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天国と地獄 いや、地獄に天国か

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7月に入り、私に奇跡が起きていた。

今日は学校が早く終わったので、カフェでお茶をしている。
私の横にはイザベル、そして私の前には何とシャルロットがいるのだ。

なぜこのメンバーでお茶をしているかと言うと、6月の半ばまで話しは遡る。

この日はテストの結果が出る日だった。今回私はこのテストを全力で頑張り過ぎた。
いや、それは良い事なのだろう。何ごとも全力投球、素晴らしいじゃないか!

しかし、世の中頑張れば報われる、頑張れば上手く行く、そんな甘いものではない。
結果的を言えば、私は学年トップだったのだ。
ヘンリーには心からのおめでとうを言って貰えた。
イサキオスもアルも同様だ。皆褒めてくれた。
そして、マグリットには目が笑っていない笑顔でおめでとうと言われた。

ここから地獄が始まる。
彼はプライドが高い上に、ネチネチと陰険で腹黒でドSで、、いかんいかん、止まらなくなるとこだった。

元々私は彼の手駒と化していたのだが、この日から手駒どころか下僕と化した。
仕事の時の呼び出しは必ず、

「俺の靴を舐めろ。」

から始まるようになったし。
あっ、私の名誉の為に言っておくと、本当に舐めた事はない!!
これを言われると、私の目は死んだ魚の目の様になる。

これを初めてアルが聞いた時に、

「えっ?2人はいつの間にそんなに仲良くなったわけ?」

と言われた。
節穴過ぎる。彼は目が見えていないのではないだろうか?

アルは諜報活動をする未来が無くなったので、魔法薬学のサークルに入ったようだ。
羨ましい。私も入りたい。

じゃぁ、またねぇ~と言って節穴アルは帰って行った。
ヘンリーは職員室、イサキオスは騎士の訓練へ、教室には私と腹黒男が残された。

「さて、これが今回の仕事だ。」

分厚い紙の束が私の机に置かれる。

「読んだら燃やしておけ。」

覚えるにしては量が多過ぎやしないか?私の眉間にシワが入ったのを、腹黒男は見逃さなかった。

「学年トップのお前がまさか覚えられないわけないだろ?出来るよな?学年トップだもんな。」

ネチネチネチネチと、、。
私が何をしたと言うのだ。

「はぁー。陛下に言わないという交換条件にしては、仕事がヘビー過ぎやしないか?こんなのもう諜報活動を生業とする人がやるレベルでは?」

私も命がかかっているので、反抗してみる。
腹黒男の眉間のシワが増える。何だか冷気も漂っている気がする。

「あぁ?お前の秘密を黙っているせいで、俺の繊細な神経をどれだけすり減らしていると思ってるんだ!!こっちが優しい態度取ってると思って調子に乗るなよ!!」

、、何だそれ。
突っ込む所が多過ぎて目眩がしそうだ。
私は目を閉じて現実逃避をする。私の得意技だ。

「そんな事しても現実は変わらないぞ。今回の仕事は前準備がいる。本格的に動き出すのは、夏休みに入ってからだ。せいぜい俺の為に頑張ってくれ。」

腹黒男はそう吐き捨てると去って行った。

「腹黒!悪魔!!ドS!!最悪!!」

私は彼がいなくなってから叫んだ。

ガタンッ!!
ん?扉の所で音が?

「ヒィー!!!!」

腹黒男はまだ帰っていなかった。鋭い視線を私に向け、口元は笑っている。

死んだな、、。
腹黒男は足早に戻って来て、何の色気もない、ただただ全力の壁ドンを繰り出した!少しでも動いたら顔ペッチャンコだよ?

「じゃぁ、また明日。」

頬をそっと撫でられた。
私はきっと今白目だ。

あぁ、違う違う。この話しじゃなかった。
なぜこのメンバーでお茶をしているかと言うと、イザベルがテストの結果、Bクラスに昇格したからだ。
彼女は落ち込んでいたが、FクラスからのBクラスだ。
私は相当褒め称えたのだが、うるさい !と言って彼女は取り合わなかった。

ヘンリーのおめでとうでコロッと態度を豹変させたのだが。
解せぬ。

その後、頑張ったので、カフェでケーキセットをご馳走しろとイザベルにせがまれていた。
金持ちのくせに考えがせこい。

しかし、ヘンリーの婚約者と2人でカフェはなぁ~と思っていた時に、Bクラスで一緒になったシャルロットと仲良くなったという話しを聞いた。

私はイザベルに、シャルロットと仲良くなりたいから、仲を取り持ってとお願いした。
私が一目惚れでもしたのだと思ったのか、イザベルは生温かい目で見てきたが、適当に流しておいた。

3人の予定が合った時にカフェに行こうと約束していたのだが、腹黒男に邪魔される事数回、、今日ようやくお茶会が実現したのだ!

そして冒頭に戻る。

私とシャルロットが自己紹介した後、2人で見つめ合っていたので、イザベルが、

「何だ両思いなのね。」

と、面白くなさそうに言った。
相変わらず可愛くない。

しばらくたわいもない話しをしていると、ヘンリーがカフェの横を通りかかった。
イザベルと私に気付いて、手を挙げ寄って来る。

「珍しい組み合わせだね。私も参加して良いかな?」

イザベルの顔がキラキラと輝き、ブンブンと顔を縦に振る。

イザベル、首取れるよ?

「私、ヘンリー様の紅茶を取って参りますね!」

イザベルは小走りでカフェのカウンターへと向かう。

「イザベル嬢、それは従者に任せれば?」

私の声は彼女には届かなかった様だ。

「可愛いらしい婚約者だね。」

私が冷やかし半分にヘンリーに言うと、

「あぁ。可愛いんだけどねぇ。」

と彼は言った。
けどね?けどねの続きが気になったが、聞くのは怖い。何かのフラグが立ってもいけない。私は晴れ渡る空を見てごまかす事にした。

その後、シャルロットとヘンリーが自己紹介したり、私とイザベルが仲良くなった経緯を話したりした。〔お茶会で会ったという嘘の話しの方だが。〕

しばらくして、ヘンリーがイザベルを寮まで送って行く事になった。
私とシャルロットはもう少しここでいると言って一緒に帰るのを断った。

カフェに2人きりになる。

「ふふふふっ。クリス様、お久ぶりです。」

シャルロットが悪い顔で笑う。

「シャルロット嬢は相変わらず美しい。」

私は彼女の手を取り、手の甲に口付けをする。

「僕と噂されれば、あなたは困るかな?」

私も悪い顔で笑う。

「「あははははは!」」

私達は我慢出来ずに大笑いした。
周りの人がきっと見ているだろう。
シャルロットは涙を流しながら、ヒィーヒィー言っている。

「まさかこんなに早くクリスとお話し出来ると思っていなかったわ。」

「僕も。」

「これからは一緒に過ごせそうですわね。」

「でも良いの?僕と一緒にいれば、良い縁に出会えないかもよ?」

「あら良いのよ。私は卒業したら、魔法省で働くつもりなの。15歳から夜会に参加して、それからゆっくり未来の旦那様を探す事にするわ。」

「そっか。それなら安心。これからよろしくね。」

私達は久しぶりの再会を喜んだのだった。

あぁ、女の子は良いなぁ。
腹黒男とは大違いだ。
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