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そして思い出した

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3月のある日、私は試験を受けるべく学園へ向けて出発していた。
私の住んでいる屋敷は王都でも中心の方に位置しているので、馬車で10分もあれば学園に着く。

大きな黒い門をくぐると、学園は見えて来た。
王宮と同じ規模を誇る学園は、とても広い。それだけこのタイマリス学園が、この国で大きな力を持っているのが分かる。

建物の近くまで行くと、私は馬車を降りた。
もちろん私はクリスとして男装した姿で登園している。
後ろからリサが小走りで付いて来た。

建物の中心まで行き、学園全体を眺めたとたん、頭の中にピシッと電気が走った!

この建物見た事がある!!
衝撃で少しフラつく私を、後ろに控えていたリサが慌てて支える。

「クリス様大丈夫ですか!?」

リサの声は私には届かなかった。
私の頭の中は、大量の情報で溢れかえりパンク寸前だったのだ。

そうだ、、私は前世でこの学園のゲームをした事がある。。
私が思い出したのは前世の記憶だった。
とりあえず落ち着こうと深呼吸をして、リサに微笑む。

「あぁ、ごめん。朝から緊張していたせいか、少し目眩がしたみたいだ。もう大丈夫だよ。」

まだ頭の中は混乱していたが、ここで倒れて騒ぎを起こすわけにはいけない。
何もなかったようにリサからそっと離れる。
リサはまだ心配そうにしていたが、後ろに戻った。

私は試験を受けるクラスに向かいながら、今得た記憶を一生懸命整理していた。

やっぱり建物の中も見た事がある。
間違いない、これは私が大好きだった乙女ゲーム、マジカルプリンセスあなたに夢中の世界だ!!

平民だったヒロイン、マリアが光の魔法を使えるよになる事で、男爵へ養子に迎えられる。
そして15歳から彼女はこのタイマリス学園に通い出すのだ。
そこで思った。
年齢が合わない。
15歳といえば私達が卒業する年である。
この世界では15歳になると成人と認められるので、基本的に皆働き始める。

でもこの建物確かに見覚えがある。
前世の自分自身の記憶は思い出す事が出来なかったが、ゲームの世界の事は隅から隅まで思い出す事が出来る。
攻略対象だった殿下の名前も一致している。
全く同じ世界ではないのかもしれないが、酷似した世界だという事は間違いないだろう。

攻略対象者は全部で5人。

殿下 ヘンリー・レーヴェンシュタイン

殿下の右腕と言われる マグリット・ダルトワ

武を司る イサキオス・ベルナドット

諜報活動を行う アルルーノ・ストレンディア

そして殿下のクラス担任のカルロス・トルストイ

このクラス編成の為の試験も、乙女ゲームの始まりにある。

殿下はオール満点だった。
そして殿下の右腕と言われるマグリットが1点差で2位だったはずだ。

殿下はこの乙女ゲームの中では、文武両道、誰にでも分け隔てなく優しいお人柄で、ザ・王子様という立ち位置だ。
人望も厚く文句の付け所の無いお方なのだが、上に立つ人間は優しさだけでなく、時には非道な判断も出来なければならない。

そこで殿下の右腕にと目を付けられたのが、マグリットだ。
彼はゲームの中で腹黒ドS参謀長様だ。
私としてはこの人には関わりたく無いところだが、殿下の信頼を得るのに彼に関わらないのはまず無理だろう。

彼に気に入られるためにも、彼より高い点数を取るのは得策では無い。
そこで2、3問試験では間違って3位辺りにおさまるという方向で行くことにした。

後の事はとりあえず帰ってから考えるとして、今はいかに自然に問題を間違えるかを考えよう!
私は教室に入り、用意された自分の席に座ったのであった。
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