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乙女ゲームの世界とは程遠い彼女の日常

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私が部屋に戻ると、話しを先に聞いたのだろう、リサが大きなリュックを持ってウロウロしていた。
どう見てもパニック状態だ。
私の顔を見ると泣き出す始末。

「な、な、なんで、何でお嬢様がぁぁぁ。」

「落ち着いてリサ。お嬢様じゃなくて、クリスだからね?」

私は彼女の頭を撫でる。
トマスとアンリは落ち着いた様子だ。
トマスが紅茶を勧めてくる。
飲む時間など無い、、あぁ彼も落ち着いてなどいないのか。

「ありがとう皆。身の丈に合った仕事をしてくるよ!大丈夫ちゃんと帰ってくるから。」

リサはまだ泣いている。

「ク、クリス様ぁぁ。し、死なないで下さいねぇぇぇ!!!」

今度こそ死亡フラグが立ったなと、私は白目になった。

イサキオスが迎えに来てくれたので、寮を出発する。
今回は転移指定先があるので、イサキオスと手を繋ぎ目的の場所へ飛んだ。

第1騎士団の訓練場には、巨大な魔法陣が書かれていて、私達はそこへ導かれた。
私達の姿を確認したウェスタンが嬉しそうに寄って来た。
彼は第1騎士団の団長だ。

「良く来てくれたな。子供を巻き込むのは心苦しいが、お前達が居れば心強いよ。」

ウェスタンがくしゃりと頭を撫でる。

「「よろしくお願いします!」」

私達は頭を下げた。
イサキオスに鎧を着るようにウェスタン
が言う。着いたらすぐに戦闘になるようだ。
私は魔法のローブを羽織る。
防御力が上がるローブだ。

他の騎士のお兄さん達もこちらに気付き手を挙げてきたが、いつもの陽気さは無い。皆真剣な面持ちだ。
少ししてウェスタンが声を張り上げた。

「それでは皆整列しろ!これより先は何が起こるか分からない!火竜を我々が倒せなければ、火竜は王都までやって来るだろう。しかし私はお前達の強さを知っている!!お前達なら成し遂げられる!!一瞬たりとも気を抜くな生きて帰るぞ!!」

「「「オォォォォ!!!」」」

皆拳を天に掲げた。

私も、私が出来る全ての事をやってやろう!顔を両手で叩き、前を見据えた。


転移魔法で国境周辺へと向かった。
眩しい光に包まれ、目を瞑る。光が落ち着き目を開けると、そこは荒野が広がっていた。
人の叫び声や、竜の雄叫び、焦げ臭い匂い、そして血の匂い、そこは地獄だった。
団長は第2騎士団の団長を探した。
私達も続き、火竜の元へと急ぐ。

少し坂を登った所で、それは見えた。

人々が取り囲んだ中心で黒く鈍く光った竜がいた。
竜は巨大で体長は15m、鋭い牙に鋭い爪、これで炎を撒き散らすのだ、恐怖で顔が引きつる。

結界を張っている者達が周囲を囲むように散らばっている。
結界は巨大だった。これを維持するには魔力をかなり消費するだろう。
それを証拠に結界を張っている人達の顔色は悪い。

第2騎士団の団長は竜の側で戦っていた。
ウェスタンはその場を仕切っている魔法省の人に話しを聞いているようだ。
私も近付く。

「どういう状態だ?どれぐらい被害が出ている?なぜこんなにも結界が広いんだ?これではもう保たないだろう?」

「火竜の回復スピードが早過ぎて、こちらが疲労するばかりで歯が立ちません。結界内に閉じ込めてからもう5日、竜の方は飲まず食わずなので、それが影響してくれれば良いのですが。竜の生態は謎で、食べずにどれほど生きるか分かっていません。」

話している間もその人は結界を維持しているので辛そうだ。

「、、結界は、最初小さいものを張っていたのですが、強固な結界を張っているので、一度入れば簡単には出られません。騎士の人達も結界内でしか戦えないので、火竜が炎の咆哮を放った時に逃げ場が無くなります。」

「あぁ、それで戦いやすいように広大な結界を張っているのか。どれぐらい保たす事が出来る?」

「魔力回復薬を飲んでいますが、さすがに皆限界が近いです。あと数時間と言った所でしょうか。」

「分かった。とりあえず第2騎士団と入れ替わろう。彼らの方が先に限界を迎えそうだ。」

ウェスタンは彼らへ目を向ける。
鎧を剥ぎ取られボロボロになった者達が沢山いる。火傷をしているのだろう、顔や腕が赤黒くなっている者、流血した者、このままではいつ死んでもおかしくない。
それでもこの場を離れないのは騎士の誇り故か。

私は慌ててウェスタンに話しかける。

「ウェスタンさん、僕なら火竜を結界で縛り付ける事が出来ます!!」

これは私の魔力を調整する能力が優れている為出来る技だ。
ウェスタンは片眉だけを器用に上げ続きを催促する。

「普通結界を張れば結界内は隔離された世界になります。敵の魔法を外に出さず、外への被害を防げる。しかし、仲間が一緒に結界へ入った場合、その者が外へ出られないという弊害も生まれます。でも、僕の魔力調整で敵だけを封じ込める事が出来ます。その場合閉じ込めるのは敵と敵の魔法だけ、仲間は結界内を自由に行き来出来ます。」

ウェスタンは目を見張った。

「そんか事が、、しかし相手は火竜だぞ?魔力は想像が付かないぐらい強いだろう。そんな者を結界で縛り付けれるのか?」

「理論上は。僕が結界を張った後も外側の結界を解かなければ問題は無いかと。結界で縛り付けれる時間はせいぜい10分。その代わりその間は死んでも竜を離したりしない!!」

これが私のこの場で出来る全ての事だ!!私の目は真剣だ。
ウェスタンは頷いた。

「よし。とりあえず第2騎士団の皆を回収しよう。それからだ。」

ウェスタンは皆に指示を出し、結界を緩ませた場所から瀕死な者達を助け出した。

私も結界内に入る。
火竜を縛り付けるなら、近ければ近い方が良い。
側ではイサキオスが居る。彼の集中力が上がっているのが分かる。魔力が漏れ出しているのか、ピリピリと空気が痛い。

ウェスタンがこちらを見た。

「やれそうか?」

「はい!炎の咆哮も結界内に閉じ込めます!竜が火を吐いたらすぐ結界から離れて下さい!」

第1騎士団全員が頷く。
今、全員が巨大な竜と対峙している。
もう恐怖で顔が歪んでいる者はいない。
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