最強魔剣士が今更だけど魔法学校に通います

うずら

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7 委員長と魔族

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 廃屋から脱出したノエルたちは、ミストレア郊外にある森の中を街に向かって逃走していた。

「何なのよ、この無駄に広い森は!?」

 森の中を走りながら、辟易した様子で愚痴るノエル。
 身体強化フィジカル・エンチャントによる能力ステータスの底上げで、息切れすることなく全力疾走を維持している。

「ここは没落した貴族の敷地だった場所ですわ。人がほとんど来ないので好都合だと思ったんですけど、まさか魔族の先客が寝泊まりしていたなんて、私もびっくりですわ」

 一方、先頭のエリーゼは浮揚リフトの魔法で宙に浮かび、傘をさしながら優雅に逃走。
 最後尾の取り巻き二人は、ゼイゼイ言いながら必死で彼女たちの後ろをついてくる。

「まったく、なんで私がこんな目に……」

 ノエルの口から、自然とそんな言葉が漏れてしまった。

 本当なら、今頃は家に帰って魔導書で勉強をしたり若者向け大衆小説を読みながらくつろいでいるはずだった。
 それがエリーゼの勘違いでアルスを呼ぶための人質にされ、何故か偶然現れた魔族に追われる羽目になっている。
 そう思うと自然と怒りが湧いてくるノエル。

「いたぞ! あっちだ、追え!」

「嘘、もう追いつかれたの!?」

 ノエルたちが後ろを振り返ると、後方からフード付きのローブを着た魔族の男たちが、ノエルたちを逃すまいと追いかけてくるのが見えた。

「しつこいですわね! これでも喰らいなさいですの! ――火球ファイアボール!  ――火球ファイアボール!  ――火球ファイアボール!  ――火球ファイアボール!」

 エリーゼは浮遊しながら身体ごと後ろを向き、追手たちに向かって黒傘をマスケット銃の様に構え、その先端から火球を連続して放つ。

 しかし魔族たちは、そのことごとくを難なくかわしてしまった。

「ちっ、全然当たりませんの!」

「相手は案山子じゃないのよ、そう簡単に当たってくれるわけないじゃない! 氷と風の精霊よ、吹雪となって舞え、氷嵐アイスストーム!」

 ノエルは走りながら後ろを振り向き、初級範囲魔法の氷嵐を詠唱。
 無秩序に舞う無数の氷塊が魔族の追っ手を襲う。

 流石の魔族も範囲攻撃はかわし切れず、再び足止めを喰らい、ノエルたちとの距離が開いていく。

「ひい、ひい、も、もうすぐ出口っスよ! このまま逃げ切れれば後は憲兵に報告すれば!」

 取り巻きの一人が言う通り、遠くに街の灯りが見えてくる。

「おっと、残念だったな、そいつはさせないぜ?」

 突如、ノエルたちの上空からくぐもった野太い声が聞こえた。

「上!?」

 ノエルたちが空を見上げると、一瞬巨大な影が空を横切り、彼女たちの行く手を遮るように地面に降り立った。

 全長6メートルはありそうな巨大な飛竜ワイバーン、その背には先ほどの魔族の巨漢が騎乗していた。

 氷嵐で足止めを喰らっていた他の魔族たちもいつの間にかすぐ後ろに追いついてきて、ノエルたちは完全に逃走経路を失ってしまった状態だ。

「ったく、お前ら、こんなガキ共すら始末できないのかよ。あとで再教育だな――さてと」

 自分の部下たちに視線を移してそう言った後、再びその赤い眼光をノエルたちに向け、牙を剥きだしにしながらニヤリと笑う巨漢。
 その手には赤い長剣ロングソードが握られている。

「も、もう少しで森を抜けられましたのに……!」

 相手はテロリストだ、人前に姿を晒すのは極力避けたいはず。
 森を抜けて街にさえ出られれば迂闊に追ってこれまいと思っていたエリーゼは、空中で地団駄を踏む。

 しかしまだノエルは諦めていなかった。
 彼女は右手を目の前の敵に定め、ありったけの魔力を込めて呪文を詠唱する。

「まだよ! 諦めないで! 私が隙を作るから一斉に街に向かって逃げて! ――氷の精霊よ、氷柱の槍となりて、我が敵を貫け、氷槍《アイスジャベリン》!」

 次の瞬間、巨漢の乗る飛竜――その巨大な眼に向かって閃光のような勢いで氷の槍が放たれる。

 ノエルにはこの場を何とかできる確信があった。自分がこの四人の中で一番優秀な魔法使いという自負が少なからずあったからだ。 
 現に魔導学院の2年生の殆どが初級魔法しか習得していない中、彼女はその魔法の資質と絶え間ぬ鍛錬によって中級魔法までを習得していた。

 今放った氷槍もそんな中級攻撃魔法の一つ。例え倒せなくても防御力の無い目を狙えば、飛竜が暴れて逃亡の隙を作るくらいはできるだろう――しかしそんな期待も、あっさりと打ち崩された。

 ノエルの放った氷の槍は、飛竜の眼を貫く前に、巨漢の持つ長剣によってあっさりと弾かれた。

「そんな……!?」

 最大魔力で放った攻撃をいともたやすく蹴散らされ、全身の力が抜け落ちるノエル。
 その様子を見ていたエリーゼたちも、その表情は絶望の色に染まっていた。

「まさか中級魔法も使えるとは、人間のガキにしては優秀じゃねえか、だがな、その程度の魔法、戦場じゃ普通に飛び交ってる蠅みたいなもんよ。どれ、俺が本当の魔法ってもんを見せてやるか」

 そう言って飛竜に乗った巨漢は、赤い長剣を天に掲げて呪文を単節詠唱する。

「くははっ! 全てを喰らい、焼き尽くしやがれ! ――炎龍召喚サモン・サラマンダー!」

 赤い剣が更に赤く輝き、次の瞬間、その切っ先から渦巻く炎が立ち昇り、巨大な炎龍《サラマンダー》が出現する。

 上級召喚魔法、炎龍召喚サモン・サラマンダー
 その炎の精霊龍は、意思を持つかのようにうねり、螺旋を描きながらノエルたち四人をその炎の身体で巻き囲む。
 炎龍の身から放たれる輻射熱がジリジリとノエルたちを襲い、まるで巨大な窯に閉じ込められたような絶望と死の予感が四人を支配する。

 回転を増しながら急速にその身を狭めていく炎龍。最早これまでかと思われたとき、その炎の牢獄の中に自ら飛び込む一人の漆黒の影があった。

 ノエルたち四人の目の前に飛び込んだその少年は、ゆっくりと立ち上がり呪文を詠唱する。

「水の精霊よ、水塊となりて降り注げ、水弾ウォーター・ブリッド!」

 次の瞬間、巨大な水の弾が上空で弾け、大瀑布の如き水流が炎龍に降り注ぐ。

 膨大な魔力を伴った水流をその身に受け、地面をのたうつミミズの様に炎龍は消滅した。

「……無事だったか委員長?」

 その黒い髪の少年は、ノエルに向かってそう言った。
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