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本当の始まり

黒幕

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あれから数日経っていた。
私はアルとマグリットから事の真相を聞くのをやめた。
ロクな事じゃない予感がしたし、どうせ巻き込まれる時は頼んでもいないのに巻き込まれる。
それよりも、隠密魔法の精度を上げる方が先決だろうと思った。

その日の放課後、生徒会室で集まりがあった。
生徒会の仕事と言えば行事の運営だけでなく、生徒からの不平不満の聞き取りをし、それを改善したり、校内で不審な事件があればそれを解決したりととても忙しいのだ。

最近イサキオスと訓練へ行けてないなぁ、、。

心の中でボヤいた私は、身体が鈍る事に不安を感じ、明日の朝からランニングを始めようと決意した。

今日の議題が解決したところで、私の横に急にパオロ君が現れた。

「ティーナ聞いてよ!!!」

大声で名前を呼ばれ驚いて目を丸くしたのだが、私が驚いているなど彼は気にも留めていない。肩を掴み揺らし始めた。

「お、落ち着いて、落ち着いてパオロ君。話しちゃんと聞くから落ち着いて。」

脳みそが揺れている。
気分が悪くなりフラフラとする私の目に、帰ろうとしていたゴードンさんが振り返り目を輝かせている姿が見えた。

「パオロ先輩!?」

ゴードンさんは180㎝を超える長身の持ち主なのだか、小さなパオロ君に合わせ膝立ちになり、彼の両手を握り何だか目をウルウルしさせている。

「あぁ、ゴードン。」

ゴードンさんに比べ、パオロ君の反応はあっさりしたものだ。それより私に話しがしたいのだろう。手を振りほどこうとしている。

「2人は知り合いなの?」

私がパオロ君に聞いたが、答えたのはゴードンさんだった。
彼は青い短髪に糸目に大きな口、そして長身。表情が乏しいので何を考えているか分からない上に素っ気ない話し方をするので、ちょっと怖いイメージがあった。
その彼が頬を染めながら、糸目をウルウルさせてベラベラと語りまくる。

「俺はパオロ先輩が生徒会に入られていた時に、手伝いとして参加してたんだ。当時2年生だった俺に、先輩は手取り足取り色々教えて下さった。パオロ先輩は優しい喋り方をする人でな。それはそれは一緒に過ごすだけで癒されるんだ。それにパオロ先輩は1年の時からずっとAクラスでおられた優秀な方でな、、、」

私は途中から面倒くさくなって、聞いているふりをしている。
ちなみにパオロ君は優しい喋り方をするのではなく、聞こえないほど小さな声で喋っていただけだ。
今は人並みの声になったが。あれを優しい喋り方で癒されると言う彼は強者だろう。

「お会いできて光栄です。」

彼はそう言って締めくくった。
パオロ君はようやく終わったかとホッとした顔になり私に向き直った。

「ティーナ聞いてよ!」

あれを聞いた後にゴードンさんを無視して、そのテンションで話し始めるパオロ君はさらなる強者だ。
それからパオロ君の私のお父様の愚痴がしばらく続いた。
パオロ君の背中を撫でながら、お父様に代わって謝罪するのが私の仕事だ。

彼が落ち着いたところで、先日の侵入で失敗した話しを、学園長先生の部屋に忍び込んだというのを割愛して相談してみた。

「僕は闇魔法は使えないからね。ハッキリとは言えないけど、旦那様から、隠密ゼロっていう魔法があるのは聞いた事があるよ。隠密って使い始めた頃は目立たなくなるってぐらいから始まるんでしょ?隠密も極めれば、そこに存在しないってところまでいけるらしいよ。まぁ、頑張って」

「、、ゼロかぁ。何かカッコ良いね。」

要するに私はお父様から言わせれば、ひよっ子なのだ。
隠密もまだまだひよっ子ということだ。
そこまで大人しくしていたゴードンさんが、私の肩を叩いてくる。
彼の方を見ると、彼は首を傾げながら、

「クリスティーナ嬢とパオロ先輩はどういう関係なんだ?」

と聞いてきた。

「えーっと、パオロ君は私のお父様に雇われていて、今私の家で暮らしているんです。」

そう言うと、ゴードンさんは私の前で片膝をつき、私の右手を握った。

「パオロ先輩がお世話になっている方の娘さんなら、私にとっても大切な人だ。クリスティーナ嬢何かあれば俺は君を助けるから、相談しなさい。」

「、、あ、ありがとうございます。」

私は戸惑いながらも微笑んだ。
取っつきにくいと思っていた先輩と仲良くなれそうで嬉しい反面、アルとマグリットからきな臭いフラグを立てられているのに、これ以上のフラグは必要ない。何かあればと言う彼の言葉は恐怖でしかないのだ。
しかし何も知らないゴードンさんは満足げに頷いた。

「パオロ君はもう帰るの?」

私が聞くと、彼は真面目顔になった。
とは言ってもきのこの様な外見の彼は目も見えないので、雰囲気がピリッとしたという程度しか分からないのだが。

「この前の騒動の黒幕が分かったから知らせに来たんだよ。ゴードン、ティーナを助ける気があるなら一緒に聞いて。」

ゴードンさんは頷き、パオロ君の横に座った。
パオロ君は結界を張り、周りに話しが漏れないようにする。

「黒幕は陛下のお兄さん、ジェファーソン・レヴェンシュタイン。」

「お兄さん?」

私は首を傾げた。
陛下に兄弟などいただろうか、、。
3つ下に妹君がおられたが、その方は他国へ嫁いでいる。

この国では一夫一妻制が基本だ。妾を持つ貴族も中にはいるが、相続争いなどで人命が失われるという悲劇を無くす為に、チャールズ様(現陛下)の代より法律で定められた。
よって他で急に兄弟が見つかったなどとあり得ないのだ。

「それが今まで隠されていたらしんだけど、ジェファーソン様が産まれてすぐに誘拐にあっていたんだ。手がかりも無い
、身代金の要求も無い、ジェファーソン様はそのまま行方不明になったらしくて。」

「そんなの知らないよ?大事件じゃん。」

「それが、ソフィー王妃とジェファーソン様が部屋で2人きりでいる時に誘拐にあったらしく、自分の責任だとソフィー様が落ち込んで食事も喉に通らない程衰弱したらしくて。」

それはそうだ。我が子を奪われた悲しみに加え、国の大切な世継ぎを奪われたという罪悪感、彼女の悲しみは計り知れない。

「そこで、陛下が赤子は死産だったと国民に伝え、誘拐事件を知っている城の者達には箝口令を敷いたんだって。」

「王妃様を守る為だね、、。でも今になって何で?」

「ジェファーソン様は誘拐にあった後、何があったかは分からないけど道端に捨てられていたらしくて、平民の夫婦に拾われて育てられたんだ。彼は魔法を使えたし、身体も鍛えて剣の才能も開花した。ずっと傭兵団に所属して、国の為に働いていたらしんだけど。」

それから長々と語り出したパオロ君の説明をまとめると、そこに陛下と対立している貴族達の存在が関係してくる。
対立派の貴族達は考えた。
幼い頃より王政を学び、頭の良く融通の利かないチャールズ、そしてその息子ヘンリーがこのまま国を動かしていくより、ジェファーソンを陛下に据えた方が扱いやすいのではないかと。

そこでジェファーソンの居場所をずっと探させていたらしい。
彼は中々見つからず捜索は難航した。
諦めかけた時に、傭兵団にとても腕の立つ男がいるという話しを聞きつける。
その男の事を調べさせると、その男は現在39歳。平民の娘と結婚し、男の子を1人もうけていた。息子の歳はヘンリーと同じ13歳。
そして、彼はチャールズやヘンリーと同じ水の魔法を操る事が分かった。
そして何より、顔立ちが陛下とそっくりなのだ。

そこで彼の魔力鑑定を行う運びとなった。
彼は王城へ連れて来られ、陛下立ち会いの元魔力鑑定が行われた。
近しい親族であれば魔力の質が似ているのだ。
これにより、ジェファーソンは赤子の時に連れ去られた陛下の兄だという事が判明した。

そこで涙の再開となるかと思われたが、今まで会ったことない2人が急に分かち合うなど難しい。
しかも、本当なら自分が陛下になっていただろうジェファーソンにとって、チャールズ陛下は複雑な存在だった。

しかしその後、ジェファーソンは自分は陛下の器ではないと言い切った。
反対派貴族達の思惑は上手くいかないかと思われたのだが、ジェファーソンは自分の息子を殿下にしたいと言い出したのだ。
息子には国を治めるだけの器があると、、。

「それを陛下は認めなかった。まぁ、当たり前だけどね。それで、ジェファーソン様の息子を殿下に祀り上げる為に、反対派がヘンリー暗殺に動き出したってわけ。」

パオロ君の説明が終わり、私は頭がパンクしそうだった。
ただでさえ、マリアの事でややこしい状態なのに、、。
パオロ君は尚も、それからと人差し指を立てた。

「そのジェファーソン様の息子がこの学園に入って来るらしいよ。同級生になるからくれぐれも気をつけてね。」

彼はニヤッと笑った。
私も笑う。
いや、笑うしかなかった。
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