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千景くんのへんか
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その日の夜。お風呂から出て自分の部屋に入ると、千景くんからメッセージが届いていた。
【さんぽの埋め合わせは、また別の日にさせて】
埋め合わせなんて気にしなくていいのに、千景くんは本当に優しいな……。
――『結月から手を離せ!』
あの時の千景くんは、体が光っていた。それも魔法が原因だったんだろうか。色々と気になることはあるけど、今日はもう疲れちゃった。
ベッドに横たわりながら、ウトウトとしてきた睡魔に逆らうことなく目を閉じると、どこからか声が聞こえた。
「……ゆ、づ」
誰? 千景くん?
「……ちゃん、結月ちゃん」
結月ちゃん? あれ、千景くんじゃない……。
「ねえ、結月ちゃんってば!」
その声に、私は飛び起きた。慌てて周りを見ても誰もいない。いや、誰かいるはずがない。だって、ここは私の部屋だ。でもたしかに今……。
「こっちだよ、結月ちゃん」
「……え?」
声がしたほうには、ちっちがいた。ちっちは自分専用の丸いベッドの中で、私のことをじっと見ている。
「……あはは、まさかね」
「名前を呼んだのは僕だよ」
「……ひぃっ、ちっちが喋った!」
ドスンッ! 驚きすぎて、ベッドから転げ落ちてしまった。
「結月ちゃん、大丈夫?」
「え、これは、夢?」
「夢じゃないけど、そんなに驚かなくても大丈夫だよ。千景くんの魔法がちょっと僕に当たっただけだから」
「それって、コンビニの……」
「そうそう」
たしかにあの時は、あちこちに魔法が飛んでいたから、ちっちに当たっていても不思議ではないけど……。
「ま、待って。それってお昼の話だよ。それからちっちはずっと喋れたってこと?」
「うん、そうだよ」
「じゃあ、なんで千景くんの家にいた時に言わなかったの?」
「えー。だって言ったら、すぐに戻されちゃうじゃん」
「じゃんって……」
ちっちが成長しているとはいえ、もっと子供みたいなイメージがあったから、なんだかギャップがすごい……。
「言っとくけど、僕は人間にするともう五歳だよ。一年もすれば十七歳だし、猫は結月ちゃんより大人になるスピードが速いんだ」
「そ、そうなの?」
「僕ね、千景くんの魔法がどうして暴走したのか知ってるよ」
「え、本当にっ?」
私は前のめりになって、ちっちに近づく。「教えてほしい?」と聞かれて首を縦に振ったら、なぜかちっちは自分の右手を出した。
「やわらか若鳥のささみをちょうだい」
「へ?」
「タダじゃ教えてあげないよ」
ま、まさかご飯をおねだりされるとは……。
「ダ、ダメだよ。晩ごはんは食べたでしょ?」
「さ・さ・み」
「ダメだって……」
「くれないと教えないからね」
「……うう……」
飼い主として、ここで甘やかしたらいけないと思ったけど、私はその駆け引きに負けてしまった。
「魔法っていうのはね、その人の心と繋がっているものなんだよ。正確には心が魔法というものを芽生えさせてしまうって言ったほうがいいのかな」
ささみをあげると、ちっちは満足そうに教えてくれた。
「心が魔法を芽生えさせる……?」
「うん。だからあの時の千景くんの心はひどく乱れてた。そのせいで魔法が暴走したってわけ」
「真田くんに嫌なことを言われたから?」
「真田くんっていうより、千景くんは結月ちゃんが触られたことが嫌だったんじゃないかな」
「じゃあ、あの魔法は私のせいで……」
「結月ちゃんのせいじゃないよ。どう考えてもちょっかいをかけてきた真田くんが悪いでしょ」
「でもなんでちっちは、そんなに魔法のことを知ってるの?」
「魔女と黒猫っていうのは、昔から近い関係にあるんだ。誰かに教わらなくても本能で魔法のことはわかるんだよ」
ささみを食べ終わる頃には、ちっちはペロペロと顔を洗っていた。
心が魔法を芽生えさせるのなら、やっぱりそれなりのきっかけがあったということだ。考えられることは、ひとつしか思い付かない。
「千景くんはサッカーを辞めてから魔法が使えるようになったって言っての。つまり、それが引き金になって魔法使いになったってことだよね?」
「たぶんそうだろうね。魔法は苦しい気持ちに反応しやすい。もしくは、自分への戒めの意味で魔法が使えるようになる人もいる。千景くんはそっちかもね」
ちっちの言葉が、ストンと自分の中で府に落ちた。
千景くんは魔法が使えるのに、自分のためには使わない。 魔法を使えば後悔してることを軽くすることができるかもしれないのに、まるで自分への罰みたいにずっと痛みを抱えたままだ。
「昼間の千景くんは怒りでコントロールを失っていたけど、きっと魔法の暴走はまた起きると思うよ」
「……え?」
「魔法は日に日に強くなっていくものだから、このままだと千景くんは魔法に飲み込まれちゃうかもしれないね」
「ど、どうすればいいの?」
「それは僕にもわからない。でも結月ちゃんなら千景くんを助けられると思う」
「……私が?」
「僕の命を救ってくれた千景くんのことをお願いね、結月ちゃん」
――翌朝。ちっちは普通の猫に戻っていた。いくら話しかけても「ニャア」しか言わない。
昨日のことは夢だったんだろうか?
ぼんやりしながらゴミ箱を見ると、やわらか若鳥のささみの袋が捨てられていた。
【さんぽの埋め合わせは、また別の日にさせて】
埋め合わせなんて気にしなくていいのに、千景くんは本当に優しいな……。
――『結月から手を離せ!』
あの時の千景くんは、体が光っていた。それも魔法が原因だったんだろうか。色々と気になることはあるけど、今日はもう疲れちゃった。
ベッドに横たわりながら、ウトウトとしてきた睡魔に逆らうことなく目を閉じると、どこからか声が聞こえた。
「……ゆ、づ」
誰? 千景くん?
「……ちゃん、結月ちゃん」
結月ちゃん? あれ、千景くんじゃない……。
「ねえ、結月ちゃんってば!」
その声に、私は飛び起きた。慌てて周りを見ても誰もいない。いや、誰かいるはずがない。だって、ここは私の部屋だ。でもたしかに今……。
「こっちだよ、結月ちゃん」
「……え?」
声がしたほうには、ちっちがいた。ちっちは自分専用の丸いベッドの中で、私のことをじっと見ている。
「……あはは、まさかね」
「名前を呼んだのは僕だよ」
「……ひぃっ、ちっちが喋った!」
ドスンッ! 驚きすぎて、ベッドから転げ落ちてしまった。
「結月ちゃん、大丈夫?」
「え、これは、夢?」
「夢じゃないけど、そんなに驚かなくても大丈夫だよ。千景くんの魔法がちょっと僕に当たっただけだから」
「それって、コンビニの……」
「そうそう」
たしかにあの時は、あちこちに魔法が飛んでいたから、ちっちに当たっていても不思議ではないけど……。
「ま、待って。それってお昼の話だよ。それからちっちはずっと喋れたってこと?」
「うん、そうだよ」
「じゃあ、なんで千景くんの家にいた時に言わなかったの?」
「えー。だって言ったら、すぐに戻されちゃうじゃん」
「じゃんって……」
ちっちが成長しているとはいえ、もっと子供みたいなイメージがあったから、なんだかギャップがすごい……。
「言っとくけど、僕は人間にするともう五歳だよ。一年もすれば十七歳だし、猫は結月ちゃんより大人になるスピードが速いんだ」
「そ、そうなの?」
「僕ね、千景くんの魔法がどうして暴走したのか知ってるよ」
「え、本当にっ?」
私は前のめりになって、ちっちに近づく。「教えてほしい?」と聞かれて首を縦に振ったら、なぜかちっちは自分の右手を出した。
「やわらか若鳥のささみをちょうだい」
「へ?」
「タダじゃ教えてあげないよ」
ま、まさかご飯をおねだりされるとは……。
「ダ、ダメだよ。晩ごはんは食べたでしょ?」
「さ・さ・み」
「ダメだって……」
「くれないと教えないからね」
「……うう……」
飼い主として、ここで甘やかしたらいけないと思ったけど、私はその駆け引きに負けてしまった。
「魔法っていうのはね、その人の心と繋がっているものなんだよ。正確には心が魔法というものを芽生えさせてしまうって言ったほうがいいのかな」
ささみをあげると、ちっちは満足そうに教えてくれた。
「心が魔法を芽生えさせる……?」
「うん。だからあの時の千景くんの心はひどく乱れてた。そのせいで魔法が暴走したってわけ」
「真田くんに嫌なことを言われたから?」
「真田くんっていうより、千景くんは結月ちゃんが触られたことが嫌だったんじゃないかな」
「じゃあ、あの魔法は私のせいで……」
「結月ちゃんのせいじゃないよ。どう考えてもちょっかいをかけてきた真田くんが悪いでしょ」
「でもなんでちっちは、そんなに魔法のことを知ってるの?」
「魔女と黒猫っていうのは、昔から近い関係にあるんだ。誰かに教わらなくても本能で魔法のことはわかるんだよ」
ささみを食べ終わる頃には、ちっちはペロペロと顔を洗っていた。
心が魔法を芽生えさせるのなら、やっぱりそれなりのきっかけがあったということだ。考えられることは、ひとつしか思い付かない。
「千景くんはサッカーを辞めてから魔法が使えるようになったって言っての。つまり、それが引き金になって魔法使いになったってことだよね?」
「たぶんそうだろうね。魔法は苦しい気持ちに反応しやすい。もしくは、自分への戒めの意味で魔法が使えるようになる人もいる。千景くんはそっちかもね」
ちっちの言葉が、ストンと自分の中で府に落ちた。
千景くんは魔法が使えるのに、自分のためには使わない。 魔法を使えば後悔してることを軽くすることができるかもしれないのに、まるで自分への罰みたいにずっと痛みを抱えたままだ。
「昼間の千景くんは怒りでコントロールを失っていたけど、きっと魔法の暴走はまた起きると思うよ」
「……え?」
「魔法は日に日に強くなっていくものだから、このままだと千景くんは魔法に飲み込まれちゃうかもしれないね」
「ど、どうすればいいの?」
「それは僕にもわからない。でも結月ちゃんなら千景くんを助けられると思う」
「……私が?」
「僕の命を救ってくれた千景くんのことをお願いね、結月ちゃん」
――翌朝。ちっちは普通の猫に戻っていた。いくら話しかけても「ニャア」しか言わない。
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