千景くんは魔法使い!?

笠原零

文字の大きさ
11 / 25
千景くんのきもち

しおりを挟む

 それから数日が過ぎて、職場体験の日を迎えた。私たちが担当するたんぽぽ組は、五歳児が集まる年長クラス。保育士さんと同じエプロンを付けると、さっそく園児たちと対面することになった。

「今日は中学生のお兄さん、お姉さんが来てくれています。お兄さん、お姉さんが自己紹介をしてくれるそうなので、みんな全集中で聞こうね」
「「は~い!」」

 じ、自己紹介……。失敗したトラウマがよみがえってきて、一気に体が強張った。

 まずは千景くんがスマートに自己紹介をして、そのあとに男子たちが続く。桃ちゃんも持ち前の明るさで難なく自己紹介を終えて、ついに私の番がやってきた。


「と、と、とっ遠山結月です。今日はがんばりまするので、えっと、よろしくお願いします」

 うう、噛んじゃったよぅ……。

「がんばりまするってなんだよ。トロそうなやつだな」

 ヤジを飛ばしてきたのは、一番前に座っている〝そうまくん〟という男の子だった。ショックを受けている暇もなく、職場体験がはじまった。

 まずは折り紙をやることになり、私の机にはそうまくんもいた。 

「結月せんせい、ツル上手だね!」

 隣にいる女の子が無邪気に声をかけてくれた。

 わー、先生なんて呼んでもらえると、ちょっとくすぐったい。

 チラッと千景くんのことを見ると、同じように折り紙を教えていた。

「私、千景せんせいの隣に座りたい!」
「ダメ! せんせいは私の隣!」

 なにやら女の子たちが揉めている。千景くんってば、五歳児にもモテちゃってすごい……なんて思っていたら、誰かに頭を叩かれた。

「妖怪トロイマン、勝負しろ!」

 そうまくんの手には、折り紙を丸めて作った剣が握られていた。

「おりゃーーー!」
「ま、待って。落ち着いて」
「トロイマンがペチャパイに進化した!」
「ペ、ペチャ……っ」

 狼狽える私とは違って、対応に慣れている保育士さんが止めてくれた。折り紙のあとは、みんなで外遊び。女の子たちは砂場で遊んで、男の子たちはサッカーボールを蹴っている。

 千景くんはサッカーから離れるよう、女の子と砂場にいた。

 ――『なくなったよ。俺たちのチーム。お前のせいでな』

 きっと千景くんは、そのことを知らなかった。自分がチームを抜ければ元どおりになると思っていたはずなのに、そうじゃなかった。

 千景くんは、どんなことを考えているだろう。

 私はまだ、彼の心に触れられずにいる。

「とりゃっ!」

  その時、そうまくんがまた大きな声を出していた。周りのことなんて関係なしに、ゴムボールを高く飛ばしている。そんなことを何回か繰り返していると、蹴ったボールが園の外に出てしまった。ボールを追いかけるように、そうまくんは柵の間をすり抜けていく。

 え、うそ、大変……!

 近くに保育士さんがいなかったため、私は慌ててそうまくんのことを追いかけた。

 幼稚園の前の道路はスクールゾーンになっているけど、今の時間は普通に車が走っている。

 そうまくんが蹴ったボールは、ちょうど横断歩道の真ん中で止まっていた。

 そうまくんはボールしか見えていないみたいで、道路が青信号になっているにもかかわらず、そのまま横断歩道に向かって走り出した。

「そうまくん、ダメ!」

 と、声を出した瞬間。スピードを出した軽自動車が近づいてきた。よそ見をしているのか、そうまくんがいるのに止まってくれない。

「……そうまくん、っ!」

 私は助けるために道路に飛び出した。そうまくんのことを抱きかかえる頃には、車が目の前に迫っていた。

 ……あ、ダメだ。ぶつかる。

 そうまくんを守るためにぎゅっとして目を瞑ると、体が一瞬だけふわりと浮いた。

「……ハア……ハアッ」

 そんな息づかいに、おそるおそる目を開ける。私とそうまくんのことを後ろから包んでいたのは、千景くんだった。

「と、遠山さん、大丈夫っ!?」

 横断歩道の真ん中にいたはずの私たちは、歩道に移動していた。すぐに千景くんが魔法で助けてくれたんだってわかった。

「そうまくんを助けようと思って、私……」 

 今さら怖くなってきて、足が震えている。

「……っ、うわああん!」

 そうまくんも驚いてしまったのか泣き出した。きっと状況は理解できてないけど、自分のせいで車に轢かれそうになったことだけはわかっているみたいだ。

「よかった。間に合って……本当によかった」

 千景くんが、ほっと胸を撫で下ろしている。こんなにも焦っている顔を見たのは、初めてだ。

 そのあと、そうまくんの泣き声を聞いた保育士さんたちが来てくれた。経緯をしっかり説明して、そうまくんを保育士さんの手に預ける。

「千景くん、本当にありがとう」

 千景くんが来てくれなかったら、ケガだけじゃ済まなかった。

「今度からひとりで行かないで俺を呼んで」
「うん、ごめんね」

 私たちも園に戻るために歩き出すと、桃ちゃんと目が合った。心配して来てくれたのかなと思いきや……。

「さ、さっき瞬間移動したよね?」

 その言葉に、私は千景くんと顔を見合わせた。どうやら、魔法を使って移動した場面を桃ちゃんに見られていたらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。  大事なのは最後まで諦めないこと——and take a chance! (also @ なろう)

黒地蔵

紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

処理中です...