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本当の始まり

新たな衝撃

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私達はお父様に付いて一緒に城へと来ていた。
城の中は、家来達が慌ただしく走り回り混乱している様子だ。
事態が分かるまで私達は客間で待つように言って、お父様は陛下の元へ行く為1人で出て行った。
後から来たイサキオスも客間に合流したのだが、彼は私の肩にとまった目玉が気になっているようだ。皆が顔面蒼白になり言葉を発しないので、質問したいのを我慢して視線をこちらに送るだけに留めていた。

しばらくして、開けていた扉からマグリットの知り合いが通ったのが見えたらしく、彼は立ち上がって出て行った。
しばらくして戻って来た彼の顔色はさらに悪くなったような気がした。
私は嫌な予感がした。

「死んだのはヘンリーだけではなかった。」

皆は目を見開き次の言葉を待った。私の嫌な予感は膨れ上がり、頭痛がし始める。涙まで溢れてくる始末。
聞きたく無い、聞きたく無い、、、でも聞かなくては、、。
私の涙が一粒こぼれ落ちたのと、マグリットの言葉が出たのは同時だった。

「マリア嬢も一緒に死んだ。」

「「「なっ!!!」」」

皆が立ち上がった。私は驚いたが、少し予感していた。今は衝撃が大き過ぎて、動揺しているが、ヘンリーが死んだと聞いた時に嫌な予感を感じた。それはこれだったのかと妙に納得した自分がいた。
衝撃で心が凍ってしまったのか、悲しみは沸いてこない。

「何があった?」

イサキオスが聞いた。

「詳しくは分からないそうだ。その場にはヘンリーとマリア嬢しかいなかったらしい。」

皆思った。謹慎中のヘンリーとマリアが2人きりで会えるはずがない。しかし、言葉を挟まず先を促す。

「ヘンリーが陛下の後を継げない事を悲観して毒を飲んで自殺した。そしてその後、ヘンリーが死んだ事に絶望したマリア嬢が同じ毒を飲んで後追い自殺した。それが真相らしい、、。」

「そんなのおかしい!!」

私は気付けば声を上げていた。

「ヘンリーはそんな事で自殺したりしない!!」

最後に会った時の彼は確かに黒いオーラが漏れ出し、彼らしからぬ言動をした。しかし、イサキオスの光の魔法により、彼は自分を取り戻したはずだった。私はイサキオスを見た。彼は力強く頷いてくれた。
マグリットも頷いた。

「俺もそう思う。謹慎中に2人きりで会えた事、そしてヘンリーが毒を入手していた事、その同じ毒をマリア嬢も持っていた事、全てがおかし過ぎる。しかし、これだけ混乱していれば、真相がどんなものだったか、陛下に会うまでは分からないだろう、、。」

私達も同じ考えだった。皆が頷く。
しかし、その日お父様が戻る事は無かった。使いの者が来て、私達に一度帰るようにと伝言があった。
明日はヘンリーの葬式になると、、。
マリアはヘンリーと結婚していた訳でないので、葬式は別になる。
マリアにとってこの世界で産まれたのは、彼と結ばれる為だけだった。
結ばれる事なく死んだ彼女をせめて同じお墓に入れて欲しい。そんな私の願いは届く事はないだろう

次の日、城の横に古くからある大聖堂でヘンリーの葬式がとり行われた。
彼の最後を見届ける為に、建物から溢れ出るほど大勢の人が集まった。
私は昨日帰ってからも泣く事は無かった。実感が無い。今思えばそうだったのだろう。
彼の死に顔を見た途端、次から次へと涙が溢れた。
イザベルは陛下の近くに座っていた。黒いベールに隠された彼女の顔をうかがい知る事は出来なかったが、うなだれた肩から焦燥感が漂っていた。

マリアの両親がヘンリーの葬式に参加する為に、彼女の葬式は1日延びる事となった。
私達は2日に渡り葬式に参加し、涙に暮れるのであった。
真相は分からず仕舞い。
そのまま終わるかと思われたこの事件は、思わぬ人物の訪問で新たな展開を見せる事となる、、。
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