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本当の始まり

不法

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私は家に帰ろうと、屋上の扉を開けて中に入った。しかし、その途端両側から腕を掴まれてしまう。

「はい!確保~!」

「えっ?アル!?」

「1人で何をやってるんだ。」

「マグリットまで!どうしたの?」

「どうしたもこうしたもないよぉ~。イサキオスが用事があるから、僕らがクリスを見張ってるわけ。」

「見張るって!?」

「だって、ほっといたらクリス悪い事するでしょ?」

「アル、、私を何だと思ってるの?悪い事なんてしないよ?」

私の言葉にマグリットが渋い顔をした。

「じゃぁ、それは何だ?」

私の肩を指差した。黒板の目玉は見えなかったが、ペペロは皆に見えているらしい。

「、、これは、、私の右腕?」

私が質問風に答えたので、ペペロが怒り出した。

「右腕?ではありません。右腕です。皆さま主人のご友人ですかな?ペペロと申します。以後お見知り置きを。」

2人が気持ち悪そうにペペロを見ながら、それぞれ挨拶した。

「いやぁ、アルルーノ様は闇魔法をお使いになるのですかな?心地良い魔力を感じますなぁ。そしてマグリット様、あなたは風の魔法を使うようですが、精神が黒いですな。いやぁ心地良いです。」

「「ブッ!!アハハハハハッ。精神が黒ってどんなのぉ!!」」

私とアルは声を合わせて笑い合った。笑い過ぎて涙が出る。マグリットは機嫌が悪い顔になり、私の頭だけ叩いた。
痛い、、。

「うるさい。それで結局何なんだそれは?」

「えーっと、魔物?」

私が答えるとペペロは頷いている。

「何でお前の肩にいる?」

「えーっとそれは、私今から家に帰るんだけど、2回も説明するの面倒くさいし付いてくる?」

2人は呆れた顔をした後に頷いた。学園は明日休みなので、1度寮へと戻り、リサ達に帰る旨を伝えた。皆はペペロを見ても驚かなかった。さすが私のメイド達。むしろペペロを愛でていた。
その後、馬車に皆が乗り込み出発した。
馬車の中ではペペロから魔界の様子を聞いた。魔王がいない魔界は今荒れ放題らしい。強い魔物が弱い魔物を家畜のように扱い、気に食わない事があれば殺す。聞いていて吐き気がしたが、人間の世界もさほど変わらないのかもしれないと思い私は落ち込んだ。
ペペロが私の膝の上に立てり、私の顔を覗き込む。

「何?」

「いえ、主人はお優しいのだなと思いまして。魂は主人そのままなのに不思議ですなぁ?」

ペペロが私の顔に近付き過ぎて、もうキスしてしまいそうだ。その時、馬車がガタンッと揺れた。私はバランスを少し崩し、ペペロの眼球にキスをする。

「ゲッ、、オエッ、、。」

「主人失礼ですな。」

ペペロはまんざらでもないのか、しまっていた羽を出してパタパタと動かした。
これは攻略対象者との馬車でのイベントだ。何でペペロと、私はグッタリとした。

家に着くと、お父様に知らせが届いていたようだ。玄関で待っていてくれている。
お父様の顔を見ると何だかホッとする。この前会ったばかりなのに、長い事会っていなかったようなそんな気がした。
今回はエリーゼともゆっくり話しが出来るだろうか、、。
馬車から降りると私は真っ直ぐお父様の腕の中へと駆けて行った。お父様が私を抱きとめてくれる。

「おかえり。クリスティーナ、、ヘンリーの事聞いたよ。大丈夫かい?」

私は頷く。

「きっとヘンリーは心が疲れただけなんです。次に会う時はいつもの彼と会えると、、そう信じています。」

私の答えに、お父様は満足そうに頷いた。

「これが魔界から来たお前の右腕か?」

お父様はペペロに触れた。バレンティア家の人間は怖いもの無しだなと感心する。ちなみに、私はお父様と抱き合っていたので、ペペロは肩に乗れず私の頭にいる。私は主人のはずなのだが、、。
お父様に触られ、ペペロは目を細めた。きっと好きな魔力だったのだろう。チョコチョコと動き私の肩へ移動して来る。

「ペペロと申します。以後お見知り置きを。主人のお父様ですね?」

「そうだ。話しを聞かせて貰いたいのだが、よろしいかな?」

「もちろんです。主人のお父様なら私にとっても大切なお方です。何なりとお聞き下さい。」

ペペロは胸を張った、、とは言っても胸などないのだが、私にはそんな風に見えた。
私達はお父様の執務室に移動して、私が聞いた話しをペペロにもう一度して貰った。特にやる事の無い私は優雅に紅茶を飲みながらお菓子を食べている。

「と言うわけです。」

ペペロは机の真ん中に立ち、皆に説明している。パオロ君もお兄様もいなかったので、部屋には私達4人と魔物1匹だ。
お父様は唸った。娘がすでに魔王になっていると聞かされ複雑なのだろう。

「魔王とは一体何なのだろうか?その強さは?人間が魔王になどなって、娘の身体は大丈夫なのか?」

ペペロは瞳を閉じて答える。

「魔王とは魔界を統べる者です。強さはこの世界など一瞬で吹き飛ばしてしまうほど強いです。しかし、主人の器は今は人間なので、そこまでの強さは持ち合わせていないようです。身体の影響は無いでしょう。」

ペペロは簡潔に答えた。
今度は私が質問した。

「そもそも何で魔王は魔界を飛び出したの?」

ペペロは疲れた様な目になった。きっと彼なりに苦労があったのだろう。

「魔王様が、魔界を統治するのに飽きたとおっしゃいまして。まぁ、良くある事なのです。魔王様には寿命がありません。魔界で悪さをする魔物を抑えつける毎日に嫌気がさして、たまに家出をするのです。魔王様は眠る事も出来ないので、気分転換に人間に自分の魂を植え付け、人間として産まれ、生活し、そして死に、また魔界に帰って来ます。人間の間、魔王様の記憶がある時もあれば、クリスティーナ様の様に別の人格になる時もあります。」

「何て迷惑な。」

私は呟いた。

「ただクリスティーナ様は魔王様の魂を持っているわりに魂が綺麗過ぎるのです。クリスティーナ様を産んだ方がとても魂の綺麗な方だったのでしょう。」

私はお母様を思い出す。嬉しくなって私は微笑んだ。

「そして主人の側にいる、光の魔法を使う男、、私はあの魔力とても苦手です。彼が側にいる事で、主人の禍々しい魔力が抑えられているのでしょう。」

お父様がそれを聞いて急に立ち上がった。

「クリスティーナ、今すぐイサキオス殿と結婚しなさい。明日にでも!」

「お父様落ち着いて下さい。私今年14歳になりますけど、結婚出来るまでには後1年かかります。」

お父様は15歳過ぎねば結婚出来ない事を思い出してガッカリした。

「まぁ、彼が側にいれば大丈夫ですよ。フォッフォッフォッ。」

ペペロがまた変な笑い方をした。
とりあえず私に急な変化は無い事が分かり、私も皆も安心したのだった。

しかし、安心したのも束の間、私の家に有る魔法陣が働いたのが分かった。
この魔法陣は城より急ぎの用がある時しか働かないものだ。
皆に緊張が走った。
執務室の扉が叩かれた。

「誰だ。」

お父様の問いには答えず、男の声が扉の外から聞こえた。

「至急城へ来て下さい!ヘンリー様が亡くなられました。」 

男の声に私達は色を失った。
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