上 下
52 / 94
番外編

バレンタイン クリスティーナは初の、、

しおりを挟む
今日はバレンタイン、そして彼の誕生日。
私は朝から浮かれていた。
お気に入りの薄紫色のワンピースを着て、髪も編み込みをして貰う。
そして、イサキオスに貰ったイエローダイヤのピアスを付け、反対側にそれより少し小さいアメジストで出来たのピアスを付けた。

そう、これが彼への誕生日プレゼント。
私の瞳と同じ色のピアスを私も彼に贈りたかったのだ。
彼は喜んでくれるだろうか?

寮でいてもソワソワしてしまうので、いつもより早く学園へ向かった。
私はチョコが入った紙袋の中にプレゼントも入れてしっかりと持つ。無くしては大変だ。

いつもより30分も早く出たので、誰にも会わずに教室まで来てしまった。
ドキドキしながら、待っていたが彼は中々やって来ない。
イザベル、アル、マグリット、シャルロットと皆やって来たが、先生がホームルームを始めてからもヘンリーとイサキオスは姿を見せなかった。
彼はまた戦いに出かけてしまったのだろうか、心配する気持ちはあるものの、彼ならきっと大丈夫、、そう思う自分もいる。

昼にはイザベルも姿を消た。
知らないところで何か良からぬ事が起こっているのでは無いだろうか。
気付けばマグリットも居なかった。
彼が消えた事で、王宮で何かあったと確信した。
しかし、私に出来る事はない。
放課後シャルロットはカイトにチョコを渡すと言っていたので、先に帰る事にした。

アルにはチョコクッキーを渡した。
私の乾パンの様に堅いクッキーは、アル、お父様、パオロ君、渡せなかったがマグリットの所へ行く予定だ。
ちなみにパオロ君はあれから寮を出て、我が家から学園へ通っているらしい。
日中は学園で勉強し、帰ってからお父様にこき使われていると聞いた。
倒れなければ良いのだが。
彼とは和解し、今では先輩後輩というよりは友達といった間柄になっている。

ゆっくり歩いたつもりだったが、私は寮の前まで戻って来ていた。
ため息を吐く。

今は夕方の5時、彼は今日は帰って来ないのだろうか?
いつか2人で座ったベンチに腰掛けて、彼を待ってみることにした。
2月といえば年間を通して1番寒い時期である。
今日もとても寒い日で、私の白い息が宙を舞っている。
あと少し、もう少しと待っていると、だんだん辺りが薄暗くなって来た。
寒くて寒くてもう手先の感覚が無い。
さすがに帰ろうかと思った時に、彼の姿が見えた。

「ティーナ?」

彼はモコモコのフードが付いた上着を着ていて、フードを被ったその姿はとても愛らしかった。

「イシャキオシュ、、。」

寒さで口が回らない。
私が顔色が悪い事に彼が気付き、私の頬に触れた。

「冷たい!!一体いつからここにいたんだ!!」

彼は私をギューッと抱きしめた。

「ヘヘッ、イサキオスにどうしても会いたくて。」

彼は真っ赤になって私を見た。

「ティーナ、ティーナに話したい事がある。今日俺の部屋に来ないか?一緒にご飯を食べよう?」

イサキオスは男子寮に住んでいる。男子寮へ遊びに行く時は申請書が必要となる。

「リサに確認してみないと。」

もう晩御飯の準備をしてくれているだろうし、晩6時以降に異性の居る寮へ行く際には親の承認も必要になる。

「分かった。しばらくしたら、俺の従者を迎えによこすから、来られるならその者と一緒に来てくれ。」

イサキオスは私の頭を撫でると、男子寮の方へ行ってしまった。

「ど、どうしよう。とりあえずリサに相談して、、。」

私は彼の背中をボーッと見ていたが、我に帰り走って部屋へと戻ったのだった。

「えっ?今なんて?」

そしてここは私の寮の部屋。
リサに確認を取ったところである。

「分かりましたと言いました。」

「分かりましたって、、お父様に承認を貰わないと行けないのよ?」

「はい。だから貰っています。」

「???」

「それよりディナーに招かれたのですよね?ドレスに着替えませんか?」

私の理解が追いつく前にリサが私を脱がそうとする。

「待って待って待って、従者の方がすぐ迎えに来ると思うの。もうこのままで良いわ!それより、本当に男子寮へ行っても良いのね?後で怒られたりしないのよね?」

リサはまだ私を脱がそうとしているが、しっかり頷く。

「分かりました。時間が無いのでは諦めましょう。ディナーが終わってひと段落つく頃に私も伺わせてもらいます。粗相のないよう気をつけて下さいねお嬢様!」

私はホッと胸を撫で下ろした。
チョコとプレゼントを貰ったところで、扉が叩かれる。
イサキオスの従者はとても若い人だった。

「初めまして、クルードです。」

とても綺麗なお辞儀をした彼は、20代前半ぐらいだろうか?紺色のサラサラの長い髪を垂らし、美しい白い肌に、キリリとした切れ長の目に、髪と同じ紺色の瞳、スッと通った鼻筋に薄い唇、どこかイサキオスを思い出すような容貌をしていた。
私も慌てて挨拶をした。

「こちらこそ初めてまして。クリスティーナ・バレンティアです!」

つい元気良く挨拶をしてしまうと、クルードさんが微笑んだ。

「主人の選んだ姫はとても良い方のようですね。」

そう言われて私は真っ赤になって彼の後を追ったのだった。
イサキオスの部屋に着くと、イサキオスが湯浴みしていたのか石鹸の香りが室内に広がっていた。
リラックスした服装をしていて、少し襟ぐりが開いた服を着た彼の鎖骨がチラッと見えて何かドキドキする。
最近の彼は本当に男らしい。

「ティーナいらっしゃい。許可が出て良かったよ。お腹空いたろ?ディナーを食べよう。」

彼は私の手を引き椅子に座らせた。
ディナーはコースではなく、もう全て置かれ整っていた。
多分、間で邪魔をせずゆっくり話しが出来るように気を配ってくれたのだろう。
プレゼントを渡そうと思ったが、ご飯が冷める前に美味しく食べた方が良いだろと私はフォークを手に取った。
イサキオスも話しがあると言っていたが、今はたわいもないか話しをしている。

彼はとても綺麗にご飯を食べる人だ。パクパクと沢山食べるのだが、所作が綺麗な為かワンパクな感じをカケラも感じない。
何をしていてもカッコイイなと思い、私はご飯を食べる手が止まっては、ティーナ?と呼ばれ我に返るのだった。

そして大体食べ終わった頃に私は袋を取り出した。

「イサキオス、、誕生日おめでとう。」

私はもじもじと彼にプレゼントとチョコを渡した。
イサキオスは誕生日を忘れていたのか、とても驚いた顔になっていた。
この分だとバレンタインの事も忘れていたに違いない。

「あぁ、ありがとう。開けても?」

私は頷く。
彼がピアスをくれた時のように、私も紺色のケースに入れていた。
ケースを開けると彼は本当に嬉しそうに微笑んだ。

「これはアメジストかな?綺麗だ。ティーナ付けてくれる?」

私もヒールの魔法を使える。
ちなみに私は自分でアメジストのピアスを付けた。だから出来る事は出来るのだが、、。

「私が?」

「そう。お願い。」

彼は私にケースを渡して来た。立ち上がり彼の元へ行く。ピアスを取り出してから、彼の耳たぶと睨めっこした。
あんなにも自分の時は簡単に出来たのに、彼の耳たぶを傷付けるのかと思うと冷や汗が出てくる。
思い切って、、何度も刺そうとしてはやめるを繰り返す。

「ティーナ、、ハハッ。」

イサキオスが笑い出した。
笑い過ぎて話せないほど笑っている。
私は半泣きで彼を睨んだ。

「ごめんごめん。ハハッ。いつもすごい殺意で木刀を持って挑んで来てたから、ピアスぐらいでそんなになると思わなかった。」

彼は涙を拭きながら、結局自分でピアスを開けてしまった。

「ありがとう。ピアス大事にする。チョコも後で美味しく食べるよ。」

彼は私の指先を握ると、そっと引き寄せて抱きしめた。
私は近くに従者の人やメイドさんがいるので、ドギマギしているのだが、彼は気にならないようだった。

しばらくすると、リサがやって来た。

「???リサ?それは何?」

リサの腕にはどう見てもお風呂セットと、私の寝巻きが用意されている。

「お嬢様今日はこちらでご就寝なさるのでしょ?さてお風呂場をお借りしましょう。行きますよお嬢様!」

「???」

私はハテナが頭に沢山浮かんでいるが、リサは問答無用で私を連れて行く。
そして裸にされ浴槽に沈められたところで私の意識は覚醒した。

「えっ?泊まるって事?ここで?」

「そうですよ。今更何をおっしゃってるんですか?」

「えっ?お父様は知ってるの?」

「もちろんです。許可書をいただいていると言ったでしょ?」

「、、、それはご飯を食べにここに来るための許可書だと思ったんだけど、、。」

「お2人がお付き合いを始めた時に、お2人がどちらの部屋でも寝る事が出来るように、両家で話し合い学園側にそのように申請書を出しておりますよ。」

私は目を丸くした。

「えっ、初耳なんだけど!一応嫁入り前の乙女だよ?そんなの許されるの?」

リサは微笑んだ。

「お嬢様は知らないでしょうが、旦那様とイサキオス様のお父様は昔から付き合いがあるのです。表と裏ではありますが、国を力で守ってきた一族です。繋がりがあって当然でしょ?」

私は知らなかったと言って、湯船に沈んでいった。
寝るって、、どこで?さすがに別々のベッドだよね?色んな疑問が湧き上がってくる。

「お嬢様、明日はちょうど学園もお休みですし、朝7時頃にこちらに伺いますね。」

どうやらリサは帰ってしまうらしい。
真っ赤な顔でリサを見たが、リサは諦めろと笑顔で私に言った。
お風呂がら出て寝巻きに着替えた。
さすがにいつものヒラヒラしたネグリジェの様なものではなく、しっかりした生地の長袖ワンピースだった。

「ズボンが良かった。」

「お嬢様、それでは可愛くありません。」

ワンピースは胸元の生地が二重になっているものだったが、それでは心もとない。

「プロテクター付けて寝たらダメ?」

成長過程の女子が寝る時にブラジャーを付けるのは良くないと、普段付けないのだが、よそに出かけている時ぐらい良いのではないだろうか?
リサはダメな子を言い聞かせるように、頭を撫でながら、

「プロテクターを付けているなど可愛くありません。両家から2人の仲は認められています。間違いがあっても気にしないとの事ですし、それにさすがに今の年齢で2人に間違いなど起きません。さぁ、いってらっしゃいませ。大丈夫、お嬢様は可愛らしいです!」

そう言うとリサは私を風呂場から追い立てて、イサキオスの部屋へ放り込んだ。

「それではお嬢様また明日。おやすみなさい。」

「、、おやすみ、、。」

私は諦める事にした。
彼の寝室はとてもシンプルで、ベッドと勉強用の机と椅子それだけだった。
私が泊りに来る事になったので、慌ててお茶が出来るように机と椅子を2脚準備したのだろう、何だか雰囲気にあっていない。
彼は私を手招きする。
椅子ではなくベッドに座らせて、彼も横に座った。

ダメだ、、彼が見れない。
イサキオスは私の髪を触りながら話し出した。

「今日は朝から城に呼ばれた。」

そして、イザベルが今日聞いた話しを私もイサキオスから聞いたのだった。
彼の体温にドキドキしていた気持ちは鳴りを潜め、身体の芯が冷たくなっていくのを感じる。

「そんな、、イザベルは今まで努力してきたのに、、。」

イサキオスは私の頭を撫でる。

「王妃が聖剣を持つと言う事は、それほど重要な事なんだ。他国でも魔物は出るからな、今光魔法を使える者はフロランティル王国にしかいない。強大な敵が現れ自国で対処出来なかった場合、我が国に頼らざるおえない。それが殿下の婚約者、のちの王妃が聖剣を持って敵を倒すとなれば、、どれほど影響力があるか分かるだろ?」

私は頷く。

「しかし実際は彼女が聖剣を手にしているわけではない。手にしたとしても、聖剣があるから無敵という訳ではない。王妃となれば戦いの前線に行くなどもってのほかだろうし、実際聖剣で戦うのは俺なのだろうがな。」

「そんな、、。」

「俺は別に名誉が欲しくて戦う訳ではない。しかし、今の彼女の代わりに戦うのは、、いや初めて会ったのだ、印象だけで人を決め付けてはいけないな。」

イサキオスは言葉を飲み込み、首を振った。

「とにかく、彼女が聖剣を出せなければ話しは変わる。聖剣を出すには多分条件があると思う。」

自分が聖剣を手にした時を思い出しているのだろう。

私は、彼が聖剣を手にした時と、ゲームの中でヒロインが聖剣を出した時を重ねながら考えた。

多分その条件のは、強大な敵と対峙し絶体絶命になった時に、自分の命と引き換えになったとしても誰かを守りたいと願う事。
しかもそれだけでは無い。
魔力をかなり要する聖剣を維持出来る程の魔力量がある事、そして強大な敵と戦う鋼のような精神力、これも必要な条件だろう。
そうここは乙女ゲームの世界ではない。
乙女ゲームに酷似した世界。ここで死ねば本当に死ぬ。コンテニューなど出来ないのだ。
これだけの条件を満たすには、これから血反吐を吐くほどの努力が必要だろう。

マリアはどれほどの覚悟を持って、殿下と結婚したいと言ったのか、、。
彼女には申し訳ないが、私はイザベルを守ると心に誓う。
彼女は努力を知っている人だから。
甘え下手な彼女はきっと弱音も吐かない。
私が支えよう。
私は彼女を躾けるとあの日心に誓ったのだから。
こんな事を言えば彼女はまた真っ赤になって怒るんだろうな。

「ティーナ、身体が冷えてきた。もう寝よう。」

私は頷き立ち上がろとしたが、抱えられてベッドに寝かされる。

「???」

私は気付く。
あぁ、一緒に寝るのか。
えっ、一緒に、、そうよね一緒に、、
リサがブツブツ言ってた間違いってそうゆう事?
私は真っ赤になっていく。
彼は私を後ろから抱きしめた。

「ティーナはあったかいな。」

イサキオス、、胸にちょっとだけ手が当たってるよ?、、でもこれ突っ込まない方が良いよね。何か墓穴掘りそうだし。

ドキドキドキドキドキドキ、、

私は眠る事など出来ない。
心臓が口から飛び出しそうだ。
しかし気付くと彼は規則正しい寝息を立て始めた。
そっと顔だけ振り返ると彼は可愛らしい顔で寝ていた。

「あぁ、疲れていたんだね。」

私は彼の腕の中でクルッと回り、彼に向き合った。
彼の頭を撫で、おやすみと呟く。
彼に温められて私も気付けば眠っていた。
願わくば王妃という茨の道を歩んで行くイザベルが、彼に愛されて女としての幸せは手に入れる事が出来ますように。
祈りにも似た私の願いを夢の中で何度も何度も繰り返すのだった。
しおりを挟む

処理中です...