最強魔剣士が今更だけど魔法学校に通います

うずら

文字の大きさ
21 / 23
第二章

20 魔狼襲撃

しおりを挟む
 どこかの城内。重々しい扉が開かれ、一人の魔族の武将が王の間へと入ってくる。
 厳つい鎧に身を包んではいるが、戦での負傷か、彼の右腕の肩から先が無かった。
 炎のような赤髪に燃えるような赤い瞳、更に身に纏う重装鎧も赤を基調としたものになっている。

 赤き武将は、主の座る玉座の前で跪き首を垂れた。

「メリー・クリウス陛下、監視任務中のフギンとムニンからの経過報告が入りました」

「そうですか、それで報告は?」

 竪琴を模した玉座に座るのは一人の魔族の少女。
 玉座の横には、少女の背丈ほどもある長剣ロングソードが立てかけられている。
 その剣は、装飾に彩られた鞘に納められ、柄の部分には赤い宝玉が埋め込まれている。

 腰まで伸びた漆黒の髪に、黒色のメッシュドレス。
 右目を黒い眼帯で覆っているが、残る左目は健在で、血のような赤い瞳が怪しげな眼光を放つ。
 見た目は十二、三歳の少女に見えるが、見るものすべてを魅了するような妖艶な雰囲気を放っていた。

「魔剣士アルス・マグナとその一行は、道中で盗賊と遭遇したもののそれを難なく捕獲、その後、木の砦バウムガルズに立ち寄り盗賊を引渡し、現在は同所で停泊中とのことです」
 
「旅は順調に進んでいるようですね。安心しました。それでこそ我が婿となる男・・・・・・・

 そう言って、にこやかな笑みを浮かべるメリー。
 彼女は、徐に玉座を立ち上がり、立てかけられた長剣を背負い、王の間を後にする。

「へ、陛下、どこへ行かれるのですか?」

「どこって、彼を出迎えに行くに決まってるじゃないですか」

「そ、そのような勝手なことをしたら、宰相のロキさまが……」

「ロキ叔父さまには黙っていなさい。それと、あなたもついてきなさいティワズ」

「は? 私もですか……」

 驚いた様子で聞き返す武将だったが、主の命令を断るわけにもいかず、渋々後についていくのだった。

◇◇◇

 翌日の朝、魔族の砦バウムガルズで一夜を明かしたアルスたち一行は、馬車に乗り目的地の鉱山へと出発するところだった。

「それでは皆さん、旅の無事をお祈りしています」

「この先のヤルンヴィドには、魔狼ガルムが出没するから、気を付けていくんだぞ」

 ゲート前でロイマンと魔族の兵士たちに見送られ、アルスたちの馬車隊は砦を後にした。
 砦の防壁の上にはいつの間にか、昨日見た二匹のワタリガラスが留まっていた。
 昨日は遠くを飛んでいて大きさがわからなかったが、二匹とも人一人を掴んで余裕で飛べるほどの巨体だった。
 二匹のワタリガラスは、アルスたちが出発したのを見計らったかのように上空へと飛び立っていった。



 砦を出発してから数時間後、アルス一行は巨大な森の前に到着した。

「ここがヤルンヴィドの森……」

「スゴイ、木ガイッパイ」

 目の前に広がる広大な森に、ノエルとオーキーは驚愕の声を上げた。
 広さも凄いが、乱立する樹々の高さも、百メートルを優に超えていて圧巻だった。

「この分だと迂回できそうにもありませんし、このまま突っ切るしかありませんわね」

 狂暴な魔狼が出没することを事前に聞いていたため、迂回することも考慮していたエリーゼだったが、地平線の彼方まで続き、その端の見えない森を前に、選択肢は一つしかないことを悟った。

「魔族の兵隊さんの話によると、魔狼と言っても強力な個体は森の奥深くにしかいないらしいっスから、多分何とかなるっスよ」

 エリーゼの取り巻きの一人が、並走する軽装馬車から身を乗り出しながらそう言った。

 森に突入する馬車隊。
 街道に比べて森の中の道は狭く蛇行していたため、アルスたちの乗る馬車キャリッジを中心にして、自ずと隊列は一列になり、スピードも落ちていく。
 
 先程まで進んでいた街道は舗装されていたが、森に入っ手しばらく進むと、地肌がむき出しになった道が続くようになった。

「す、すごい揺れますわ。突き上げられるたびに、お尻に衝撃が……」

 馬車の車輪が石を踏むたびに下から突き上げる衝撃が襲い、エリーゼは抗議の声を上げる。

「我慢しろエリーゼ、じきに慣れる」

 そんなやり取りをしていると、不意に前方が騒がしくなった。

 アルスが窓から前方を確認すると、先行して走っていた荷馬車隊が、魔狼の群れに襲われていた。
 魔狼は連携を組んで巧みに襲撃を繰り返しているが、馬車に搭乗していた雇われ冒険者たちが剣や槍で応戦し、次々と魔狼たちは倒されていく。
 
「どうやら、魔狼が現れたようだな」

 冒険者たちで十分対処できると見当したアルスは、窓を閉じて再び座席に座る。
 冒険者たちにも少しくらい活躍の機会を与えてやろう――そんなことを考えていたアルスだった。

「私達も援護するわよ! ――氷柱アイス・ピラー!」

 一方で彼のそんな考えなどつゆ知らず、ノエルは窓から身を乗り出しながら細剣レイピアを構え、前方の魔狼に向かって中級氷魔法の氷柱を単節詠唱した。

 彼女の装備している氷の細剣エペ・グラスは、氷属性限定の魔導器、文字通り氷属性の魔法のイメージ構築を安定させ、単節詠唱での即時魔法発動を可能とする。

 荷馬車に襲い掛かろうとしていた魔狼たちが、次々と地面から生えた巨大な氷柱に串刺しにされる。

ワタクシも、ノエルさんに負けていられませんわね! ――火球ファイアボール!」

 エリーゼも同様に窓から上半身を乗り出し、手に持った黒い傘を構えて火球を撃ち出す。

 彼女の黒い傘は、太陽の蝙蝠ソル・ショヴスーリ、火属性限定の魔導器だ。

 ドヴァリたちドワーフの職人も、各々の商売道具で馬車に襲い掛かる魔狼たちを撃退していく。

 ドヴァリはハンマー、ビョルンは剣を、アーデルハイドは鍋や包丁で、ヒャルマールに至っては手に鉄兜をはめて狼を攻撃していた。

 ノエルとエリーゼの援護もあって、魔狼たちは次々と撃退されていく。

 アルスは彼らの奮闘する姿を感心した様子で眺めている。

 一方でアルベール部長とジョン先輩、そしてミトナは、実践魔法よりも生産魔法や座学専攻だったので、戦闘に参加せずに彼女たちを応援していた。
 彫金師のエレディオンも、彫金用のノミで戦うわけにもいかず応援に徹していた。

 しばらく戦闘が続いたが馬車隊には大した被害はなく、魔狼たちは諦めたのか、そのまま森の奥へと引き返していった。

「狼たちの追撃が止んだみたいね」

「私達の勝利ですの!」

 勝利を確信し、互いに喜び合う二人。

「いや、まだだ……来るぞ!」

 馬車内の皆が勝利を確信していた中、アルスだけが馬車隊の前方に注意を向けて、じっと様子をうかがっている。

 アルスは感じ取っていた。
 馬車隊の進行方向に、巨大な力を持った存在が待ち構えていることを。

 やがてそれは、森の大木をなぎ倒しながら、彼らの前に姿を現した。

「くはは、矮小なる人間にしては、中々やるはないか。なあ、ハティよ」

「我が仔らを傷つけた罪、奴らにはその命を持って償ってもらおうではないか、スコル」

 アルスたちの行く手に現れたのは、二匹の巨大な魔狼ガルム
 地獄の底から聞こえるような唸り声にも似たその声は、その場にいる誰もが理解できる人語を成していた。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...