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運命の出逢い
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### 運命の出逢い
入学式の翌日、カズは運命的な出逢いを果たしていた。
休み時間の合間に隣のクラスを訪れたカズは、そこで一人佇む男子生徒を見つけた。
男子生徒の席は廊下側から二列目の前から三番目の席。
小柄で童顔の彼の顔を見た時、何とも言えない懐かしさを感じた。
カズは思わず彼の前の席に腰掛けると、彼に話し掛けていた。
「君、名前は? どこの中学から来たの?」
すると彼は怪訝そうな顔をしながらも、
「高橋マサシ。階中」
と応えた。
カズは嬉しくなり、
「オレは橘カズ。仙中から来た」
と言うと、
「仙中の橘カズって⋯⋯陸上で全国大会ダブル優勝した、橘カズ!?」
驚いたように、興奮して話すマサシに、カズは、
「もう三年も前の話だぞ? よく覚えてんな、そんな事」
そう言ったカズに、マサシは、
「俺、君に憧れて陸上を初めたんだ。あの時の走りは今でも忘れられない! あれっきり大会に出て来なかったけど、君は陸上を辞めてしまったの?」
「あぁ、中一の秋に辞めたんだ。今は別のことをしてるからな」
「別のこと?」
皆んなには内緒だぞ、と断ると、
「実はマンガと小説を書いてる」
と、コソッと教えてやる。
「えっ? もしかして本名使ってる?」
と言うマサシに、カズは、
「あぁ、橘カズ」
と言うと、
「え~~~っ!!」
と、ものすごい大声が響き渡り、マサシは慌てて口を押さえる。
「本当に!?」
と聞くマサシに、カズは
「ホントだぞ」
と、軽く応える。
カズの言葉に、マサシは信じられないという表情で、目を丸くして固まっていた。
それから数秒後、彼の顔が一気に紅潮し、声を潜めながらも興奮気味に言った。
「つまり、橘カズって……『星屑ランナー』の作者で、『永遠の君』で新人賞を取った、あの橘カズってことですか!?」
カズは苦笑しながら頷いた。
「そうだけど、ちょっと大げさに言わないでくれ。この学校ではまだ誰にも内緒にしてるからさ」
「だって、だって⋯⋯! 橘カズの作品、全部読んでますよ! 特に『星屑ランナー』、泣きましたよ。ああいう青春物語、本当に心に刺さるんです!」
カズは少し驚いた。
まさか、自分の作品をそんなふうに思ってくれる人が、こんな身近にいるとは思わなかった。
「ありがとう。でも、まさか陸上を辞めた後に、こんなふうに誰かに評価されるとは思ってなかったな」
マサシは少し真面目な顔つきになり、静かに尋ねた。
「どうして陸上を辞めたんですか? あんなに走るのが好きそうで、ものすごく強くて速かったのに」
カズは窓の外に目をやり、少し遠くを見るような表情をした。
「中学一年の夏に、膝を悪くしてな。医者からは『無理に続けると後遺症が出る』って言われて。でも、本当の理由は⋯⋯それだけじゃないんだ」
マサシは黙ってカズの言葉を待った。
「オレ、走るってことが、段々苦しくなっていったんだ。観客の目、ライバルの存在、勝つことへのプレッシャー⋯⋯全部が重くなってきて。走ってるときの自分の顔が、好きじゃなくなった。だから、やめた」
カズの言葉は静かだったが、どこか切なげで、マサシは思わず息を呑んだ。
「でも、それからマンガや小説を書き始めたことで、また走ることと向き合えるようになった。オレの心の中の走る気持ちを、今度は紙の上で表現してるって感じかな?」
マサシは深くうなずいた。
「それって、すごく素敵なことですね。走ることを諦めなかった証拠です。ただ、形を変えただけ」
カズは少し驚いたようにマサシを見つめた。
「そうか? オレは逃げただけだと思ってたんだけどな」
「いいえ、逃げたんじゃなくて、進化したんです。走るカズと、書くカズが、今ここにいる。それって、すごくないですか?」
カズは思わず笑みをこぼした。
「お前のその言葉、ありがたいな。ちょっと泣きそうになったぞ」
マサシも照れくさそうに笑った。
「俺、これからも橘カズの作品を応援します。でも、カズさん、また走ることを再開する日が来るかもしれませんよ?」
カズは首を傾げた。
「どうしてそう思う?」
マサシは少し恥ずかしそうにしながらも、真剣な眼差しで言った。
「だって、カズさんの作品には、走ることへの愛が溢れてますから。心の奥底で、まだ走りたい気持ちがあるってことじゃないですか?」
カズはその言葉に、胸の奥が熱くなるのを感じた。
「⋯⋯マサシ、お前、本当に面白い奴だな」
それから二人は、お互いの好きな作品や、中学時代の思い出、そして将来の夢について語り合った。
マサシは将来、パン屋で働きたいと語り、カズは「じゃあ、オレが書いた料理マンガに、お前が解説を書くってのはどうだ?」と冗談を交えながら話す。
そんな会話をしているうちに、チャイムが鳴り、カズは立ち上がった。
「また話そうな、マサシ」
「はい、今度は橘カズの新作を読ませてくださいよ!」
カズは笑顔でうなずいた。
「ああ、約束する」
そう言って、カズは教室を後にした。
その背中には、かつての走る少年の影が、ほんの少しだけ重なっていた。
そして、カズの心の奥底には、新しい風が吹き始めた。
――彼を知りたい。
そう、彼を知りたいという気持ちが、静かに、しかし確実に、芽生え始めていた。
入学式の翌日、カズは運命的な出逢いを果たしていた。
休み時間の合間に隣のクラスを訪れたカズは、そこで一人佇む男子生徒を見つけた。
男子生徒の席は廊下側から二列目の前から三番目の席。
小柄で童顔の彼の顔を見た時、何とも言えない懐かしさを感じた。
カズは思わず彼の前の席に腰掛けると、彼に話し掛けていた。
「君、名前は? どこの中学から来たの?」
すると彼は怪訝そうな顔をしながらも、
「高橋マサシ。階中」
と応えた。
カズは嬉しくなり、
「オレは橘カズ。仙中から来た」
と言うと、
「仙中の橘カズって⋯⋯陸上で全国大会ダブル優勝した、橘カズ!?」
驚いたように、興奮して話すマサシに、カズは、
「もう三年も前の話だぞ? よく覚えてんな、そんな事」
そう言ったカズに、マサシは、
「俺、君に憧れて陸上を初めたんだ。あの時の走りは今でも忘れられない! あれっきり大会に出て来なかったけど、君は陸上を辞めてしまったの?」
「あぁ、中一の秋に辞めたんだ。今は別のことをしてるからな」
「別のこと?」
皆んなには内緒だぞ、と断ると、
「実はマンガと小説を書いてる」
と、コソッと教えてやる。
「えっ? もしかして本名使ってる?」
と言うマサシに、カズは、
「あぁ、橘カズ」
と言うと、
「え~~~っ!!」
と、ものすごい大声が響き渡り、マサシは慌てて口を押さえる。
「本当に!?」
と聞くマサシに、カズは
「ホントだぞ」
と、軽く応える。
カズの言葉に、マサシは信じられないという表情で、目を丸くして固まっていた。
それから数秒後、彼の顔が一気に紅潮し、声を潜めながらも興奮気味に言った。
「つまり、橘カズって……『星屑ランナー』の作者で、『永遠の君』で新人賞を取った、あの橘カズってことですか!?」
カズは苦笑しながら頷いた。
「そうだけど、ちょっと大げさに言わないでくれ。この学校ではまだ誰にも内緒にしてるからさ」
「だって、だって⋯⋯! 橘カズの作品、全部読んでますよ! 特に『星屑ランナー』、泣きましたよ。ああいう青春物語、本当に心に刺さるんです!」
カズは少し驚いた。
まさか、自分の作品をそんなふうに思ってくれる人が、こんな身近にいるとは思わなかった。
「ありがとう。でも、まさか陸上を辞めた後に、こんなふうに誰かに評価されるとは思ってなかったな」
マサシは少し真面目な顔つきになり、静かに尋ねた。
「どうして陸上を辞めたんですか? あんなに走るのが好きそうで、ものすごく強くて速かったのに」
カズは窓の外に目をやり、少し遠くを見るような表情をした。
「中学一年の夏に、膝を悪くしてな。医者からは『無理に続けると後遺症が出る』って言われて。でも、本当の理由は⋯⋯それだけじゃないんだ」
マサシは黙ってカズの言葉を待った。
「オレ、走るってことが、段々苦しくなっていったんだ。観客の目、ライバルの存在、勝つことへのプレッシャー⋯⋯全部が重くなってきて。走ってるときの自分の顔が、好きじゃなくなった。だから、やめた」
カズの言葉は静かだったが、どこか切なげで、マサシは思わず息を呑んだ。
「でも、それからマンガや小説を書き始めたことで、また走ることと向き合えるようになった。オレの心の中の走る気持ちを、今度は紙の上で表現してるって感じかな?」
マサシは深くうなずいた。
「それって、すごく素敵なことですね。走ることを諦めなかった証拠です。ただ、形を変えただけ」
カズは少し驚いたようにマサシを見つめた。
「そうか? オレは逃げただけだと思ってたんだけどな」
「いいえ、逃げたんじゃなくて、進化したんです。走るカズと、書くカズが、今ここにいる。それって、すごくないですか?」
カズは思わず笑みをこぼした。
「お前のその言葉、ありがたいな。ちょっと泣きそうになったぞ」
マサシも照れくさそうに笑った。
「俺、これからも橘カズの作品を応援します。でも、カズさん、また走ることを再開する日が来るかもしれませんよ?」
カズは首を傾げた。
「どうしてそう思う?」
マサシは少し恥ずかしそうにしながらも、真剣な眼差しで言った。
「だって、カズさんの作品には、走ることへの愛が溢れてますから。心の奥底で、まだ走りたい気持ちがあるってことじゃないですか?」
カズはその言葉に、胸の奥が熱くなるのを感じた。
「⋯⋯マサシ、お前、本当に面白い奴だな」
それから二人は、お互いの好きな作品や、中学時代の思い出、そして将来の夢について語り合った。
マサシは将来、パン屋で働きたいと語り、カズは「じゃあ、オレが書いた料理マンガに、お前が解説を書くってのはどうだ?」と冗談を交えながら話す。
そんな会話をしているうちに、チャイムが鳴り、カズは立ち上がった。
「また話そうな、マサシ」
「はい、今度は橘カズの新作を読ませてくださいよ!」
カズは笑顔でうなずいた。
「ああ、約束する」
そう言って、カズは教室を後にした。
その背中には、かつての走る少年の影が、ほんの少しだけ重なっていた。
そして、カズの心の奥底には、新しい風が吹き始めた。
――彼を知りたい。
そう、彼を知りたいという気持ちが、静かに、しかし確実に、芽生え始めていた。
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