千景くんは魔法使い!?

笠原零

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千景くんのきもち

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「えーなんで千景くんと一緒じゃないの……」

 今日は今月に控えている職場体験のグループ決めが行われていた。席替えと同じようにくじ引きで決めることになり、あちこちから落胆の声が聞こえる中、私はというと……。

「ゆづ、やったね!」

 同じグループになった桃ちゃんが飛びついてきた。グループは五人編成で、メンバーは私と桃ちゃん、そして男子が三人。男子の中にはなんと、なんと!

「一緒になったね」

 千景くんがいた。桃ちゃんだけじゃなくて千景くんまで一緒なんて、こんなの出来すぎている。こっそり千景くんに「魔法を使った?」と聞いてみたけど、今回は使ってないらしい。

 自力で神引きしちゃうなんて、ここで運を使い果たしてしまったんじゃないだろうか。ふたりと一緒で嬉しいけど、この反動でなにか悪いことが起きたりしないよね……?

「ねえ、どこに希望出す~?」

 グループが決まったあとは、各班でどこの職場にするか相談することになった。体験できる職場の範囲は学校の近くから、街の中心部までと決められている。

 職場体験のリストには、市役所、消防署、スーパーマーケット、和菓子屋、老人ホームと、色んな場所が載っていた。

「遠山さんは、どこがいい?」

 千景くんに問われて、私はうーんと考える。せっかくなら楽しそうなところがいいな……あ。私はある職場の名前をリストから見つけた。

 それは、通学路の途中にある幼稚園だった。登園時間が私の登校と同じだから、普段から園児たちをよく見かけていた。

「幼稚園いいじゃん! 私、子供すき!」 

 私の視線に気づいた桃ちゃんが、すぐさま賛同してくれて、他の男子たちにも意見を聞いてみると、みんな「いいね!」と言ってくれた。

「うん。俺も幼稚園いいと思う」

 千景くんの一言で、私たちの職場体験の場所が無事に決まった。


 そして放課後。朝から降っていた雨は、激しさを増していた。いつものように部活を終えて昇降口に向かうと、傘立てに入れておいた自分の傘がないことに気づいた。

 え、な、なんで?

 傘に名前は書いてないけど、目印としてトイカプセルで当てたチャームを付けておいたのに、どんなに探しても傘は見つからなかった。

 ……どうしよう。困ったな。桃ちゃんはもう帰っちゃったし、家に電話してもお母さんとお父さんは仕事だから迎えにきてもらえない。

 こうなったら走るしかない……! と覚悟を決めた時。

「遠山さん、傘は?」

 振り返ると、そこには千景くんがいた。どうやらこの時間まで図書室で本を読んでいたらしい。

「えっと、傘がどこにも見当たらなくて。もしかしたら誰かが間違って持ってっちゃったのかも」
「念のため紛失届を出したほうがいいよ。あとで見つかるかもしれないし」
「うん、明日出すよ」
「それで今、走って帰ろうとしてた?」
「う……うん」
「じゃあ、一緒に帰ろう」

 千景くんはなんの迷いもなく傘を広げた。

 あれ、今、一緒に帰ろうって言わなかった?

 どうやって? ううん、その前に!

「千景くんち、反対方向でしょ? 迷惑になっちゃうから本当に大丈夫!」

 家の場所は知らないけど、私とは逆の道から帰るのを何回か見たことがあった。

「迷惑じゃないし、濡れて帰ったら絶対に風邪ひくよ。せっかく同じグループになったのに、職場体験の日に休むことになるかもよ」
「それは……嫌かも」
「でしょ。だから家まで送らせて」

 千景くんは、まるでエスコートするように、手を引いてくれた。

 一緒に帰るということは、当然相合傘ということになる。足並みを揃えて外に出ると、想像以上に傘の中は狭かった。

 傘に当たる雨の音。どこかで鳴いているカエルの声。自転車が横を通るびに肩を引き寄せてくれる千景くんに、心臓がうるさくなる。

「あ、あの……」
「ん?」 
「千景くんが濡れちゃうから」

 私はそっと、傘を千景くん側へ寄せた。最初から彼が意識的に傘を私のほうに傾けてくれていることには、気づいていた。そのせいで、千景くんの左肩がずぶ濡れになってしまっている。

「俺は遠山さんが濡れるほうが嫌なんだよ」

 彼のほうに寄せたはずの傘が、また私へと傾けられた。その言い方はズルいというか、反則すぎる。

 ――『ゆづが謙虚なのは知ってるけど、絶対脈アリだと思うんだよねー』

 こんな時にかぎって、桃ちゃんの言葉を思い出してしまった。

 もしも昇降口で困っている女の子がいたら千景くんは私じゃなくても傘を貸すだろうか。

 できれば、貸さないでほしい。

 相合傘は、私だけにしてほしい。

 心で想うだけで充分だと思っていたはずなのに、いつからこんなにわがままになってる。

「……千景くんは、どんな人がタイプですか?」

 気づけば、そんな質問をしていた。

「あんまり考えたことないけど、好きになった人がタイプかな」
「い、今はその、好きな人とか……」 
「うーん。どう思う?」
「わ、私に聞かれても……」

 千景くんは、はっきり答えてくれなかったけど、なんとなく頭に思い浮かべてる人はいるんじゃないかなって思った。

 いつか千景くんに彼女ができたら……。想像しただけで、泣きそうになる。

 千景くんが幸せならそれでいいって思わなくちゃいけないのに、『おめでとう』なんて言える自信はない。

 じゃあ、私はどうすればいいんだろう。

 千景くんと、どうなりたいの?

 自分の気持ちと向き合っている中、ひとりの男の子が前から歩いてきた。

「間宮?」

 千景くんと知り合いなのか、彼は私たちの前で足を止めた。学年はおそらく同じくらいで、髪の毛は茶色に脱色していた。よく見るとピアスもしてるし、ちょっとだけ怖そうな雰囲気の人だった。

「さ、真田さなだ……」 

 千景くんの声は、明らかに動揺していた。真田くんという人は隣にいる私のほうに視線を向けたあと、呆れたようにため息をついた。

「こっちはお前のせいでサッカーを辞めたのに、ずいぶん楽しそうにしてるじゃん」
「…………」
「お前がチームの空気をぶち壊してくれたおかげで、あの年の大会で俺たちは最下位になった。ユースの監督からも見切りをつけられた結果、どうなったと思う?」
「…………」
「なくなったよ。俺たちのチーム。お前のせいでな」 

 ドクンと心臓が跳ねたのは、きっと私だけじゃない。話の内容からして、真田くんは千景くんが前に話してくれたジュニアチームの仲間で間違いない。

「俺の夢はあのチームで全国に行くことだった。だからチームがなくなって俺だけじゃなくて、みんなサッカーを辞めた。全部お前のせいなのに、なんで楽しそうにしてるわけ?」

 真田くんは不満をぶつけるように、千景くんのことを睨み付けた。私が知っていることはほんの一部に過ぎなくて、千景くんも真田くんも、色々なことがあったんだと思う。

 私が首を突っ込んでいい話じゃないことはわかってる。わかってるけど、もう少し言い方があるし、千景くんが責められていると、自分のことみたいに苦しくなる。

「俺、お前のこと絶対に許さないからな」

 苛立ちを纏ったまま、真田くんは私たちの横を通りすぎていった。 

「ち、千景くん、大丈……」

 大丈夫?と聞こうとした声を、途中で呑み込んだ。千景くんの横顔があまりに悲しそうだったから、軽い言葉で慰めてはいけないと思った。

「ごめん。行こうか」

 私に心配をかけないようにしてるのか、千景くんが精一杯の笑顔を作った。

 傾けている傘から落ちてくる雨が、また彼の肩を濡らしている。千景くんは平気な顔をしてるけど、私には心で泣いているように見えた。
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