ……」
大まかな予想だけど、大体は解った。
「海桜。あのさ……、痛っ!」
よそ見をした拍子に、目の前の男子生徒一人とぶつかってしまった。
「ごめん……。……っ!」
「なっ……!」
その人物を前に、俺達は唖然として声を出すことができなかった。
「いつつ……あ、ごめんごめん」
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