最強魔剣士が今更だけど魔法学校に通います

うずら

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8 龍魔導士

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「てめぇ……何者だ」

 飛竜に乗った魔族の巨漢は、突如乱入した少年に向かって、警戒した様子でそう問いかける。
 見た目だけならこの場にいる誰よりも弱そうだが、こいつは他のガキ共とは違う、どちらかというとこちら側・・・・の存在だ――彼は先程の魔法を見てそう直感した。

「……お前たちこそ何者だ? 見たところ魔族のようだが?」

 少年は、鋭い眼光で睨み、巨漢に向かってそう冷たく言い放つ。

 その黒髪の少年は、制服の上に漆黒の外套を纏い、白磁のように輝く双剣を携えていた。

「え、君、アルスくん……よね?」
 
 ノエルは少年の顔を見てそう問いかけた。
 冴えない髪型にいつも通りの口調、しかしその雰囲気は学校で感じていた物とはまるで違う。
 学校では中二病気味の冴えない陰キャだった彼が、今は歴戦の戦士のような威圧感を醸し出している。

「ああ、少しだけ待っていろ、すぐに終わらせる」

 アルスは魔族の巨漢を睨んだまま、後ろのノエルたちにそう言った。

「ふっ、囲まれてるってのに随分と余裕じゃねぇか、おい、お前らやっちまえ!」

 巨漢の合図とともにノエルの後方にいた魔族たちと、更に森に潜んでいた伏兵たちが一斉にアルスに襲い掛かる

「遅いな」

 アルスはその場を移動することなく、体を捻るだけで魔族の攻撃を次々と回避し、同時に敵の急所を斬り裂いていった。
 断末魔を上げることなく、次々と崩れるように地に伏せる魔族たち。

 たった一瞬で部下をすべてやられ、この場にいる魔族は飛竜に乗った巨漢ただ一人だけとなった。
 だが巨漢は怯むことなく、何が楽しいのか口元を大きく釣り上げてその牙を剥きだしにする。

 戦争が終わってからというもの、彼は退屈だった。
 やはり兎ばかり狩るよりも、たまにはスリルを求めて狼や熊を狩ってみたい、そんな欲求を常々抱えていた。
 それをこんなところで実現できるとは、部下を失った悲しみよりも優る喜びだった。

「あ~ぁ、貴重な同志共を殺しちまいやがって……これで計画に大分遅れがでちまう。しかし、魔法もすげぇが剣の腕もなかなかじゃねえか、戦場でもここまでの奴にはめったに逢えなかったぜ」

「ああ、これでも魔剣士の端くれなんでな、それよりも――」

 久々の強敵との邂逅で高揚した様子の巨漢に対し、アルスの受け答えは淡々としている。

「――なぜ委員長を、いや、俺のクラスメイト達を誘拐した?」

「ああ? 誘拐だぁ? 一体何のことだ?」

 いきなり思いも因らない質問を投げかけられ、首をかしげる巨漢。

「白を切るつもりか……まあいい、尋問して自白させればいいだけの事だからな」

 実際に魔族は委員長誘拐事件とは何の関係もないのだが、そんなことを知る由もないアルスは、目の前の魔族の巨漢が誘拐犯だと決め込んでいた。

「てめぇ! この俺を殺さずに生け捕りにしようってのか? 炎龍サラマンダーを倒したからって舐めるんじゃねえぞ! ――龍の吐息ドラゴン・ブレス!」

 巨漢は息を大きく吸うと、手に持った赤い長剣に息を吹きかけた。
 次の瞬間、まるで松明に油の霧を吹きかけたように、巨大な火炎がアルスに向かって放射される。
 更に、飛竜も援護するように炎の息をアルスたちに向かって吐きかけてくる。
 二つの炎の息が樹々を撫で、辺り一面が火の海となり、アルスとその後ろにいるノエルたちも炎に飲み込まれたかの様に見えた。

「へへ、どうした? さっさと魔法を詠唱して見せろよ? させねえけどな! ――龍の吐息ドラゴン・ブレス!」

 断続的に龍の吐息を吐き続ける巨漢。
 これだけ火の海にしてしまえば、相手は酸欠状態で呪文の詠唱もままならないだろう、そう考えた巨漢だった。
 しかしその算段は、大きく外れることとなった。
 
「なるほど、その魔法……貴様、龍魔導士ドラゴンメイジか」

「な、なんだとっ!?」

 巨漢の視界の中央、そこにあったのは、平然と立つアルスの姿。
 炎の海が彼を避けるように左右に割れ、その後ろのノエル達も無事だった。

「ちっ、どういうことだ……直撃したはずだ!」

 驚愕の声を上げる魔族の巨漢。
 炎を防ぐ手段があるとしたら水魔法による迎撃か、防御呪文を発動するしかない、しかし目の前のガキ共が呪文を詠唱した素振りなど微塵も見せなかった――そんな一瞬の戸惑いが、一瞬の隙を生んだ。

「今度はこちらから行くぞ――火の精霊よ、飛弾となりて敵を燃やせ、火球ファイア・ボール!」

 アルスは右手を突き出して呪文を詠唱、直後放たれた巨大な火球に巨漢は一瞬怯むが、即座に手に持った長剣を斜めに構え、火球の軌道を反らし直撃を免れた。
 弾かれた火球は、樹々を薙ぎ払いながら地面に着弾、巨大な火柱が立ち昇り、夜空を赤く染め上げた。

「おいおい、何だその馬鹿でけぇ火球ファイア・ボールは、反則だろ!」

 巨漢の両腕が赤く焼け爛れたが、彼は即座に飛竜の手綱を引きアルスとの距離を取るように後退した。

「――影踏シャドウ・ステップ!」

 しかし、アルスは間髪入れず影踏を発動。
 刹那、アルスの姿と気配が消え、次の瞬間巨漢の目の前に跳躍して現れる。

「くっ! ――龍鱗ドラゴン・スケイル!」

 巨漢は咄嗟に龍鱗の魔法を詠唱、その全身を龍の鱗でよろった。
 鋼鉄の剣を弾き炎を遮る龍の鱗、それを突破できる攻撃などそうそうないはずだが、アルスの前には全くの無力だった。

「甘いな、――属性付与エンチャント龍殺しドラゴンキラー!」

 龍殺しドラゴンキラー、龍族に対し恐怖フィアと物理ダメージ増加の効果を持つ魔法。

 龍魔導士は、自身を龍の眷属とすることによって龍魔法ドラゴン・ロアを行使するのだが、魔法を会得し高みに到達するほど、その属性はドラゴンへと近づいていく。

 当然その分、龍殺しの効果も強く受けることになる。

 龍殺しの属性を付与された双剣が、その分厚い胸板を強靭な龍鱗ごと十字に深く斬り裂いた。

「ぐ、ふ……!」

 胸の十字の傷から噴水の様に血を吹き出しながら、魔族の巨漢は飛竜から墜ち、地面に倒れる。
 飛竜も龍殺しドラゴンキラーの効果によって、反撃もできずにただ怯むのみだった。

「急所は外しておいた。お前にはまだ聞きたいことがあるからな」

 アルスは、双剣を鞘にしまい、ノエルに振り向く。

「アルスくん……」

「わ、私たち、助かったんですの……?」

「た、助かったんスよね……?」

「あ、安心したら、あ、脚が……」

ノエルとエリーゼ、そして取り巻き達の四人は、危機を脱したことで一斉に力が抜け、その場にへたり込む。

「ああ、龍殺しの効果が持続し続けている限り、こいつとそこの飛竜は動けない。それにもうすぐ騒ぎを聞きつけた憲兵たちがやってくるだろう。もう安心だ」

 そう語るアルスからは、先ほどまでの威圧感は消え、普段学校見せるのと同じ、冴えない陰キャに戻っていた。

 彼のおかげで助かった――そう安堵するノエルだったが、同時に魔族を躊躇なく攻撃するアルスの姿を思い出し、得も言われぬ恐怖を感じていた。
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