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本当の始まり

終わり

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私がイサキオの元へ行くと、マグリット、アル、サーキス君が集まって来た。

「お兄様とパオロ君は?」

私は簡潔に聞いた。

「魔物の元へ向かった。それよりなぜイサキオスの魔法は解けない?」

マグリットが鼻血を拭きながら私の方を睨んでくる。

「マグリット、視線をイサキオスから外せば死ぬよ?皆、イサキオスは催眠術にかかってるようなものだから、かけた者が解くか本人が自力で解くしかないって!」

アルが聞いた。

「クリス、パオロ先輩の時はどうやって解いたの?」

パオロ君の時、、、私は考えた。しかし、あの時の私は何だか自分が違う人間になっていたような感覚だったのだ。おぼろげにしか記憶が残っていない。

「んー、、確か、、ビビらした!」

必死で考えて思い出し、スッキリしたせいで全開の笑顔になったのだが、皆は半眼になって私をジトっと見つめてくる。

「ビビらすって、何したの?」

後ろからイザベルの声がした。彼女も近くまで来ているようなのだが、私は振り向く事が出来ず慌てて声だけかける。

「イザベル危ないよ?イサキオスとやり合えば皆本当に死ぬんだからね?」

「良いのよ。私も混ぜなさい。」

マグリットが横でブツブツ言っている。

「マグリット何言ってるの?」

私がそう聞くと、マグリットは私の腕を思いっきり掴み引き寄せると私にキスをした。

「んーんーんーーーー!」
(ちょっと何するのー!)

彼の胸をドンドン叩くが離しゃしない。ピシッ!!何か音がした気がした。
ようやく離したので、私はマグリットにキレようとしたのだが、今度はアルに腕を掴まれる。

「マグリットだけずるいでしょ!」

アルは謎の言葉を言うと私を引き寄せキスをした。

「んん、んーんーんんーーーー!」
(ちょっと、アルまで何考えてるの!)

アルに離されたところで私は精神的ダメージと酸欠と相まって白目でふらつく。そんな私の腕を次に掴んだのはイザベルだった。サーキス君が私の腕を掴み損ね舌打ちをしたのだが、それに気付く余裕は無い。
私は無抵抗でイザベルにキスをされた。彼女は唇を離してから、

「記念にしとくわ。」

と笑った。
ようやく俺の番と喜んで寄ってきたサーキス君にイサキオスの鬼の様な声が響き渡る。

「良い加減に、、良い加減にしろぉぉぉぉぉお!!!!」

彼の咆哮で私の白目は治った。そして私の目に映ったのは、暗闇のぽっかり開いた穴がある彼では無く、美しい金色の瞳の彼だった。

「イサキオス、、良かった。」

反射的に流れた涙を彼は優しく拭い、消毒だと言って私にキスをした。
目を閉じ幸せを満喫しようとしたところで、ペペロに怒られる。

「主人、良い加減にして下さい。同胞が皆殺しにされますよ?早く行かねば。」

「そうだった。」

私は漏れ出した魔物の事を思い出した。皆が付いて行くと言ったが、ペペロが止める。

「必要ありません。主人は戦いに行くのではないのですから。さて参りますぞ!」

私はどうやってこの場を治めようか悩んだ。魔物が飛び出して行ってから時間が経ってしまっている。どこまで逃げ出してしまっただろいか、、。

「主人、あなたは全く。人望を集める才は確かに素晴らしいですが、魔王としてはさっぱりですな。明日から私がビシバシ教育致しますからそのつもりで。」

ペペロはそう言うと、目を閉じブツブツ言い出した。私の肩から降り、地面に着地するとペペロはどんどん大きくなっていく。
最初黒板で見た目玉の大きさぐらいになりようやく止まった。
彼は見上げるほど大きくなっている。

「私の本来の大きさです。さぁ、早くお乗り下さい。上空から魔物を誘導しましょう。」

「乗るってどこに?」

目玉は大きくなっても目玉である。羽は有るが背中は無い。
ペペロは口も無いくせにため息を吐く。

「足に決まってるでしょ。私の足に立って下さい。」

私はペペロの鶏のような足の上に立てった。立ったは良いが、ペペロはまん丸なので持ちにくい。

「落ちないで下さいよ?」

私は出来る限りペペロに引っ付いた。羽を動かし上空へと飛び出す。
高所恐怖症では無いが、さすがに怖かった。目を瞑っていると、ペペロの怒った声がする。

「主人、早く魔物達に呼びかけて!人間にも何をしようとしているのか分かるようにあなたの声を皆に届けますから、魔物を集めて下さい。」

私は怒られる事を覚悟で聞いた。

「ペペロさん、集めてどうするの?」

ペペロの瞳がジロリと私の方へ向く。

「主人、、あぁ、嘆かわしい。私が魔界とこちらを繋ぎますから、あなたは皆に帰るよう説明して下さい。」

「、、はい。」

「それぐらい自分で出来るようになって下さいよ!」

「、、、はい。」

私は優秀な右腕に助けられながら、魔物達を魔界へと帰したのだった。

伝説の王妃がひっそりとこの世を去ったその日、大きな鳥に乗り空からやって来た黒髪の少女が、人々の危機を救ったという噂が国中に駆け巡った。
それは新たな伝説の始まりだった。

1日経ち、私は城へ呼ばれていた。
正装したお父様に連れられ陛下の元へと向かう。
私も夜会さながらにドレスアップしている。そして、肩に乗るペペロも足にリボンを巻いておめかしした。
従者に連れられ向かった部屋の扉を開けると、待っていたのは陛下だけでは無かった。
イサキオス、マグリット、アルにイザベル、シャルロットやカイトもいる。
それにお兄様にパオロ君にサーキス君にニコラスに、、勢揃いだ。

「クリスティーナ良く来てくれた。そなたには感謝しても仕切れない。本当にありがとう。」

陛下は頭を下げた。
お父様は全くだとまだ怒っていたが、私は頭を上げて下さいと慌てた。
陛下は頭を上げたところで本題に入ったようだ。

「ところでクリスティーナ、そなた私の後を継ぎ女王にならないか?」

「はぁ!!??」

私は素っ頓狂な声を出したが、皆は驚いていなかった。先に話しを聞いているのか、、。

「そんな驚く話しでもないのだ。これを見よ。」

陛下は太い巻き物をコロコロと床に転がした。

「ほら見てみろ。ここから繋がってここへ来てだな、だからクリスティーナの母親は王家の血を引いていると言えなくも無いのであってな。」

どうやら巻き物は家系図だったらしい。

「陛下、そこまで遡れば誰でも王家の血を引いているのでは?」

私は陛下を半眼で見た。ヘンリーは死んでしまったが、陛下にはニコラスがいる。彼が後を継ぐのが一番だろう。
そんな事を思っていたら、ニコラスが口を開いた。

「私は後を継がない。イザベル嬢が王妃にならないと言うなら、私は陛下の後を継ぎ、王になる自信がない。そんな事を言う時点で私は王失格なのだ。」

私は慌てる。

「いやいやいやいや、ニコラスで荷が重いなら、私になんて重過ぎて重過ぎて。絶対無理だよ!!そうでしょうお父様?皆?」

私はオロオロと周りを見渡したが、誰とも目が合わない。何でだ!!

「お前1人で出来るなんて思っていない。」

マグリットが口を開く。

「僕達が支えるから。」

アルが言った。

「私もティーナが女王になるなら、第2王子の妃として、あなたを支えるのも有りかもと思えるのよ?」

イザベルがニコラスを見ながらそう言うとニコラスの瞳が輝いた。

「父さんだって隠居せずに、クリスティーナの側で働くぞ!」

お父様まで乗り気のようだ。

「クリスティーナは今や伝説の乙女だ。その上夫となるイサキオス殿は聖剣の持ち主。私の後を継ぐのにこれほど相応しい2人はいないのだ!」

陛下が熱く語る。
私はイサキオスの方を見た。彼に手招きされ側に行く。

「1人で背負わなくて良い。俺も一緒に考える。」

彼は私の手を握った。私は頷く。
耳元でペペロが、

「あなたは魔界で魔王だったのですぞ?たった1つの国ぐらい治めるのは容易い事ではないですか。私が付いているのです。大船に乗ったつもりでいなされ。」

フォッフォッフォッとまた不気味な笑い方をした。

私達はまだ学生だ。
学園生活を送る間に先の事を考える事となった。
この先どんな選択をするか自分でも分からない。
それでも皆がいれば、私は強くいられる。そう思った。

何年も先、陛下の後を継ぎ、新しい女王が誕生した。
肖像画に描かれた女王の肩に目玉が描かれていたとかいなかったとか、、
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みんなの感想(7件)

hiyo
2019.12.14 hiyo

お伽話らしい素敵な物語でした。
聖女、勇者、魔王、王子等々、悪役令嬢まで出てくる大サービス!
綺麗に纏まっていて楽しいお話でした。

最後まで読ませて頂いて、有難うございました。

たま
2019.12.14 たま

このお話しでは初めて内容の感想を頂きました(*´꒳`*)
嬉し過ぎです♪
ありがとうございます!
だいぶと前に書いた話しなので、読み返したら恥ずかしく思う部分もあるのですが、最初の話しなので愛着があったりで(´∀`*)
最後まで読んで下さって感謝感謝です☆

解除
ニカ
2019.03.12 ニカ

ついでの駄目出し ごめんなさい。

主権持って継承するなら 普通は 女王ですよ。その夫は王配。
例に挙げると 現在の英国女王エリザベス2世。
王配がフィリップ(エディンバラ公爵だったかな!?)=チャールズ皇太子やアン王女のパパ。

たま
2019.03.12 たま

さっそく直しました( ̄^ ̄)ゞ
詳しい解説をありがとうございます(^ ^)公開したの遅い時間だったのに、、ニカさんは神なのか!?と朝起きて文面に後光を感じた次第でございます(´∀`=)
もし今後小説を書く事があれば、また読んで頂きたいですm(_ _)m

解除
ニカ
2019.03.11 ニカ

国によって元首の職名が違うのは 成り立ちなどのせい。

王国なら王様(キング)だし 帝国なら皇帝(エンペラー)。公国なら 大公など。日本なら天皇ですね。

それら君主の呼びかけには 陛下を使います。

たま
2019.03.11 たま

さらになるほどです(*⁰▿⁰*)
もうあと1話で終わるはずなのですが、必要になってくる表現なので気を付けながら書いてみます(゚o゚;;
詳しく教えて頂きありがとうございます(>人<;)

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