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本当の始まり

ラスボス

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私はペペロと我が家にある魔法陣に入り城へと向かっていた。
お父様は付いて行くと言い張ったのだが、反対したのは私でも陛下でもなくペペロだった。

国で1番偉い人が忽然と姿を消せば城ではもう騒ぎになっているだろう。ハナモリカナエとやらに見つかれば、陛下はきっと殺される。陛下の世継ぎが死んだ今、あなたが死んでどうするのだと。
バレンティア家は家自体に魔の力が宿っているので、陛下を隠すならこの家が良いだろ。そして、そのハナモリカナエを倒す事が出来るのは、我が主人以外あり得ないだろうと。
お父様はペペロの言葉に納得した。納得したと言っても、涙はぼたぼた流すし、最後まで私の服の裾を離さなくて困り果てたが、、。

「ペペロは本当に魔王の右腕なんだね。」

魔法陣の光に包まれながら、私はペペロを見た。

「最初からそう申しております。さて、どんな相手かは知りませんが、気を引き締めて下さいよ。あなたは魔界でいた頃より阿保なのですから。」

「はいはい。」

光が収まると、城の裏庭へと出た。
従者達が走り回る姿が見てとれるので、陛下がいなくなったのはやはりバレているようだ。

「さて、どうしようか、、。」

私は城の中を1人で歩いた事などない。1番上に住まうと言っていたが、1人でたどり着く事が出来るのか。

「よし、とりあえず屋上に行ってみようか。」

この城は、とんがった屋根が連なった形の城ではなく、学校の様な形をしている。大きさは日本の学校とは比にならない程大きさで、そこで夜会が行われた事があるほどだ。
私はペペロを連れて屋上へ転移した。
眼下には私達が住んでいる街が見える。こんな時に、見晴らしを眺めている場合ではないのだが、息を呑むほど王都は美しかった。

「美しいであろう。」

不意に後ろから声がした。ギクッとして振り向くと、そこにはマリアがいた。

「えっ?マリア、、?」

しかし、淡いピンクの髪と瞳の彼女と違い、今目の前にしているマリアは黒髪に黒目だ。
私の言葉にマリアは眉間にシワを刻んだ。

「あの様な女と私を一緒にするな。私はあやつが生まれるとうの昔に生まれておるのだから。」

「、、、ハナモリカナエ、、。」

マリアに似た女は片眉だけ器用に上げ、考えている顔をした。

「リチャードか。急に姿を消したと思えば、バレンティア家の者達の仕業か。私の魔法をかいくぐり、私の秘密を知り得るとは、、お前は一体何者なのだ?」

ハナモリは何でも知っているという訳でないようだ。
ペペロが結界を張れと耳打ちした。
これではペペロの右側が私という立場ではないのか?
いや、そんな事を思っている場合ではない。私は屋上全体に結界を張った。

「私を倒すつもりか?」

いち早く気付いたハナモリが聞いた。
私は頷かなかった。彼女が何を考えヘンリーを殺したのか直接聞くまで、彼女を倒すと決めれない。彼女は伝説の王妃なのだから、、。

「分からない。あなたが良い人なのか悪い人なのか、本当のあなたを私は知らないから。」

ハナモリは鼻で笑った。

「私を倒しに来たのは、えらく青臭い考え方をした小娘だな。悪い、悪くないなど国を動かすのには無意味だ。上の立場に立てば悪も善になり得る。重要なのは国が存続する事、それだけだ。」

「それなら、国が存続していくのにヘンリーが邪魔になったから殺したという事ですか?」

ハナモリは笑った。

「では言ってみろ。あやつが王になる器を持った人間かどうか。最近の行いを見て、あやつが民を導いていけるかどうか。」

ヘンリーは確かにニコラスの存在と、そしてマリアに恋をし少しおかしかった。しかし私達ばまだ13歳、これからいくらでも考える時間がある。

「ヘンリーは殿下である前に人間だ。間違える事だってある。でも、ヘンリーはちゃんと間違いを理解し、さらに強くなって私達の元に戻って来たはずだった。あなたがそのチャンスを奪った。」

「ハッ、殿下である前に人間だと!?笑わすな。私が守って来た国を任せる人間がそのような者で私が納得するとでも?娘、私が召喚された事は聞いたか?」

私は頷いた。

「では聞く。私を勝手にこの国へと召喚した事は?お前の言うところの、善か悪か?」

「それは、、でもあなたは国王に「善か悪かと聞いているのだ!」

「、、、悪です。」

彼女は満足そうに頷いた。

「しかし、この国にとっては善だ。18歳だった私が日本という国で、愛する人と結婚を1ヶ月後に控えていたとしてもだ。」

私は驚き目を見開いた。国王に溺愛されたと聞き、彼女は勝手に幸せだったと思っていた。

「私はこの世界に呼ばれた意味を必死で考えた。いや、違う、、ここで暮らす意義を見い出そうと必死だった。そうじゃなければ、心から愛した人との別れを受け入れる事が出来なかった。」

「そんな、、。」

私の知らない事がまだ山程あるのかもしれない。彼女を悪と決め付けるのは間違っているのか、、。

「ではマリアは?マリアが死んだのは?」

マリアの名前を出すと、ハナモリは憎々しげな顔付きになった。

「あやつは真実を知り勝手に死んだ。サーキスにヘンリーを殺す時、あやつを巻き込めと言っておいたのだ。本当はあやつを罪人にして打ち首にでもさせるつもりだったが、、。まぁ良い。死んだなら結果的に問題無い。」

私は絶句した。彼女が何を言っているのか理解出来なかった。

「あやつの容姿は私そっくりだ。最初見た時は驚いた。そしてすぐに邪魔だと思うようになった。あやつは自分の取り巻きを作ろうと城をチョロチョロとネズミの様に動き回っていた。目障りなあの女をどう殺してやろうか考えるのは楽しかったな。」

ハナモリは愉快そうに笑った。
正解はきっと誰にも分からない。でも彼女を倒さなければ、陛下が死に、苦しむ人がきっと大勢いる。

「やっぱりあなたを倒す。」

ハナモリから笑みが消えた。

「あなたがいなくても私達には考える力がある。間違っているなら立ち止まって戻れば良い。間違えば殺すなど間違ってる!」

「青臭い小娘。良く聞け。お前に私は殺せない。私には神の力があるからな。」

「そんなもの私が消してやる!!神様、この人の不老不死の力を奪って!!」

「なっ!!!!」

ハナモリが驚き私の元へ向かって走り出したと同時に彼女は光に包まれた。
私はあまりの眩しさに目を細める。ペペロは私の頭の裏へ移動した。
世界が真っ白になった時に、聞き届けたと声が聞こえた。
光が落ち着くと、呆然とした顔で立たずむハナモリがいた。何も変わっていないようだが、彼女は急に笑い出す。

「ハッハッハッハッ、ヒィーッヒッヒッ、、、あぁ愉快だ、、ハハッ。ようやく私は死ねる。」

彼女はひとしきり笑った後、私を睨んだ。

「感謝する娘。バレンティアの娘の名はクリスティーナだったか?私を不老不死の力から救ってくれてありがとう。しかし、私は今からのこの生を謳歌する。易々とは殺されたりしない。私を倒したければ、私を超えて行け。」

彼女は聖剣を取り出した。ペペロが肩に戻り囁く。

「主人、あれは人間には効きませんが、主人には効きます。お気を付け下さい。」

それなら私は魔剣を出せなければ勝ち目などないだろう。身体の中にある魔剣を出すには、、。

「主人、魔剣も出せないのですか?嘆かわしい。早くせねば死にますぞ。私が魔の力を流し込み、取り出しやすくしますから、さぁ早く!」

ペペロはそう言うと私の身体に力を送って来た。その力の行く先に魔剣の存在を感じた。
次の瞬間、禍々しい光を放つ、真っ黒な剣が私の手に握られていた。

「私は聖剣を神の願いで出して貰ったが、正確には魔物を聖剣で倒した事はあまり無い。戦いはさほど得意ではないのだ。だが私にはもう1つ力がある。」

ハナモリが急にそう語り始めた。
その途端、私の結界が壊される。

「何!?」

ハナモリの後ろに立った者こそ結界を壊した犯人、、。

「イサキオス!!!」

そこには瞳がポッカリ抜け落ち、真っ暗な穴に変わってしまった彼が立っていた。
パオロ君が乗っ取られた時の事を思い出した。

「パオロ君やゴードンさんを操っていたのはお前だったのか!!!」

もしそうならば、アメリ・ファーバァーは冤罪により死んだ事になる。罪を犯した事には変わりないが、減刑の余地があったのなら死なずに済んだかもしれない。

「そんな事はどうでも良いだろう?クリスティーナ、お前はここで死ぬ。」

私はイサキオスに1度も勝った事がない。あったとしても、彼を倒すなど、、。私が途方に暮れかけた時、私の周りが微かに光り始めた。

「待たせたわね。」

声が降ってくると同時に、イザベルが転移で現れた。いや、イザベルだけではない。サーキス君、お兄様にパオロ君、そしてアルにあとは割愛、、バシッ!!

「痛っ!!」

マグリットに叩かれた。

「今ロクな事考えてなかっただろうが。」

「ううぅっ。余計なのまで、、。」

私は叩かれた頭が痛いふりをして涙を零した。
見るからに顔色の悪いイザベルが私の背中を叩く。

「しっかりしなさい!!イサキオスは私達に任せて、あの女を倒しなさい!!良く分からないけど、悪い女なんでしょ?後で説明しなさいよ!!」

私は頷いた後真剣な顔に戻る。
イサキオスに皆が殺されない事を願いつつ、私は走り出した。
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