13 / 25
千景くんのへんか
1
しおりを挟む
土曜日の昼下がり。私は太陽の日差しに包まれながら、ちっちとさんぽをしていた。
「せっかく猫用のキャリーバッグを買ったのに、やっぱりこれがいいの?」
「ニャー!」
ちっちは今日も私のバッグに顔だけを出して入っている。
「結月とちっちって、友達同士みたいだよね」
私たちのやり取りを聞いている千景くんが、隣で微笑ましそうにしていた。
私のことを名前で呼んでくれるようになった千景くんとは、前よりずっと仲良しになった。
メッセージのやり取りを毎日欠かさず送り合っているだけではなく、休日でもこうしてちっちのさんぽに付き合ってくれる。
「ちっちは完全に私のことを下に見てるけどね」
「甘えてるだけだよ」
千景くんの視線が上を向く。そこには横一線に伸びる飛行機雲が浮いていた。
「そういえば千景くんって、空を飛べたりするの?」
「どうだろう。試したことがないからわからない。結月は空を飛んでみたい?」
「空は……うん、飛んでみたいかな。憧れでもあるし」
小さい頃に繰り返し読んでいた絵本は、魔女が出てくる物語だった。自由に空を飛んでいる姿が羨ましくて、家のほうきに跨がったこともあったっけ。
「じゃあ、今度人目につかない時間を狙って一緒に飛んでみる?」
「え、いいの……!?」
「うん。夜のデート」
「デ、デート?」
私はその言葉に、過剰反応してしまった。
デートなんて今までしたことはない。ましてや千景くんとできるなんて……。わかりやすく緊張している私に気づいた千景くんが、にこりと笑った。
「結月が嫌じゃなければ、俺は昼間でも遊びにいきたいと思ってるよ」
「う……嫌じゃないです。私も、いきたぃです……」
「そっか、よかった」
職場体験以降、千景くんは少しだけ変わった。前よりも心を開いてくれてるような気がするし、私のことを見る視線もよりいっそう優しくなっている。
私も気持ちを自覚してから、千景くんへの〝好き〟がとまらない。
千景くんとの時間がなるべく長く続くようにゆっくり歩いていると、前に話してくれたパン屋さんを教えてもらった。
あの時と同じように動物のパンがたくさんあって、私は家族ぶんのパンを買った。
「レッサーパンダのレモンクリームパンはなかなか売ってないんだよ。焼き上がってもすぐに売り切れるから」
「そうなの? 買えてよかった!」
そんな話をしていると、コンビニの自動ドアが開いた。
「うわ、最悪」
中から出てきたのは、不機嫌さをむき出しにした真田くんだった。「しかもまた女連れかよ」と、舌打ちをされて、私はムッとする。
千景くんが誰といようとこの人には関係ないことなのに、なんでそんな言い方をするんだろう。
千景くんは真田くんに対して後ろめたい気持ちがあるからか、なにも言わずに黙っている。ふたりにしかわからないことがあっても、私は今の千景くんを守りたい。
「あ、あの、私たち急いでいるので」
「は? 関係ないやつは入ってくんなよ」
「か、関係ないことはないです。私は千景くんの……」
「彼女? だったら良いこと思い付いた」
「え、ちょ、ちょっと……っ」
どういうわけか、強い力で真田くんに肩を引き寄せられた。
「俺から大事なものを奪ったんだから、俺もお前の大事なものを奪ったっていいよな?」
真田くんは挑発するように、千景くんのことを見ていた。抵抗したくても、真田くんはびくともしない。
「や、やめろ。結月には手を出すな」
「へえ、結月って言うんだ」
まるで千景くんに見せつけるように、真田くんは私に密着してくる。
「や、やめて。離して……」
「暴れるなよ。間宮より俺といたほうが絶対に楽しいから」
「イヤっ!」
この人は私になんか興味はない。ただ千景くんに嫌がらせをしたいだけだ。なんとか逃げようともがいていると、突然太陽が隠れて、辺りが薄暗くなった。それと同時に、足元から地鳴りのような振動が伝わってくる。
「……な、せ、結月から手を離せ!」
その時、コンビニの窓ガラスがバリンッ! と割れた。「きゃー!」と、店内にいた人が驚いて外に出てくる。
地鳴りがひどくなるたびに、電線が激しく揺れていて、コンビニの前に置かれてる自転車も次々に倒れた。
「……ち、千景くん?」
私の呼び掛けに、千景くんは反応しない。その代わりに、彼の体がぼんやり光っているように見えた。
ガタガタ、ガタガタガタ!
周りの人たちは地震だと思って姿勢を低くしながら、地面にしゃがみ込んでいる。
これは、地震じゃない。千景くんのほうから目に見えない怒りを感じる。
なにが起きているのかわからないけど、私が止めなくちゃ……。じゃないと、大騒ぎになって取り返しがつかないことになってしまう!
「真田くん、手を離して。それで今日はこのまま帰ってください」
「は? お前こんな時になに言って……」
「いいから、帰ってください!」
真田くんがいると、千景くんの心が乱れてしまう。私の必死な訴えに、真田くんはやっと肩から手を離してくれた。
「よくわかんねーけど、あとで説明してもらうからな」
真田くんはそう言って、その場から去っていった。彼がいなくなったことで、揺れはピタリと収まった。
「千景、くん?」
もう一度呼び掛けると、千景くんは意識を失うように倒れてしまい、私はギリギリ支えた。
千景くんは、魔法を使った。いや、使ったというより、魔法があちこちに飛び散っているような感じだった。
こ、これからどうしよう。救急車? でも、千景くんのことをなんて説明すれば……。
「あの、大丈夫ですか?」
すると、ひとりの女性が声をかけてくれた。
「友達が意識を……」
「え、ち、千景!?」
「ち、千景くんの知り合いですか?」
「ええ。私は千景の母です」
……ち、千景くんのお母さんっ!?
「せっかく猫用のキャリーバッグを買ったのに、やっぱりこれがいいの?」
「ニャー!」
ちっちは今日も私のバッグに顔だけを出して入っている。
「結月とちっちって、友達同士みたいだよね」
私たちのやり取りを聞いている千景くんが、隣で微笑ましそうにしていた。
私のことを名前で呼んでくれるようになった千景くんとは、前よりずっと仲良しになった。
メッセージのやり取りを毎日欠かさず送り合っているだけではなく、休日でもこうしてちっちのさんぽに付き合ってくれる。
「ちっちは完全に私のことを下に見てるけどね」
「甘えてるだけだよ」
千景くんの視線が上を向く。そこには横一線に伸びる飛行機雲が浮いていた。
「そういえば千景くんって、空を飛べたりするの?」
「どうだろう。試したことがないからわからない。結月は空を飛んでみたい?」
「空は……うん、飛んでみたいかな。憧れでもあるし」
小さい頃に繰り返し読んでいた絵本は、魔女が出てくる物語だった。自由に空を飛んでいる姿が羨ましくて、家のほうきに跨がったこともあったっけ。
「じゃあ、今度人目につかない時間を狙って一緒に飛んでみる?」
「え、いいの……!?」
「うん。夜のデート」
「デ、デート?」
私はその言葉に、過剰反応してしまった。
デートなんて今までしたことはない。ましてや千景くんとできるなんて……。わかりやすく緊張している私に気づいた千景くんが、にこりと笑った。
「結月が嫌じゃなければ、俺は昼間でも遊びにいきたいと思ってるよ」
「う……嫌じゃないです。私も、いきたぃです……」
「そっか、よかった」
職場体験以降、千景くんは少しだけ変わった。前よりも心を開いてくれてるような気がするし、私のことを見る視線もよりいっそう優しくなっている。
私も気持ちを自覚してから、千景くんへの〝好き〟がとまらない。
千景くんとの時間がなるべく長く続くようにゆっくり歩いていると、前に話してくれたパン屋さんを教えてもらった。
あの時と同じように動物のパンがたくさんあって、私は家族ぶんのパンを買った。
「レッサーパンダのレモンクリームパンはなかなか売ってないんだよ。焼き上がってもすぐに売り切れるから」
「そうなの? 買えてよかった!」
そんな話をしていると、コンビニの自動ドアが開いた。
「うわ、最悪」
中から出てきたのは、不機嫌さをむき出しにした真田くんだった。「しかもまた女連れかよ」と、舌打ちをされて、私はムッとする。
千景くんが誰といようとこの人には関係ないことなのに、なんでそんな言い方をするんだろう。
千景くんは真田くんに対して後ろめたい気持ちがあるからか、なにも言わずに黙っている。ふたりにしかわからないことがあっても、私は今の千景くんを守りたい。
「あ、あの、私たち急いでいるので」
「は? 関係ないやつは入ってくんなよ」
「か、関係ないことはないです。私は千景くんの……」
「彼女? だったら良いこと思い付いた」
「え、ちょ、ちょっと……っ」
どういうわけか、強い力で真田くんに肩を引き寄せられた。
「俺から大事なものを奪ったんだから、俺もお前の大事なものを奪ったっていいよな?」
真田くんは挑発するように、千景くんのことを見ていた。抵抗したくても、真田くんはびくともしない。
「や、やめろ。結月には手を出すな」
「へえ、結月って言うんだ」
まるで千景くんに見せつけるように、真田くんは私に密着してくる。
「や、やめて。離して……」
「暴れるなよ。間宮より俺といたほうが絶対に楽しいから」
「イヤっ!」
この人は私になんか興味はない。ただ千景くんに嫌がらせをしたいだけだ。なんとか逃げようともがいていると、突然太陽が隠れて、辺りが薄暗くなった。それと同時に、足元から地鳴りのような振動が伝わってくる。
「……な、せ、結月から手を離せ!」
その時、コンビニの窓ガラスがバリンッ! と割れた。「きゃー!」と、店内にいた人が驚いて外に出てくる。
地鳴りがひどくなるたびに、電線が激しく揺れていて、コンビニの前に置かれてる自転車も次々に倒れた。
「……ち、千景くん?」
私の呼び掛けに、千景くんは反応しない。その代わりに、彼の体がぼんやり光っているように見えた。
ガタガタ、ガタガタガタ!
周りの人たちは地震だと思って姿勢を低くしながら、地面にしゃがみ込んでいる。
これは、地震じゃない。千景くんのほうから目に見えない怒りを感じる。
なにが起きているのかわからないけど、私が止めなくちゃ……。じゃないと、大騒ぎになって取り返しがつかないことになってしまう!
「真田くん、手を離して。それで今日はこのまま帰ってください」
「は? お前こんな時になに言って……」
「いいから、帰ってください!」
真田くんがいると、千景くんの心が乱れてしまう。私の必死な訴えに、真田くんはやっと肩から手を離してくれた。
「よくわかんねーけど、あとで説明してもらうからな」
真田くんはそう言って、その場から去っていった。彼がいなくなったことで、揺れはピタリと収まった。
「千景、くん?」
もう一度呼び掛けると、千景くんは意識を失うように倒れてしまい、私はギリギリ支えた。
千景くんは、魔法を使った。いや、使ったというより、魔法があちこちに飛び散っているような感じだった。
こ、これからどうしよう。救急車? でも、千景くんのことをなんて説明すれば……。
「あの、大丈夫ですか?」
すると、ひとりの女性が声をかけてくれた。
「友達が意識を……」
「え、ち、千景!?」
「ち、千景くんの知り合いですか?」
「ええ。私は千景の母です」
……ち、千景くんのお母さんっ!?
0
あなたにおすすめの小説
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
左左左右右左左 ~いらないモノ、売ります~
菱沼あゆ
児童書・童話
菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。
『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。
旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』
大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
9日間
柏木みのり
児童書・童話
サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。
大事なのは最後まで諦めないこと——and take a chance!
(also @ なろう)
黒地蔵
紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。
※表紙イラスト=ミカスケ様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる