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初顔合わせ

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入学式の日、雲ひとつない晴れ渡った空の下、初々しい新入生達が列を作っていた。
私は殿下の近くで任務中だ。

側から見れば、ただ列に並んでいるように見えるのだろうけど、どんな場所から攻撃が来ても、殿下を守れるぐらい私は集中している。

少し前を行く殿下を、私以外の女子達も凝視している。
殿下の柔らかいハニーブロンドの髪が揺れるたび、女子達からため息が漏れるのだ。

、、皆前見て歩かないとコケるよ?
私は苦笑いした。

私の斜め前にはイサキオスがいる。
彼が歩くと、銀色の髪がキラキラと輝く。
ゲームよりも幼い為、あどけなさが残る彼の横顔を見ると、何だか胸がギューっとなる。
これでは周りの女子と一緒じゃないかと思い、自分を叱咤したし気合いを入れ直す。

新入生代表の挨拶では、殿下が1人で壇上に立つので、警戒していたが、私の心配をよそに入学式は何の問題も無く終わった。

殿下の代表の挨拶は、とても素晴らしかった。
この人は将来この国を背負って立つ人なんだなと、参加した全員が思っただろう。
そして見目美しい姿に女子生徒達は震えていた。

婚約者がいるものの、女子達の様子を見る限り、諦めていない人が多いのだろう。
やはり婚約者がFクラスではマズイ。

入学式を終え、私達は教室に入っていた。
Aクラスは今は10人程度なので、広い教室の3分の1しか席は埋まらない。
先生がまだ来ていないので、皆適当に座る事にした。

殿下は1番前の左端の席に座っていた。
その横にマグリットが座っている。
イサキオスとアルルーノは別々の所にいるようだ。

私は少し考え、思い切って殿下の後ろに座る事にした。

貴族の世界では階級によって色々な決まりがあるのだが、この学園内では一応無礼講となっている。
一部それを良しとしない、身分を鼻にかけた奴もいる。
しかし、このクラスで1番高い位なのは殿下だ。
その殿下が、元々分け隔てない付き合いをする方なので、無礼講という制度は浸透しやすいだろう。

という事で、私は無礼講を信じ、殿下にこちらから挨拶をする。

「ヘンリー殿下、はじめまして。ランカスター侯爵家の次男でクリスと申します。これからよろしくお願いします。」

私が握手を求めると、殿下はキラキラした笑顔を見せながら手を取ってくれた。

「この学園では無礼講だろ?ヘンリーで良いよ。私も君の事はクリスと呼ばせて貰うね。よろしく。」

その様子を見ていたマグリットが、私より先に挨拶してくる。

「マグリット・ダルトワだ。マグリットでいい、よろしく。」

彼も手を出して来た。彼の手を握りながら私も挨拶する。

「よろしくお願いします。私の事もクリスと呼んで下さい。」

「無礼講なら敬語も無しだろ?」

マグリットが優しく笑いながら言ってきた。
ゲームでは彼は笑っても、目が笑っていないのだが、今の彼は幼いせいか優しげに見える。

「そうだね。ありがとう。」

私は少し嬉しくなって微笑んだ。
そのとたん2人は少し驚いた顔をして、

「男だよな、、?」

と小さな声で言ったが、私の耳には届かなかった。

ドアが勢いよく開き、先生が入って来た。
カルロス先生は肩までの黒髪に黒目、背は高く180㎝ぐらいあるだろうか、筋肉はしっかり付いていそうだが、どこかしなやかな身体付きは艶かしく色気が漏れ出している。

、、先生、10歳の私達にそんなにも色気を出して、、一体私達をどうしたいのですか?
他の皆を見ずとも、きっと私同様困惑した顔をしているのだろうなぁと思った。

「えー、初めまして。今日から君達の担任になるカルロス・トイストイだ。最初の説明で分かっているとは思うが、Aクラスになっても、次の試験で結果が悪ければすぐに追い出される事になる。皆気を引き締めて頑張ってくれ。」

「はい!」

皆の声が揃った。

「今日は明日から必要になる物を受け取って終了だ。明日から授業が始まるから、予習を忘れないように。あと、サークル活動に興味がある者は、放課後色々な場所で先輩達が活動しているので、自由に見学しなさい。」

先生はプリントを配り始めた。
明日からの時間割が書かれているようだ。
私はヘンリーと違うクラスになるわけにはいけないので、明日からの授業にも気合いを入れて取り組まねばと思った。

そして今日はあっさりと解散になった。
ヘンリーが教室から出て、護衛と合流したら私の任務は終わりだ。

「さよなら。」

挨拶を交わし、私は足早に教育から出てFクラスを目指す。
本来なら、イサキオスやアルルーノとも会話してみたかったが、初日からあまり動き過ぎると怪しまれるだろう。
そこで私は第2の任務へ向かった。
と言っても勝手に私が任務に加えただけなのだが。

ゲームでの悪役令嬢イザベルは、金髪碧眼、縦ロールの巻き髪で、ザ・悪役令嬢といった見た目だ。
私も自分の事をつり目だなぁと思うが、さらにつり目の彼女はキツイ顔立ちなのだ。
何となく親近感を持ってしまうのは、雰囲気が自分に近いからかもしれない。

今からする事がお父様にバレれてしまえば、大目玉だろう。
しかしチョット楽しんでいる自分もいる。

目立たなくなる魔法をかけた所で、廊下に出てきたイザベルを発見したのだった。
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