最強魔剣士が今更だけど魔法学校に通います

うずら

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4 アルスと委員長

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 魔法訓練所で行われている魔法実技は、残るところアルス一人で終了となっていた。

 魔導を極めし者と呼ばれ、数多くの魔族や魔獣を屠ってきたアルス。そんな彼にとって、火球ファイアボールなど児戯に等しい魔法だった。

 そう、ただ撃つだけならば。

「早く撃ちなさいよ、授業終っちゃうでしょ……」

「ふぇふぇふぇ、そんなに急かしたら可哀そうだよ」

 委員長はいらいら、ローザ先生はのほほんと、アルスの様子を見守っている。

「もう少しだけ待ってくれ」

 実は魔法というものは、その威力を抑えることの方が意外と労力を使う。

 アルスはケタケタと笑う生きた案山子リビングスケアクロウに向かって右掌をかざし、魔力の流れをイメージする。
 可能な限り魔力を抑え、周囲に被害が及ばぬよう威力を最小限にまでとどめようとする。

「……火の精霊よ、飛弾となりて敵を燃やせ、火球ファイア・ボール!」

 単節詠唱でも発動できるのだが、ここはあえて教科書通りの3小節で詠唱。

 次の瞬間、標的の案山子が直径10メートルほどの巨大な火球に飲み込まれた。
 地面が融解し、巨大なクレーターが生じ、熱波が頬を撫でる。

 火球はそのまま天を貫くような火柱となり、空高く燃え上がった。

「なっ、何だあの巨大な火柱は!?」「ま、まさか転入生がやったの!?」「そんな訳ないだろ! あんなの火球の威力じゃないだろ!」「きっと魔族の襲撃だ!」「嘘!? 戦争ってもう終わったはずでしょ!?」「未だ和平反対派の魔族残党がテロ活動を行ってるって噂だぜ!?」「くそ、魔族のテロリストめ! よくも俺たちの学校を!」

 多くのクラスメイトが巨大な火柱を見上げ様々な憶測を語る中、委員長とローザ先生だけは、火柱を発生させた張本人である人物を見ていた。

「嘘……何なのこの魔力量……ありえないわ」

「今年は面白い生徒が転入してきたね。ふぇふぇふぇ」

◇◇◇

 昼休み。

 委員長ことノエル・エトワールは、幼馴染と共に、高級カフェのような小洒落た造りの学生食堂に足を運んでいた。
 王立ソフィア学院は、学生の7割が貴族出身ということもあり、学食のメニューもまたそれ相応の充実したものとなっている。

 実際この食堂を利用する生徒の殆どが貴族出身で、平民の生徒は教室や校庭で昼食を食すのが暗黙《ルール》の了解となっていた。
 
「ねえねえノエル、今日のおすすめメニュー美味しそうだよ~」

「……え? うん、そうね」

「どうしたの、何か考え事してた?」

 ノエルの幼馴染は、不思議そうにノエルの顔を覗き込む。

「うーん、ちょっとね、気になることがあって――」

「もしかして、ノエルのクラスに転入してきたって言うアルスくんのことかな~?」

「な! ち、違うわよ!」

 ノエルは即座に否定したが、あながち間違った指摘とは言えない。
 正確には、アルスの異常なほどの魔力量が気になっていたのだが。

「おや? 委員長じゃないか。奇遇だな」

 ノエルが声のした方を振り向くと、アルスがいた。

◇◇◇

「ふむ、なかなか美味いな。特にこのレッドドラゴンの角煮が秀逸だ」

 今日のおすすめメニューのレッドドラゴン角煮定食に舌鼓を打つアルス。
 本来ドラゴン族の肉は鋼のような筋繊維で、常人が噛み切れるような代物ではない。
 それをホロホロな柔らかさに仕立て上げているのだ。よほど腕の立つ料理人がこの食堂にはいるのだろう。

「……ねえアルスくん、なんであなたが私達と一緒に相席してるの?」

「仕方がないだろう、空いているテーブルがここしかなかったのだからな」

「それはそうだけど……」

 ノエルにとってアルスは、多少は気になるが、今日知り合っただけのただのクラスメイトでしかない。
 それなのに、こちらの許可もなく相席してくるアルスの神経が少し理解できなかった。

「え~? 私は全然気にしてないよ」

「ん? そういえば君は、俺たちのクラスの生徒ではないな?」

 アルスは、ノエルの横に座っている見慣れぬ白桃色のショートカットヘアの女子生徒を見てそう質問した。

「えっとね、私は2年C組のイズナ・ネクター。ノエルの幼馴染だよ。よろしくねアルスくん!」

「ほう、俺の名前を知っているのか?」

「うん、アルスくん学校中ですごい有名人だよ~? 転入早々教室で刃物振り回した超危険人物だって」

「ちょっと、イズナ!?」

「いや、剣を構えただけで振り回してはいないが……」

 噂に少々尾ひれがついているようだが、尾ひれがついてなくても十分危険人物だという自覚はアルス本人にはなかった。

 そんな危険人物に気さくに話しかけるイズナに、ノエルは気が気でならない。

「そ、そんなことよりアルスくん、さっきの訓練場の出来事なんだけど、あれって、あなたの仕業よね?」

 取りあえず話題を変えようと、ノエルは咄嗟に気になっていたことを質問する。
 例の謎の火柱事件の事だ。

 しかし返ってきた言葉は、意外なものだった。

「ああ、確かにあれは……俺も少しやりすぎたと反省している」

 しばしの沈黙の後、ノエルに向かい深々と頭を下げるアルス。

 てっきり、人の神経を逆なでする言葉を返してくると思っていたノエルは拍子抜けである。

 一方のアルスの表情は真剣そのもの。
 学院内で揉め事を起こさないと誓った矢先にあの火柱事件だ。クラスメイトに被害こそ出なかったものの、騒ぎを起こしてしまったことに少し後ろめたさを感じるアルスだった。

「何で謝ってるの? あなたは自分の魔法の実力を示そうとしただけでしょ?」

「だが、クラスメイト達を驚かしてしまったのは事実だ……」

「別に気にしてないと思うわよ、多分」

 気にする気にしない以前に、あの火柱がアルスの魔法だという事実に気づいているのは、クラスメイトの中ではノエルただ一人だった。

 それに、確かにノエルは揉め事を起こすなと注意はしたが、それは突拍子もない行動や言動を慎めという意味で言ったまでの事。
 例えそれを差し引いても、優秀な魔導士がいると言うのはクラスにとっても大きなメリットとなる。

 それにこうして話してみると、言葉遣いはアレだが、意外と素直な一面もある事に気づかされる。

 少しづつだが、アルスに対するノエルの評価が変わりつつあった。





「なんであの平民が当たり前のように食堂を利用しているんですの? 本当に不愉快ですわ……」

 3人の様子を取り巻き達と共に遠くから眺めていたエリーゼ・ダウンフォールは、吊り上がった目でアルスを睨んでいた。

 彼女にとって平民とは、この学校のカースト最下層に位置するゴミのような存在。
 分不相応な振る舞いをするアルスは、エリーゼにとって我慢ならない存在だった。

「このままあの陰キャに舐められっぱなしで良いんですかエリーセさま?」

「そうっスよお嬢! やっちゃいましょうよ!」

「ええ、わかってますわ、でも今はまだやるときではありません。放課後……学校の外でなら、幾らでももみ消しができますわ」

 そう言いながらエリーゼは、不吉な笑みを浮かべた。
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