ヒツネスト

天海 愁榎

文字の大きさ
9 / 9
第一話 『想獣』

承ノ伍 咸木エネミィ

しおりを挟む
 ◆◇◆◇◆


『想獣狩り』開始からおよそ二時間。
 流石に数が多すぎるため、俺は身を隠そうと廃ビルへと向かった。
「くそっ! ここもかよ……!」
 行く先々に待ち伏せる想獣。
 様々な形をしたバケモノ達が、刀一つの俺へと集まってくる。
「¢¢Å㎜‰‰」
「㏍"∮"№£"」
「何つってんだよ! ったく、日本語喋りやがれ!」
 前から。後ろから。右から。左から。
 想獣一体一体が、俺を取り囲む壁のように見えてくる。
「ぐっ! おるぁ! は、早く終わってくれ…………いっつぅ!」
「㏍㏍‰‰㎜㎜」
「てんめぇ……!」
 煙が吹き荒ぶ。
 大風が巻き起こる。
 斬られた想獣は、徐々に消えていき、そして新たに増え続ける。

「はあ、はあ、はぁ…………」
 その後、何とかビルの一室に侵入できた俺は、解決の糸口を探す事にした。
「…………しっかし、どうすっかな……」
 早めに答を出さなくては。
 いずれあいつらにバレる……。それまでに何とかしねぇと。
 いつも以上に思考を巡らせる俺は、ある疑問に気付く。

 ━━そもそも、どうしてアイツはこんな事に巻き込んだんだ……?

 断言して良い。確かに俺はあの日、きっぱりと断ったはずだ。
 疑いのある方達は、ぜひとも話数を戻って欲しい。『起ノ壱 咸木フレンズ』にてその会話シーンがあるはずだ。
 さてと、冗談はほどほどにして……。
 だとしたら、アイツは強引にこっちの世界に引き込んだりはしな…………、ん?
 ん?

 こっちの世界・・・・・・

 俺は慌てて周囲を見渡した。
 スマホを確認すると、今の時間は夜の八時。
 この時間帯なら、外に人がいてもおかしくないはずだ。
 いるにはいるが、人のように見えるそれはどれも想獣バケモノだ。

 要するに。
 ここは『異世界 (異空間)』で、俺がいくら助けを呼んだ所で、誰も駆けつけて来ない…………!
「……すーーっ」
 俺は勢いよく息を吸い込み━━















「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」















 天地を震わせる声を轟かせた。
「「「………………!」」」
 無人の世界に響き渡った咆哮は、ガラスを割らんばかりの勢いで広がった。
 その声に反応した想獣が、一斉に俺のいるビルへと向かってくる。
 やっべぇー! バレちまった!
 どうする? このまま残って戦うか? それとも、決死の覚悟で地上20mから飛び降りるか?

 考えろ! 考えるんだ、俺……!

 が、そんな一瞬で考えがまとまるはずもなく。
 五体程の想獣がかける圧力によって、古びたドアはいとも容易く打ち破られる。
「ちッ……」
 振り向けば壁。前を向けば迫り来るバケモノ。
 マジでやばいぞこれ……。壁でもぶち破って逃げるか? まずあの得たいの知れないやつらと接触するのだけは避けたい……。
 ちっくしょぉあの野郎……、思い出したらなおさら腹が立ってきた。
 女子供なんて関係ねぇ。後で一発かましてやらないと。
 ギリ……と歯軋りをあげ、拳を強く握った俺は、あることに気がついた。
 自分の右手が持つ、あの業物の存在に。

 ━━━━…………!

 そうだ。この刀は想獣を狩るための物。
 そして、相手はその想獣だ。今更何を恐がる必要がある。
「そうだよ……! ビビる必要なんてねぇんだ」
 相手は霊でもなければ、人間でもない。
「だったら……」
『想殺花』を握る力が、一層強くなる。
 そのまま、目の前ののバケモノ達へ。
 一歩。大きく一歩を、踏み出した。

「━━たたっ切っちまえば、問題ねぇ!」


 大体何なんだ、ここ最近俺の周りで起こる出来事は!
 不良に絡まれたと思ったら美少女に助けられて? 幼馴染からの相談で知らないやつに殴られて、そのうえ追い回されて! 異空間こんなトコにまで連れてこられて、刀一本でバケモンの群れと戦えだぁ?
「なんつーハードスケジュールだ! 売れっ子芸能人も真っ青だわ!」
 本当、小説を書く時間も削られてるんだよ! って、こっち・・・の話はどうでもいいか!
 まあ、とりあえず、日頃溜まりにたまった怒りに任せ刀を振り回しながら、俺はどこへともなく駆けた。
「はぁ、はぁ……」
 辺りが大人しくなったのを確認し、その場に腰かける。
「……つーか」
 深くため息を吐き、一言。

「━━想獣狩りこれって、いつになったら・・・・・・・終わるんだ・・・・・?」

 くよくよしない。よくよく考える。
 とりあえず落ち着こう。落ち着ける体勢になって……。
 と、いうことで。
 とりあえず、街の大通りのど真ん中に大の字になって寝そべってみたり。
「………………」
 空を見上げる。そして、ため息を吐く。
「…………つーか、空ってこんなに黒かったっけか……?」
 今はそんなこと、どうだって良い。
 思考を巡らせる。
 まず、ここは異空間。現実世界ではないため、自力での脱出は不可能。
 そして、俺をここへ呼び出したであろうヒツネの姿が見当たらない。
 ある程度想獣を狩ったら戻ってくるのだろうか。はたまた、俺のことなど目もくれずここに閉じ込めるつもりなのか。
 どちらにせよ、奴を信じて情報を鵜呑みにした俺がバカだった。
「はぁ……」
 またやっちまったよ……。
 ━━━━何をバカみたいに本気にしちゃってんの? ウケるんだけど!


「……他人なんて、信用できるかよ」


 違う。こんなの、今考える事じゃない。
 せめて、誰かに助けを乞わなきゃ━━。
「おーい。ヒツネー」
「なに?」
「うおっ!」
 冗談混じりで呼び掛けた瞬間、俺の眼前に人影が現れた。
 腰まで伸びる銀髪をたなびかせながら、その場に立つ少女の名は━━

「ひ、ヒツネ!? どうしてここにいるんだよ!?」
「どうしてって、ユーキが呼んだんでしょ? だから来たのに、変なの」
「いや、普通ここは俺が自力で何とかする展開だろ! どうしてお前が来ちゃうんだよ! 来てくれちゃってるんだよ!」
「何だかよく解らないけど……、なら、元の世界に帰ろうか? 私だけ・・・
「何をどうしたら自分だけ戻るという考えに至れるんだ!俺も連れてけよ!」
 激昂する俺に、ヒツネは。
「無理だよ。…………だって」
「あ? だって何だって言うんだよ?」

「━━……『想獣狩り』最中のソビトは、元の世界には戻れなくなるから」

「……は?」
 目の前の少女は今、何と言った?
「一つ、いやたくさん確認させてくれ。まず、その、ソビトっていうのは想獣を倒す人だろ? だとしたら俺、ソビトでもなんでも無いんですけど……」
「なに言ってんの? ユーキ、あなたは立派なソビトだよ!」
「ならその肩書きに(仮)って付けてくれないか? もしかして俺……もうそういう事になってるの?」
「『想獣狩りこんなこと』やってる時点で常人じゃ無いことは承知?」
「あ、やっぱりお前も認めてるのね」
 だって、自らの生業なりわいとしている仕事をこんなこと呼ばわりだもんね。
「とにかく、ある目的・・・・を達成しない限りはここからは出られないと思った方がいいよ」
「ある目的……? 何なんだよ、それ?」
 よくぞ訊いてくれました! とヒツネは。
「…………━━想獣のボスを倒す事だよ」


 案外ゲームみたいだな、これ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」 高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。 そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。 見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。 意外な共通点から意気投合する二人。 だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは―― > 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」 一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。 ……翌日、学校で再会するまでは。 実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!? オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...