最強魔剣士が今更だけど魔法学校に通います

うずら

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第二章

19 魔族砦に一泊

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 盗賊たちを縄で縛り、鉱石運搬用の荷馬車ワゴンに乗せ、アルスたちは再び魔族砦に向かい出発していた。
 
 盗賊たちの監視は、雇われ冒険者たちに任せてあるので逃走の心配はない。

「いやー、一時はどうなるかと思ったけど、アルスくんのおかげで助かったよ」

 アルベール部長はとても安堵した様子でそう言った。

 アルスが馬車を出て盗賊団の元へ向かった時には、その場にいた者全員が彼の身を案じていた。
 彼の実力の一端を知るノエルとエリーゼもまた、多分大丈夫だろうけど、万が一の事態があったら――と、少なからず心配をしていた。

「盗賊団と言っても、所詮は素人に毛が生えたようなものだからな」

 そんな彼ら彼女らの気苦労を知らず、アルスは別に大したことはないと言った様子で返事を返した。
 実際に盗賊団など、ビヒモスに比べれば蟻のようなもの。例え何百、何千人いてもアルスには勝てなかっただろう。

「しかし、盗賊たちを気迫で負かすとはな、ただの魔法学生にしとくのはもったいない男だ!」

 ドヴァリは樽ジョッキに入ったワインを飲みながら、ほろ酔い気分でアルスを賞賛する。
 よく見たら、いつの間にかドワーフたちが馬車に酒樽を持ち込んで酒盛りをしていた。

「ちょ、ちょっとあなたたち! なに勝手に酒樽なんて持ち込んでるんですの!? 私の馬車が酒臭くなりますわ!」

 ドワーフたちに向かってエリーゼが抗議するが、彼らは全く意に介するつもりがない。

「勝利の祝杯じゃ! まあわしらは戦っとらんけどな!」

「そうそう、細かい事はきにするんじゃねえ! 禿げるぞ!」

「ドワーフにとって、ヴァインなんか水みたいなもんだ」

 それを見たエルフのエレディオンとジョン先輩にミトナが、やれやれという風に苦笑していた。

 賑やかな馬車内、そんな中、ノエルはアルスを横目で見ながら何か考え込んでいる風に見えた。

「どうしたノエル?」

 それに気づいたアルスは、ノエルに声をかける。

「え? う、うん、ちょっとね……」

「気分が悪かったらそこに袋があるぞ」

 そう言ってアルスは、椅子に備え付けられた革袋を指さす。

「別に乗り物酔いじゃないわよ。ただ、なんで盗賊たちを生かしておいたのか気になってて……」

 言うべきか迷ったが、ノエルは疑問に思っていたことを口に出した。
 数日前の魔族との戦闘の時は、彼は躊躇なく魔族の命を絶った。
 しかし今日の戦闘では、盗賊たちを一人も殺さなかった。

 同じ人間だから情けをかけたのか、それとも更生することを期待したのか、ノエルにはわからなかった。

「何だ、そんなことか。別に大した理由じゃない……奴らは、命を奪うのに値しない連中だったからだ」

 戦場で敵を殺すからには、自分も殺されるという覚悟があって当然。
 アルスが手をかけてきた魔族たちには、確かにその覚悟があった。
 しかしあの盗賊たちは、覚悟を持たずにアルスの前に立った。一方的に安全圏から弱者をいたぶる者。
 そのような相手の命を奪うことは、自分のプライドけがす行為だとアルスは考えていた。
 それに彼自身、盗賊に対して特に大きな恨みがある訳でもない。
 然るべき所に引き渡して裁きを受けさせるのが適切だ。
 
 そんなことをかいつまんで説明すると、ノエルは納得したように頷いた。
 彼が何も考えずに命を奪っていたわけではないことを知って、何か心のつかえがとれたような気がした。

「わかったわ。ごめんね、変な事を聞いて」

「別に構わない」

 アルスはそう一言いうと、窓の外の景色に視線を移す。

 すでに夕日が空を赤く染め始め、上空を二匹のワタリガラスが飛んでいくのが見えた。

◇◇◇

 アルスたちの馬車隊が魔族の砦についたのは、すでに日が暮れて辺りが真っ暗になってからの事だった。

 巨大な丸太で組まれた防壁には、戦でつけられた刀傷や突き刺さった矢が残っている。

 砦の門前でアルスたちを出迎えたのは、黒い革鎧に身を包んだ警備兵。
 その肌は青白く耳が尖り、一目で魔族だとわかる外見だった。

「人族がこんな所に来るとは珍しいな。道にでも迷ったのか?」

 魔族の兵警備兵はそう言って気さくに声をかけてきた。
 肌の色に目を瞑れば、人の良さそうなおじさんにしか見えない。

 アルスとドヴァリ以外は、普段思い描いていた魔族のイメージとのギャップにしばし呆気にとられていた。
 魔族の凶悪な面を間近で見たことのあるノエルとエリーゼはなおさらだ。

 アルスは通行許可証を手渡した後、魔族の警備兵にこの砦に来た理由を説明した。


「なるほどな、通行許可証も本物だし、取りあえず積み荷も問題ないようだ。今から門を開けるからそのまま入ってくれていいぞ。中で盗賊の引き渡しを行う」

 アルスの提示した通行許可証を確認した後、警備兵が防壁の上にいる仲魔に向けて合図をすると、巨大な扉がゆっくりと開いていった。

◇◇◇

 アルスたちは、砦の一角にある休憩所に招かれて食事をとっていた。

「いやぁ、本当に感謝します。あの盗賊団には困ってたんですよ。魔族や人間の一般人を見境なく襲うから、我々も何とかしなければと思っていたところでした」

 盗賊たちの引き渡しを終えた後、アルスたちをもてなしたのは魔族ではなく、スーツを着た人間の中年男性だった。
 なんでもミストレアから派遣された外交官で、名前はロイマン・シェルドレイク。両国の中継点となるこの砦に駐在しているらしい。
 最初は魔族に囲まれて怖かったけど話すと意外といい魔族ひとたちばかりなんですよと、彼はアルスたちに身の上話を語った。

「それで、盗賊たちはあの後どうなるんだ?」

「そうですね、一応ここはどこの国にも属していない中立地帯ですが、王国がわざわざ身元を引き受ける道理もありませんからね。恐らくは魔族領での強制労働に処せられるのではないのでしょうか」

 アルスに質問され、ロイマンは淡々と盗賊たちの処遇を述べる。

「つまりは奴隷堕ちってことか、まあ妥当だな」

 ドヴァリは樽ジョッキに並々と注がれた麦酒エールを飲みながらそう言った。
 先ほど馬車の中でワインを飲みまくったばかりだというのに、未だ飲み足りないと言った様子だ。

「この肉料理美味しいな、魔王領の料理かな?」

「ホントだ、美味しいー!」

 ジョン先輩とミトナは、相変わらずマイペースに食事を楽しんでいる。


「取りあえず、一件落着だね」

「そうですわね。ところで今日はどうしますの? ワタクシもう疲れてしまいましたわ」

「もうこんな時間だし、外は魔物が徘徊しているかもしれないから、今夜はこのままここに泊まるのがよさそうね」

 アルベール部長とエリーゼ、それにノエルが話していると、ロイマンが提案してきた。

「でしたらこの砦にいくつか空いている部屋がありますので、そこを使ってください」

「俺は馬車の中でも構わないが……」

「せっかくロイマンさんがこう言って下さるのですし、お言葉に甘えましょうですわ、アルスさま!」

「そうね、旅路もまだ長いんだし、今日くらいベッドで寝るのも良いわね」

 珍しく意見があったエリーゼとノエルだった。

 こうしてアルスたちは、魔族の砦で一夜を明かすことになった。
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