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メイドのリサ目線

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私の名前はリサ、今年20歳になった。
バレンティア公爵家につかえるメイドである。
私はスラム街の出身だ。道端で倒れていた私を旦那様が拾って下さり、ここへやって来た。

当時8歳だった私は作法も何も分からないどころか名前すら無かった。
そんな私に名前を付け教育を施してくれたのは奥様だった。

私が10歳になる頃、奥様は2人目の子供を産んだ。
初めてクリスティーナお嬢様を見た時、その愛らしさに息を飲んだものだ。

旦那様と奥様に大切にして頂いたご恩に報いるためにも、お嬢様を命の限り守ろうとその時心に誓った。

バレンティア公爵家は国家の闇を司る家系である。
お嬢様も大きくなるに連れて、自分の立場を理解していった。
私が守りたいと思っていたお嬢様は、いつしか強く美しい令嬢に育っていた。

そんなある日、お嬢様に殿下を守って欲しいと陛下より任務が、、
最初に聞いた時は耳を疑った。
あの美しいお嬢様に男装なんて無理だ。
旦那様は普段お嬢様の前で真面目ぶっているが、あの人にはかなりふざけた一面がある。
今回も旦那様が何か企んでいるのでは無いかと心がざわつく。

お嬢様は妹のエリーゼ様と違い自分の見た目は悪魔の様だと卑下しているが、私から見れば悪魔ではなく小悪魔だ。
美しく細い艶やかな黒髪に、淡い紫色の瞳、手足は細く長く、白く美しい肌は透き通る様だ。
可憐であり妖艶な雰囲気は男女を問わず惹きつける魅力に溢れている。

そんなお嬢様がどんなに男のふりをした所で、すぐに見破られるのがオチだ。
私はそう確信していた。

しばらくするとお嬢様は入学までの準備と言って、お屋敷で男装するようになった。
髪を切ると言い出したお嬢様を、やめて下さいと皆で必死に説得した。結局少しだけ髪を整えて縛る事になった。

今はズボンを履き、男の子らしい座り方をして優雅に紅茶を飲んでいる。
ちょっとお茶菓子を取りに行っていた間に、エリーゼ様もお嬢様の部屋にやって来ていた。

どうやらエリーゼ様が希望したらしく、休憩すると言っていたお嬢様が男装の練習を引き続きしているようだ。

最初の頃はお嬢様にしか見えなかったのだが、最近では美しい美男子に見えてくるから不思議だ。
言葉や仕草、服装だけでこんなにも変わるものだろうか?

「美味しいよ。ありがとうリサ。」

お嬢様がいつもより心なしか低い声でお礼を言うと、私の頬は少しだけ赤くなった。

私何照れてるの!!相手はお嬢様じゃない!!

お嬢様にお礼を言われ頬を染めるなどどうかしている。
私はカチャカチャといつもより音を立てながら、慌てて紅茶のお代わりを淹れようとしてコップを落としてしまう。

「申し訳ございません。」

私が慌てて拾おうとすると、スッと立ち上がったお嬢様が先に拾い、私に渡して来た。

「リサの綺麗な指が傷ついてはいけない。気をつけるんだよ?」

と言いながら私にお嬢様は微笑んだ。
そのとたん真っ赤になった私を不思議そうにお嬢様は見ていたが、エリーゼ様に呼ばれ椅子に戻って行った。

お嬢様、あなたは私をどうしたいのですか!!私はもうチョットで新しい扉を開きかけましたよ!!
どうかその目見美しいお姿で色々な方を惹きつけ、危ない目になど合わないで下さいね!!

私はお嬢様に気付かれないようにひっそりと悶えた。
学園に付いて行く事が決まっている私は、自分の容姿に無頓着なお嬢様のために目を光らせて生活しようと心に決めたのだった。
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