千景くんは魔法使い!?

笠原零

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千景くんのひみつ

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 ランドセルを背負っていた頃。制服を着ている中学生がすごく大人に見えた。

 私も中学生になったら、たくさん友達を作って、部活も頑張って、ドキドキするような恋もしてみたい。

 毎日がキラキラしていて、きっときっと楽しいことが待っていると思っていたのに……。

「ねえ、ねえ、遠山とおやまさん」 

 学校に着いてすぐ、クラスメイトの子に名前を呼ばれた。

「昨日の英語のノート出してないでしょ? 私、日直で先生に頼まれてるから早く出してほしいんだけど」
「あ、えっと……その」 
「もしかして忘れた?」
「ご、ごめん。今日英語がないから教科書と一緒にノートも家に置いてきちゃって……」
「じゃあ、時間がある時でいいから自分で先生に言ってくれない? わざわざ遠山さんのために報告するのダルいし」
「わ、わかりました……」

 小さな声で返事をすると、逆に大きなため息が返ってきた。

 中学生活に期待を膨らませてから約半年。カレンダーが十月になっても、私には友達がひとりもいない。

 原因は自分でもわかっている。元から緊張しやすいタイプで、一学期初日の自己紹介で私はうまく喋ることができなかった。

 その恥ずかしさと失敗をズルズルと引きずってしまった結果、自分から誰かに声をかけることができなくて見事に孤立。

 おまけにうちのクラスには強めの女の子が多いため、私はどんくさい生徒として認識されていた。

「……はあ」

 午前授業が終わった昼休み。職員室から出た私は、社会科の資料を抱えていた。ノートの提出期限を明日にしてもらえた代わりに、先生から雑用を押しつけられてしまったのだ。

 そんな私の横を、きゃっきゃしている同級生たちが通りすぎていく。……楽しそうでいいな。

 振り返れば小学生の時も、失敗することのほうが多かった気がする。おっちょこちょいだからなにもないところですぐ転ぶし、お弁当を持って来なくちゃいけない日に、お弁当を忘れてしまったこともあった。

 最初はドジだね~なんて笑ってくれる人がいても、何回か続くと呆れられてしまって、気づけばひとりぼっちになってた。

 どうやったらみんなみたいに、うまく友達が作れるんだろう。みんなはすごく学校を楽しんでいるのに、私はちっとも楽しくない。

「……はあ。なんで私って、こんなにダメなんだろう」

 二回目のため息をついたところで、教材室が見えてきた。両手が塞がっていることもあり、行儀悪く足で扉を開けると、中には授業で使う資料や道具がたくさん置かれている空間が広がっていた。

 他の教室とは違って換気用の小窓しかないからか、日中でもかなり薄暗い。どこにでも学校の七不思議的な話は付きものだけど、ここもおばけが出るという噂があったりする。

 ……お、おばけとか、無理。

 出るかもしれないと思ったら、ますます怖くなってきた。早くここから出るためにテキパキと資料を戻していたけど、世界地図の置き場所だけがどうしてもわからない。

「あ、」

 ふと、棚の一番上に目を向けると、他の地図が絵巻のように積まれていた。世界地図も絶対にあそこだ。でも、あんなところ、背伸びをしても届かない。踏み台はどこにもなさそうだし、もしかして自力でやるしかない?

「ん、んーっ」

 限界までつま先立ちになって、世界地図を戻そうとした瞬間――。

「え、ひゃっ……」

 乱雑に積み重なっていた他の地図が上から降ってきた。

 ぶ、ぶつかる!
 
 とっさに目を瞑って肩をすくめたけど、なぜかなにも落ちてこない。あれ?と、ゆっくりと目を開けて確認してみると、地図が私の頭に当たる寸前で止まっていた。

「えっ!?」

 こ、これは一体どういうこと?

 ビックリしすぎて固まっていると、後ろから声がした。

「大丈夫?」

 おそるおそる振り返ると、そこには同じクラスの宮間みやま千景ちかげくんがいた。

 身長が高くて顔が綺麗な千景くんは、人気ナンバーワンの男の子。性格は落ち着いていて、ちょっぴりミステリアスな部分が大人っぽいと、男女問わず憧れている人は多い。

 そんな千景くんとはほとんど話したことがなく、私にとっては高嶺の花すぎて、近づくことすらできない存在の人でもあった。

「……え、あ、あ……」 

 緊張しすぎて、言葉が出てこない。一方的に動揺している私とは反対に、千景くんは冷静に浮いている地図を手に取って、棚に戻していた。

「その世界地図も上に置く?」
「え、あ、は、はい」
「ここの棚って、高すぎるよね」

 そう言いながらも、千景くんは背伸びをすることなく余裕で地図を戻してくれた。

 なんで千景くんがこんな場所にいるのか。さっき浮いていたように見えた地図は、なんだったのか。色々と聞きたいのに、やっぱりうまく声が出ない。

「なんで日直でもないのに、遠山さんがこんなことしてるの?」
「え、えっと……私がノートを忘れたせいで、先生に頼まれて、それで……」

 私は、精いっぱい途切れ途切れに答えた。

結月ゆづきちゃんって、なんでぼそぼそ喋るの?』
『そんなんじゃ、なに言ってかわかんないよ』

 いつもいつも、そうだ。幼稚園の時だって、せっかく友達になろうと言ってくれた子を呆れさせてしまった。

 小学校ではうまくやろうと思ってた。でも、できなかった。

 だから、中学生になったら変わりたいって思った。

 だけど、私は変われてない。

 ずっとずっとダメな私のまま……。

「なんで泣きそうなの?」 

 千景くんの声にハッと我に返った。彼の瞳はビー玉みたいに綺麗で、見つめられるだけでなにもかも見透かされているような気持ちになった。

「遠山さんがなにに悩んでるかはわからないけど、そんなに自分のことを追い詰めなくてもいいんじゃない?」
「ち、違うの。全部私が悪くて……。う、うまく喋れないし、自己紹介の時だって失敗しちゃったし……」

 ――『と、と、遠山、ゆっ、結月です。こ、これからの目標は、えっと、好きなことを……あ、ちがう、好きだとぃぇることを……』

 名前とこれからの目標を言うだけの自己紹介だったのに、息も声も続かなかった。

「好きだと言えることを、これから見つけたい、でしょ?」
「え?」
「俺には、ちゃんとわかったよ」

 千景くんの言葉に、じんわり胸が熱くなった。彼は、私のことを笑わない。今でもまっすぐ私のことを見てくれる。その優しさに、また泣きそうになってしまった。

「もうすぐチャイムが鳴るから、一緒に教室に戻ろう」

 助けてもらったお礼も言えないまま、ふたりで教材室を出た。扉が閉まる寸前で、私は振り向いてさっきの棚に視線を向ける。

 地図が浮いていたのは……気のせいなんかじゃないよね……?
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