千景くんは魔法使い!?

笠原零

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千景くんのへんか

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 結局、騒ぎは地震ということで片付けられた。そして、私は千景くんのお母さんと協力して家まで運び、なぜかそのままお邪魔させてもらっていた。

「ごめんね。驚いたでしょう。千景は元から貧血になりやすい子だから、倒れてしまうことがよくあるのよ」

 千景くんのことをベッドに寝かせてくれたお母さんは、慣れているのかあまり動揺してなかった。

 お母さんは、千景くんの魔法のことを知っているんだろうか。千景くんが倒れた原因が貧血なのか、それとも魔法を使いすぎてしまったからなのかわからない。

 だけど、さっきの千景くんは明らかに様子がおかしかった。私の声も届いてなかったし、いつも私のことを守ってくれる魔法が、なぜかとても怖いものに感じた。

「それでまだ名前を聞いてなかったわね。えっと、あなたは……」
「遠山結月です。千景くんとは同じクラスで、よくお世話になっています」
「そう、結月ちゃんね」

 図々しく家まで付き添ってしまったけど、今さら千景くんの部屋にいる自分自身にびっくりしている。彼の部屋はきちんと整理整頓されていて、本棚にはサッカー関連のものや、トロフィーも飾られていた。

「千景、学校ではどんな感じなのかしら。聞いてもいつも教えてくれないのよ」 
「千景くんはみんなの憧れです。あと、女の子からとてもモテています」
「あら、そうなの?」

 千景くんのお母さんは、自分のことのように嬉しそうだった。

「千景はね、小さい頃はとても体が弱かったのよ」
「そう、なんですか?
「でも小学校でサッカーに出会って、すごく明るくなったの。今は色々あって辞めてしまってるけどね」

 たしか千景くんは、サッカーを辞めたタイミングで、魔法が使えるようになったと言っていた。どうして千景くんは魔法使いになったんだろう。サッカーを辞めたことと、なにか関係があったりするんだろうか……。

 しばらく話したあと、お母さんは飲み物を出してくれるらしく、一旦部屋から出ていった。

 ベッドの上では、綺麗な顔をして眠っている千景くんがいる。よかった、顔色が元に戻ってる。その寝顔をじっと見つめていたら……。

「……ん、結月?」

 千景くんのまぶたがゆっくり開いた。彼は辺りを見渡して、状況を確認するのに時間がかかってるみたいだった。

「ここって俺の部屋? なんで結月が……」
「倒れたこと、覚えてない?」
「……倒れた?」

 どうやら真田くんに会ったところまでは記憶していても、そのあとのことはまったく覚えていないそうだ。

「千景くん、魔法を使ってたよ。それもわからない?」
「……うん。なにがあったかちゃんと教えてくれない?」

 私は、コンビニのガラスが割れたことや自転車が倒れたことなどを包み隠さずに話した。

「ごめん。迷惑をかけたみたいで……」
「ううん、迷惑なんてかけられてないよ。千景くんがなんともなくて本当によかった」

 千景くんがベッドから起き上がったタイミングで、お母さんが戻ってきた。千景くんは魔法のことをお母さんに話してなかったから、おそらく伝えていないのだろう。

 千景くんが目覚めたことで安心したのか、お母さんは私に「ゆっくりしていってね」と言って、ふたりきりにさせてくれた。

「俺の部屋、なんにもなくてつまんないでしょ?」
「そんなことないよ! 綺麗に片付いてて千景くんらしい部屋だね」 
「なにか見たいものとかある?」
「ア、アルバム!」
「え?」 
「だってそこに……」 

 私は本棚を指さした。あまりじろじろ観察してはいけないと思いつつ、アルバムだけは一番に発見していた。

「アルバムっていっても、俺の成長記録だよ」
「是非とも見たいです」

 千景くんは恥ずかしそうにしながらも、アルバムを見せてくれた。最初のページには、天使みたいに可愛い赤ちゃんの千景くんが写っている。本当に可愛すぎて、拐われそうになったことが何回かあったらしい。

 小学生になった千景くんの顔は、可愛いからカッコいいになっていた。そして、私は〝ある写真〟を見てページをめくる手を止めた。

 それはサッカーチームのユニフォームを着ている千景くんだった。

「全部、笑ってる顔ばっかりだ……」

 髪の毛はさっぱりと短くて、日焼けもしている。今の千景くんと違ってスポーツ少年のような雰囲気で、どの写真も満面の笑顔だ。

「実際にやってる時は楽しかったからね」

 千景くんは当時を思い出すような目をしていた。彼は何度も私に笑顔を見せてくれたけど、サッカーをやっている千景くんは本当に心の底から笑っているように見えた。

「この頃、結月に会えていたら俺は間違えずに済んだのかな」 
「後悔……してるんだね」
「してるよ。チームがなくなったって聞いてから尚更に。だから、俺は恨まれても仕方ない。そのくらいひどいことをしてしまったから」

 なにが正解で、なにが不正解かなんて私にはわからない。

 でも体が弱かった千景くんがサッカーと出会い、そこで楽しさを知った。 きっと今までにないくらい嬉しかったんだと思う。だからこそ熱くなりすぎて、仲間たちとの関係に溝が生まれてしまった。

「前につばめの話をした時、千景くんは私の失敗も含めて頑張ったねって言ってくれたでしょ? 私はあの言葉に救われたの」

 ダメだったことを、ダメだったままで終わらせたくない。過去のことを受け入れて、私は変わっていきたいと思った。そう思えたのは、全部千景くんのおかげなんだ。

「千景くんは一生懸命だっただけだよ。周りがなんと言おうと私はサッカーをやっていた頃の千景くんを否定しない。だから、千景くんも自分のことを否定しないでほしい」 
「……結月」
 
 千景くんがまっすぐ私のことを見ている。彼の指先が、私の髪の毛に触れた。なんだか甘い空気になっている中、千景くんの頭になにかが飛び乗ってきた。

「……うぐっ」

 まるで私たちの様子を見ていたみたいに、ちっちはやれやれという顔をしていた。

「そうだ、ちっちがいたんだ……!」 

 すっかり忘れかけていたけど、ずっとバッグに入れていたことをようやく思い出した。千景くんは自分の頭から離すように、ちっちの体を持ち上げた。 

「もしかして邪魔したの?」

 千景くんに懐いているはずなのに、ちっちはそっぽを向いている。

「ちっちも、結月のことが好きみたい」

 え、今なんて言った?
 
 ちっち〝も〟ってことは、千景くんも?

 ……なんて、聞けるはずない。
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