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夏休みは嵐の予感

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訳の分からない魔力測定が終わり、私達はようやく夏休みを迎えた。

今は寮のマグリット部屋に来ている。
イサキオスも一緒だ。
マグリットが、夏休み中に犯人を捕まえると言っていたので召集がかかるとは思っていたが、夏休み初日とは予想していなかった。

「俺達はヘンリーの側でいる時に何かあれば、対処するだけじゃなかったのか?」

イサキオスが不満そうに言う。
きっと夏休みは騎士団の訓練に入り浸るつもりだったのだろう。
私は出された紅茶とお菓子を、黙々と飲んだり食べたりしている。 
給金も貰わずに働いているのだ、貰えるものは貰わねば!

「クリス付いてる。」

イサキオスが私の唇に付いていた、お菓子のかけらを取って食べた。

「あ、ありがとう。」

私の頬がピンク色に染まる。

「朝からイチャつくな。」

今朝、私の髪と目はようやく戻った。
その為かマグリットが私を見る目は冷たい。
彼は足を組んで私を見下す様に、踏ん反り返って座っている。
向かい合ったソファーに私達は座っていて、私の前がマグリット、横がイサキオスだ。

「そうだ。今回の任務は結局証拠集めだけさせられた。後は俺のオヤジ達が上手くやってくれるだろう。」

マグリットのお父さんは、陛下の側近である。
将来は、マグリットもヘンリーに仕えるのだろう。

「辺境地でかなり強い魔物が出たのを覚えているか?」

私は入学前にシャルロットとのお茶会でそんな話しをしたのを思い出した。
あれは何かフラグだったのか、、

「辺境地で働いている兵士達がかなりの怪我をしたって言っていたやつだよね?」

マグリットは頷く。

「その少し離れた場所で、数日前火竜が現れたんだ。」

火竜とは、前世で言えばロールプレイングゲームのラスボスにあたる程強い魔物だ。
炎を撒き散らす咆哮の威力は凄まじく、何の準備もしていない時に現れれば、街を簡単に滅ぼしてしまうだろう。

「「火竜が!」」

私は驚愕の顔、イサキオスはキラーンと目を輝かせた。
いや、不謹慎だよ?現れたら人死んじゃうんだよ?

「もう少ししたら、ここにカルロス先生が来るが、時間が無いから先生が来るまでに俺がある程度話しておく。」

私は嫌な予感がした。
ゴクッと喉が鳴った。

「この前測定会があっただろ?あの後俺は先生に呼び出された。」

マグリットは分かりやすく説明してくれた。私の背中には冷たい汗が流れている。

国境近くに現れた火竜は、今まで見た事も無いぐらい巨大で凶暴だった。
国境を守っている騎士達や傭兵団が戦ったが、余りの強さに手も足も出ず、結界を張れる者たちで外に出られないようにだけするのが精一杯だったらしい。

王国の騎士団へ討伐要請がその日の内に届き、第2騎士団が転移魔法ですぐさま国境へと向かった。
しかし、彼らもまた火竜を倒す事が出来ず、結界を強固にするのが関の山だった。

そこで今度は第1騎士団へ要請が来たのだが、王都を守る騎士団が出払えば、その隙を狙われ他国に攻め入られる事も考えられる。

陛下は火竜と戦える者を魔法省、学園から選抜してくれと伝令を出した。
学生に要請が出るのは異例中の異例だ。
そこで行われたのが、魔力体力合同測定会だ。
それが行われる際に、もしもこれで功績を残した場合、国より討伐要請があるかもしれないと生徒の親全員に伝えていたという。

そこで全学年の中で私達3人が選ばれた。

「えっ?全学年?あの測定会1年生だけじゃなかったの?」

私が口を挟む。

「2年生から上は皆何回も魔力測定を受けているし、途中から編入して来た奴以外は先生が実力を把握しているだろ?」

「それにしたって、私達3人って。3年生から上の先輩達の方が、魔法の授業もかなり受けてるだろうし、実力だって絶対上だよね?」

何かの陰謀じゃないかと疑う。

「回復魔法を使える者達は、現場で治療に当たっているらしい。後は、、親の許可が出なかったんだ、、。魔法省の人達は数名派遣されているが、あっちはあっちで回復薬作りに追われている。」

「えっ?僕の家は許可出してるって事?聞いてないよ?」

貴族の親達が10代の子供達を火竜の元へ送り込まない気持ちは分かる。
イサキオスの家は騎士団の訓練に幼い頃から放り出しているくらいだ、喜んで息子を差し出すだろう。
というか、本人が勝手に戦いに行ってしまうだろう。

えっ?私は、、?お父様?
ランカスター経由でお父様に話しが行ったはずだ。
私はそこで思い至った。
あぁ、面白そうだと思ったのだろう。
何を隠そう、私の父が1番Sなのだ。
穏やかなS、何て恐ろしいのだろう。今回の男装護衛任務だって神妙な顔で私に言って来たが、内心ケタケタ笑っていたはずだ。
まぁそれぐらいの男でなければ、国家を影で守るなど出来やしない。

「いや、やっぱり良い」

私は潔く諦めた。
私が呟くと同時にカルロス先生が入って来た。
いつも落ち着いた雰囲気を持つ彼が、珍しく焦っている。

「話しは聞いたか?3日分ぐらいの荷物をまとめてすぐ出発してくれ。今回は魔法陣を書いて第1騎士団が一気に転移するそうだ。あと1時間も無い。」

カルロス先生は私を見ると頭に手を置いた。

「先生は今日から騎士団の代わりに、王城の警備に当たる。第1、第2騎士団が居ない今、学園と魔法省の魔力を持った者はそちらに駆り出されてしまう。クリス、お前はイサキオスのお目付役で付いて行くぐらいで思っておけ。結界を張る手伝いぐらいはさせられるだろうが、無理はするな。」

「分かりました。自分に出来る事をして来ます。」

先生が頷く。

「という事だ。イサキオス、無茶をすればクリスも巻き添いを食らうからな!肝に命じておけ!」

今度はイサキオスが頷く。

「さて時間が無い。各々準備しろ!マグリットはヘンリーの護衛だ。このまま私と一緒に王城へ向かうぞ。」

「はい。」

元々知っていたのだろ。マグリットが頷く。
何という事でしょう。1人火竜討伐から抜け出したではないか。

「生きて帰って来いよ。」

マグリットは私の頭をポンポンと叩き、イサキオスと拳を交わして去って行った。

ちょっとそれ死亡フラグじゃないよね?
私は身を震わせたのだった。
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