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本当の始まり

ラスボス2

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私は駆け出したと同時に結界を張り直す。城が壊れては大変だ。
ハナモリは微動だにせず私を待っていた。

「クリスティーナ、お前は私が願った3つの願いを何だと聞いた?」

彼女は突然聞いてきた。
私は魔剣を握りしめたまま慎重に答える。

「聖剣を出す事、不老不死の力、そして人を操る力。」

「フフッ。1つだけ間違っている。人を操る力は私は長い年月をかけ習得した魔法だ。私が願った3つ目の願いは、魔物を封じる事。私が聖剣を手に入れ立ち向かった最初の魔物は火竜だった。今まで普通の生活をしていた私が、聖剣を持ったからといって、火竜と戦えるはずなどない。」

私は頷く。第1騎士団とイサキオスの死闘を思い出す。

「そこで私は最後の願いに魔物を封じれるようになる事を願った。便利な力でな、解放する事も出来る。」

ハナモリは空を仰ぎ見た。すると、空に亀裂が入り裂け目が現れる。そこから現れたのは、体調15mほどの火竜だった。長い間封じられていたせいか、私達が1度倒した事がある火竜よりも禍々しいオーラを放っている。
火竜の口からギラリと牙が覗く。
咆哮を放たれれば一体火の海だ。
私は火竜に捕縛結界を張ろうと慌てたが、ペペロに止められる。

「主人、あなたは阿保なのですか?あぁ、阿保でしたね。あなたは魔物達の主人でもあるのですぞ。あなたは戦わずとも、語りかければそれで良いのです。」

「語りかける、、。」

ペペロは頷いた。
私は結界の上にとまった火竜を仰ぎ見て語りかけた。

「あの~、聞こえますかぁ?」

「違う!!腹から声を出せ!!」

ペペロに怒られる。

「お前達一体何をごちゃごちゃと。」

「「うるさい!!」」

ハナモリが口を挟もうとしたが、私達はそれどころではない。

「あのー!!話しを聞いて欲しいんですけど!!」

私は大声を出す。

「もっと声を出せ!!」

「そこの火竜!!私の声を聞けー!!」

「もっと!!」

「火竜!!!!!」

ようやく火竜は下を向いた。首を傾げながらこちらを見ている。

「ねぇ、ペペロ伝わったの?」

ペペロは首を振る。

「主人は本当に情けないですな。分かりました。お助けしましょう。主人の声に魔力を足しますから、もう一度話しかけて下さい。」

「うぅぅっ、はい。」

この一連のやり取りをハナモリは不機嫌な顔で見守っている。今攻撃を仕掛けてこないのは何故なのか?

「えーっと、良いのかな?」

ペペロを見ると、半眼になり、いつでもどうぞといった感じを出している。馬鹿にされ過ぎだ、、。

「火竜!!話しを聞いて!!」

火竜は今度はすぐこちらを向いた。さすがペペロだ。

「主人結界を解いて下さい。」

「はい!」

私は素直に従う。結界を解くと、火竜は私の真横に座った。大きな顔を私の肩に擦り付けている。
ハナモリは目を見開き驚いた声を上げた。

「なっ!!!何でだ!!!何で火竜が懐いておるのだ!?」

ペペロが半眼をやめ、胸もないのに胸を反り返すようなポーズをとる。

「こちらにおわすお方をどなたと心得る。魔界を統べる王の魂に宿すお方、その名をクリスティーナ・バレンティア様。図が高い。控えおろ!!」

「ペペロ?それ何か聞いたことある、、。何だっけ?」

私の疑問が解ける前にハナモリが先に口を開いた。

「魔界を統べる王だと!?クリスティーナ、お前魔王なのか!?」

どうやら私が魔王だった報告はいってなかったようだ。

「はぁ、何かどうやらそのようで。」

私は曖昧に肯定した。自分でも実感が無いのだからしょうがない。

「何だそれは?お前は何でもありだな、、。しかし、私は諦めはしない。私は伝説の王妃なのだから!!!」

彼女は再度空を仰ぎ見た。先程裂けた空間よりさらに大きい空間が開く。
するとそこよりボトボトと雨のように地上に魔物が降り注いだ。
ゴーレム、ゴブリンに、ガーゴイル、小型の竜に、アルゲドン、、地上より悲鳴が聞こえた。

「主人これはまずいですぞ。早く収集に向かわねば。」

私は頷いた。このままでは人々の命が危ないだろう。
一刻の猶予も無い。私は今度こそハナモリに斬りかかった。聖剣と魔剣がぶつかり合うと、剣がぶつかるたびに魔力を相手に奪われるようだ。剣がぶつかり合うような金属音もせず、不思議な感覚になった。

「主人、御身だけに結界を張って下さい。」

剣で打ち合う中、器用に私の肩にとまっていたペペロが私の耳に囁く。私は言われた通り私とペペロだけに結界を張った。その途端火竜は咆哮を放った。
凄まじい炎に包まれ前が見えなくなる。私は自分の結界に守られているが、それでも恐ろしい光景だった。

「ねぇ、ペペロ、皆は無事なの!?」

「はい。向こうで戦っている者達と炎を吐いた方向は違います。」

「良かった。」

炎が治るとハナモリの姿は無かった。

「彼女は!?逃げられた!?」

ペペロは首を振った。

「彼女は死にました。」

「えっ!!??」

私は驚いた。伝説の王妃の死に様がこれではあんまりなような気がした。

「主人、情けは無用です。あなたはそれよりしなければならない事があるでしょう?」

私は振り返り走り出した。
皆の元へ着くと、無傷なイサキオスと、ボロボロな仲間達が立っていた。

「そっちは片付いたの?」

イザベルはイサキオスから距離を置いて戦っているようだ。顔色は悪いが無傷だった。

「うん。私は何もしてないんだけどね。」

「そう。火竜がいるのが気になるんだけど、、。ねぇ、ティーナのペットなの?あの長い尻尾振ってるのやめさせなさいよ。城の屋根が壊れるわよ。」

火竜は私と目が合ったのが嬉しかったのか尻尾を振っている。
私は尻尾振っちゃダメーと叫ぶと、火竜は落ち込みうなだれた。

「それにしても、ハナモリは死んだのに、何でイサキオスが元に戻ってないの?」

私はイザベルに聞いた。

「そんなのコッチが聞きたいわよ!そろそろ誰か死ぬわよ!」

マグリットは鼻血を、アルはほっぺが腫れているし、サーキス君は目の周りが青い、、。聖剣は人には効かないので、拳でやり合っているようだ。
これでイサキオスが剣を握って現れていたら、皆死んでいただろう。

「主人、ハナモリの人の心を操る力とは、魔法ではありますが催眠術に近いかと。一度かかってしまえば、かけた本人が解くか、自ら解くか、、そうでなければ彼はこのままかと。」

イザベルは私の肩で喋る目玉を見て驚いた。

「あぁ、色々あり過ぎて頭が痛いわ。全部まとめて後で聞くから。それより先にイサキオね。彼はもう王国一の強さを誇るんじゃないかしら、、。倒す事が出来るならティーナあなただけよ。半殺しにして止めなさい!!」

イザベルがイサキオスを指差し私を煽る。

「そんなぁ、、。」

勝てる気がしない。
私は真のラスボスはイサキオスだったという事を知る。それでも皆を死なす訳にもいかず、彼の元へ走るのだった。
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