悪役令嬢は謝罪したい

ぽんかん

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悪役令嬢は謝罪する

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   私の家は公爵家なだけあり、お城に近かったのが幸いして、あっという間に着いた。




「流石王宮、広いなー…」



   私は、今までのセリアの記憶があったから大丈夫だったものの、普通なら迷子になってただろう。
   記憶のおかげで、王子が何処にいるかは予想がつく。きっと、いつも通り中庭でヒロインと勉強でもしてるんだろう。



「……行きたくないなぁ」



   

  

   

   2人が仲良く寄り添っている所を想像して、胸がツキン、と痛くなる。
   


  (……あれ、なんで胸痛いんだろう?)





   今までのセリアは確かに王子が好きだったから、嫌だと思っていただろう。
   でも、今の私はもう前世を思い出していて、特に王子の事は何とも思っていない。というか、さっき目覚めたばかりで王子を好きになるとか、いくらなんでもそれはない。


  (体はセリアのままだから、勝手に反応して胸が痛いとか……?)


   

   私は好きでもなんでもないのに?



   そんな事有り得るんだろうか……。


   


   



   そんな事を考えていたら、中庭に着いた。


   



   案の定中庭のテラスには、リカルド王子とヒロインのリリア・フォレスターがいた。   
   王子と光の魔法を持つヒロイン、しょうがないと思っても、どうしても胸が痛くなってしまう。



  
  (あんな楽しそうな笑顔、私見たことあったかな…)




   声を掛けられずにぼーっと見ていると、2人が私に気付いて立ち上がった。




    
「っ!ーーやあ、モーガス嬢」



   王子が私に近付いて来て、笑顔で挨拶をした。
   さすがは一国の王子、私のような者にも分け隔てなく優しく接する。
   そのおかげで、セリアは勘違いがさらに加速して王子を困らせたんだけど。
    

   でも、私は見てしまった。一瞬顔が歪むのを。
   

   



   また1つ、胸がツキンと音を立てた。






「ご機嫌よう、殿下」


   胸の痛みに気付かないふりをして、笑顔で挨拶をする。
  

   私が殿下と呼ぶと、王子は目を見張った。
   今までの私は殿下の事を許可なくリカルド様と呼んでいたので驚いているのだろう。



   前のセリア通り接した方がいいのかもしれないけど、前世を思い出した今、今まで通り接するのは難しい。





「まだ体調はあまり良くないようだね」



   殿下と呼んだだけで体調不良扱いされた。
   


   今までのセリアから考えたら当然の反応なのかもしれないけど、ちょっと失礼じゃないか。



「いえ、もう体調はすっかり良くなりましたわ」


「…そうか、なら良かった。見舞いには行けなくすまなかったね、色々と忙しかったもので」




   そんな事を言わなくても、責めたりしないのに。
   王子が私を嫌がっている事は、分かっている。


「おやめ下さい、殿下がお忙しい事は分かっています。仕様がないことですわ」


   私の言葉に殿下は目を見開き驚いていた。



「だ、だが…」


「良いのです。私もこうして無事元気になりましたし」



   王子は奇妙な物を見るような目で私を見て、黙ってしまった。


   きっと、うるさく責められると思っていたのだろう。
   確かに、今までのセリアならば「寝込んでいる私を放っておくなんて、最低ですわ!こんな女と一緒にいる時間があるなら私に会いに来るべきですわ!!!」
と喚き散らしていただろう。
   
   セリアは自分が王子に嫌われているなんて少しも考えていなかったのだ。

   
   
   


   これは本格的に私の印象が最悪すぎる、早く謝って挽回しないとーーー



「それよりも、私こそ言わなければいけない事があります」


「……何だ?」


   王子の眉がひそめられる。また我儘を言われるとでも思ったのだろう。




   私は改めて姿勢を整えて、王子に向き合う。






「今までの多大なるご無礼、本当に、本当に申し訳ありませんでした」



   言い終わったと同時に、これ以上無いくらい頭を下げる。



    


   頭を上げると、化け物を見たような顔をして固まっている王子とヒロインがいた。



「フォレスター様も、酷い言いがかりに数々の暴言、本当に申し訳ありませんでした」


   謝罪をする度に、もう開かないくらいに見開いた目がさらに開いていく。



「……あの…、そんなに目を開くと、飛び出てしまいますわ…」



   声をかけると、2人ともようやく現実に戻って来たみたいだ。

   

「モッ、モーガス嬢、やはりまだ具合が良くないのではないか?」




   ………いくらなんでも酷くないか



   確かに、セリアは今まで謝った事が無かったけど!
   人として当たり前の事をして、この反応は流石にちょっと傷つく…。


  (今までその当たり前の事が出来てなかったんだもんな…)



   ………頑張ろう



「殿下、私はこの通りピンピンしております」


   胸を張ってアピールする。


「で、ではーー」


「殿下。私は正気です」



   まずは、この謝罪を信じてもらわないと。



「急にこのような事を申しても、信じては頂けないかも知れません。それぐらいの事を今までしてきてしまいました。殿下のご都合も気持ちも考えない言動、本当に、申し訳ありませんでした」


   もう一度、頭を下げる。そして、ヒロインに向き直る。



「フォレスター様にも、本当にご迷惑お掛けしました。貴重な光の魔法を使うお方、殿下とご一緒に学ばれるのは当然の事。何より、殿下がどなたと一緒にいるかは殿下御自身の自由。それを、身分を笠に来ての暴言、さらには大切なご家族に対する侮辱。本当に、本当に申し訳ありませんでした」



   ヒロインの家族は確か、凄く仲良くて暖かい家庭だったはず。
   しかしあまり裕福ではない。家族を助けるため、光の魔法が判明した時に、多額の援助金と引き替えに学園に行く事を決めるのだ。
   
   それを調べ上げたセリアは、何かにつけては「国からお金を巻き上げた上に、殿下にまで媚を売るだなんて、やはり庶民は卑しいわね、恥を知りなさい!!」と、それはもう謝罪してもしきれない暴言を吐いていたのだ。



  (最低だ、最低すぎる)
   





「モーガス様、どうかお顔を上げて下さい」


「!し、しかしーー」


「どうか、お願い致します」




   私は恐る恐る顔を上げると、初めてヒロインと目が合う。
   

 

  (うわぁ……)


   


   初めてちゃんと見たヒロインーーリリアさんは、とても綺麗だった。


   王子とお揃いの綺麗なブロンドは胸元まであり、緩く波打っている。瞳は蜂蜜を溶かしたみたいな、甘い色。表情は穏やかで、可愛いけど綺麗で、凛々しい。



「モーガス様」



   私がその場の空気も忘れて見とれていると、リリアさんから声を掛けられた。



「っ!!はっ、はい!!」


   しまった、声が裏返った。




   すると、リリアさんがクスクスと可愛らしく笑っていた。


  (は、恥ずかしすぎる……)

   穴があったら埋まりたいとはまさにこの事だ。



「ふふっ、モーガス様、私かなり打たれ強いんですよ?何を言われても、特に気にしていません。」



   今度は私が目を見開く番だった。




「でも」


「!!」


「家族の事を言われた事だけは、私少し怒っています。私の事は別にいいんです。慣れてますし。でも、家族は関係ありません、遠い所で、今でも私を想ってくれているんです。とても…とても大切なんです」



   



   ーーーー私は、本当に最低だ。




   目が覚めた時、少し、ほんの少しだけ、思ってしまった。




『私がやった訳じゃないのに』『セリアがやった事なのに』



   本当に馬鹿だ。何を言ってるんだろう。
   前世を思い出しても、今までの記憶は忘れていないのに。
   


   大好きなお母様が亡くなった時の記憶は、しっかりとある。辛かった記憶も忘れてない。そんな私を抱きしめて、泣いているお父様。それからは、やり過ぎなくらいに大切にしてくれた。前世の記憶が薄い私にとって、今の家族こそ、私の家族だ。
   

   それから、沢山の人に迷惑を掛けた。王子にもヒロインにも。
   言った事を、やった事を覚えている。それなのに他人事な訳ない。

 


   前世を思い出したとしても、今までのセリアも私である事に変わりない。



  (ちゃんと、謝らないとーー)





「リリア・フォレスター様」


   
   リリアさんと目を合わせる





「本当に、申し訳ありませんでした」


   
   
   心からの謝罪を、断罪回避とかじゃなくて、1人の人間として謝らなくちゃいけない。



「わっ!モ、モーガス様、おやめ下さい!!気持ちは充分伝わっております!!」


「駄目です!本当はこんなものじゃ済まされません!!」


「さっきの話はまだ続きがあったんです!怒っていましたが、モーガス様が謝って下さったので、もう怒っていませんと言いたかったのです!!」




   ……優しすぎるでしょ。リリアさん、優しすぎるよ。もっと怒って良いくらいの事を私はしたのに。



「モーガス様程の身分の方が頭を下げるなど、貴族世界ではまず無い事ですよね?それなのに、庶民の私に頭まで下げて謝って下さるなんて、それだけでもう充分お気持ちは伝わっております」


「ですがーー」






「モーガス嬢」





   っ!!そういえば、王子いたんだったー!!!



   リリアさんの事に夢中で、王子の存在忘れてた………。



「フォレスター嬢も困っている、顔を上げなさい」


「でも!」


「モーガス嬢」


「………はい」



   私は、渋々顔を上げた。


   そこには、苦笑するリカルド王子とリリアさんがいた。


「モーガス様、私本当にもう怒っていませんよ?家族の事以外は、本当に気にしていませんから」



   いやいや、気にしましょうよ、本当に会う度に暴言三昧だったのに。



「それに、私ももう少し気を使うべきでした。婚約者の方が女性と2人で勉強してたら、嫌な思いをされるはずですもの」


「なっ!何を仰るのですか!フォレスター様は何も悪くありません!」


   どこまで良い人なんだこの人は!!
   いくら王子が好きだったとはいえ、やっていい事と悪い事の分別もつかないセリアが悪いに決まってる!



「悪いのは完璧に私です!本当に申し訳ありませんでした!!」


   そう言って頭を下げようとしたら、何かに肩を押さえられて下げられなかった。



「駄目だよ」


   上から王子の声が降ってきた


「またさっきのを繰り返すつもりかい?モーガス嬢」


   どうやら、押さえていたのは王子の腕みたいだ。


「本来、君程の身分の者が頭を下げるというのは、良くないんだよ。君はモーガス家の名前を背負っているんだ、迂闊な行動は君の首を締めることになる。フォレスター嬢も困ってしまうだろう?」


「……」



   た、確かにそうかもしれないけど……。


   でも!じゃあどうやって謝れば良かったの!!土下座!?もっと良くないでしょう!!?



「モーガス嬢」



   有無を言わせない笑顔と声が降ってきました。



「……はい」



   それでも何だか悔しくて、渋々返事をすると、頭をぽんぽんとされる。


「ふふっ、分かればよろしい」


   特大の笑顔付きで。









   ーーーーーーーぼふんっ





「ーーーっ!!!!??」


   か、かお、顔が!顔が熱い!!!な、何なの!?なんで!!?
   お、おかしい!!前のセリアは王子大好きだったけど!!!今の私は別にそんなんじゃないし!!!



「モーガス嬢?どうしたんだい?」



   そう言いながら顔を覗き込まれる。




  (も、もうダメだーーー)



「し、失礼致します!!!!」



   そう言って、限界だった私は、公爵令嬢にあるまじき走り方でその場から逃走したーーー



  






  (な、なんなの!?意味わからなすぎる!!)

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