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男装令嬢VS悪役令嬢

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悪役令嬢ことイザベル・ラウエニア公爵令嬢は、小さく可愛い女の子だった。

私は今158㎝ぐらいだが、彼女は150㎝あるか無いか。
ゲームより幼い彼女は、目もそこまでつり上がっていないし、縦ロールの髪型ではあるが、ゆるく巻いているのでキツイ印象は薄れている。

ヘンリーが横に並べば、それこそ絵本から飛び出した王子様とお姫様だろう。

ヘンリーを取られるという嫉妬と焦りが、彼女をキツイ女へ変えたのかもしれない。

私は彼女に逃げらないように、そして他の人に話しを聞かれないように結界を張った。

私が結界を張った途端、彼女の顔色が変わったので、勉強は出来ないけれど、魔法の才能はあるのだなぁと呑気に思った。

「あなたが張ったの?あなた誰なの!?」

イザベルの焦った声が響く。

「突然すみません。私はクリス・ランカスターと申します。」

私はうやうやしくお辞儀をした。
はっきり言って今日はノープランである。彼女と揉めれば、最悪今日起こった記憶を彼女から消して、明日また来るつもりだ。

「クリス・ランカスター、、聞いた事ないわね。いったい私に何の用なの?結界を張るだなんて、、ただで済むと思ってるの!!」

幼くともイザベルはイザベルだった。
ゲームの中同様、気の強そうな喋り方である。
まぁ訳の分からない奴に、結界に閉じ込められたのだ。
取り乱してキツくなるのも仕方ない事だろう。

「すみません。危害を加えるつもりはありません。イザベル嬢、私と勉強しませんか?」

イザベルはキョトンとした顔をした。しかし、すぐにキツイ顔に戻る。

「勉強??初めて会った男となぜ私が勉強なんかしなくてはいけないのよ!そんな事より早く結界を消しなさい!!」

彼女は取り出した扇子で私の顔を指す。
何だかめんどくさくなって来たので、とりあえず威圧で脅してみる事にした。

威圧するぞ!っという気持ちに魔力を乗せる事で、相手を脅す事が出来る闇魔法だ。
私は魔力を調整する能力に長けている。
簡単に言うと、ちょっとビビせるくらいから、いーっぱいビビらせるまで自由自在なのだ。

威圧を発動し、イザベルに話しかける。

「イザベル嬢、あなたFクラスでしょう?殿下の婚約者がFクラスで良いのですか?6月の試験までまだ日があります。一緒に勉強しましょう。」

「ヒッ!!」

今はちょっとビビらせるぐらいの威圧発動中だ。彼女の顔色が少し悪くなる。

「あなたには関係ない事でしょう!」

少々の威圧ではめげないようだ。さすが悪役令嬢である。
私は威圧の魔力を強めてみた。

「確かに関係はありません。しかし私は未来が見えます。2年後あなたに強力なライバルが現れるでしょう。それまでにAクラスでヘンリーの側にいなければ、あなたに不幸が訪れるでしょう。」

、、何だかオカルトじみて来たなぁと、自分で言っていて頭を抱えそうになる。
やはり何か作戦を立ててから来れば良かった。

しかし、威圧と予知能力擬きを組み合わせたのが良かったのか、イザベルが少し興味を示した。

「ライバル?ライバルとは?殿下が誰かに奪われるという事ですか!?」

「、、それはあなた次第です。どうしますか?今ならまだ間に合います。一緒に勉強しませんか?」

イザベルは諦めたような顔になり、頷いた。

私がホッとして油断したその時、イザベルは勢い良く私に近付き、渾身のビンタをぶちかまして来た!!!  

ドンッ!!

私は衝撃で壁にぶつかる。
きっと私に衝撃を与える事で結界が解けることを狙ったのだろう。
しかし、私の強固な結界はそんな事では解けたりしない。

イザベルの舌打ちが聞こえた。

「油断した、、。」

私は頬に手を当てる。口の端が切れ、血が出ているようだ。鉄臭い味がする。

「ヒール。」

私はヒールの魔法をかけ、傷を治した。少し腫れ出した頬は元に戻ったいく。
それを見ていたイザベルは驚愕したような顔になった。

「あなたさっきの威圧の魔法、闇魔法の使い手のはずよね!?何でヒールが使えるの!!??」

イザベルは口を開けて真っ青になっている。

あぁ、初めて見たのだなと私は思った。
自分の分類される魔法以外にも、枠を超え他の魔法が使える者が稀にいる事を知らなかったのだろう。

私は意地悪い顔をして言った。

「このぐらい出来て当たり前だ。」

強めの威圧と言葉を重ねる事で、悪役令嬢イザベルの心はポキッと折れた。
もう抵抗の意思は見て取れない。
さっきのビンタの事があるので、私は警戒しつつ彼女の腕を取る。

どうも心ここに在らず状態のようだ。

「威圧を強め過ぎたかなぁ??、、まぁ良いか。」

これ幸いと私は彼女を連れ、図書室へと移動するのであった。
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