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悪役令嬢は覚悟を決める
しおりを挟む「それで、お話とは?」
2人が出ていった後に、流石に王子を立たせたままにはしておけないから向かい合わせに座ってから聞く。
「その……昨日の事なんだけど」
「昨日?」
「私が部屋に行ったら貴女は居なくて、使用人に聞くと慌てて帰った…というからね」
あ!!そういえばそうだった!!
さっきまでのごちゃごちゃで忘れてた…。
「モーガス嬢、私は貴女に何かしてしまったのかな…?」
「……」
こ、これってチャンスじゃない?ちゃんと2人を応援するって改めて決意した訳だし、ここでちゃんと婚約解消してくれて大丈夫ですよ!ってちゃんと伝えれば王子も喜ぶだろうし…。
(今しか、ないよね…)
「殿下…その、」
「何だい?何でも言って欲しい」
「はい…あのですね…」
頑張れ!頑張れ私!!早く言え!!
「婚約を…解消、致しませんか?」
よし!言えた!!良くやった!!
「………え?」
まさか私から言われるとは思っていなかったんだろう、今まで見た事ない顔をしてる。
最後にまた新しいリカルド王子見れて良かったかも、冥土の土産ってやつだ。
……ちょっと私気持ち悪いかな?
でもそれだけこの時間で好きになってしまったんだし、それくらいの気持ち悪さは受け入れてもらわないと!
「ごめん、なんて言ったか聞こえなかったんだ、もう1回言って貰えるかな」
あれ、ちゃんと言ったつもりだったんだけど、まだ覚悟足りなかったかな…。
よし、ちゃんと改めて言わないと!
「婚約解消しましょうと申し上げたのですわ」
これはちゃんと聞こえたでしょう!
「……は?えっ?…何で?」
あれ?もっとホッとされるかと思ったんだけどな…。
私に気を使ってあからさまに喜ばないようにしてくれてるのかな?そんなのいいのに。
「あれ?昨日なんで帰ってしまったかを聞いたよね?何で、そうなるんだ」
リ、リカルド王子、口調!口調が素になってますよ!一応私知らないって設定だから!!
「で、殿下…?」
「あっ!す、すまない、ちょっと取り乱してしまったよっ、」
王子……私に婚約解消を提案されただけでそんなになるなんて、普段ちゃんと隠せてるのかな…?
「…っ、それで、婚約解消なんて私はする気全くないよ」
んー?さっきから思ってたのと反応が違うんだけど……。
陛下直々の政略結婚だから断れないと思ってるのかな?
「あの、私からは婚約解消だなんて事はとても出来ませんが、殿下が望めば陛下はお許し下さると思いますよ?その…私の噂もあまり良いものはありませんし」
実際リカルド王子のお父様はとても温厚な方で、政略結婚が決まった時もとても申し訳なさそうにしていたらしく、それを王子が国の為にもするべきだと言って了承したらしい。
私の噂は本当に悪いものばかりで、陛下にも少しは耳に入っているだろうから、王子が嫌だと言えば家族大好きな陛下は無かった事にしてくれると思う。
(しかもその代わりがあのリリアさんだしね、陛下達からしても万々歳だろうしーー)
って、へこんでる場合じゃなかった。
「……モーガス嬢はそんなに婚約解消したいの」
「え?」
「そんなに私は嫌かな」
何でそうなるの!!私は貴方とリリアさんの為に身を引くって言ってるんでしょーが!!
「いえ殿下、そんな事ありませんわ」
「じゃあ何で…」
どうしよう……。好きな人出来ましたとか嘘つく?いやダメだ、万が一にでもお父様に迷惑は掛けたくない。ただの婚約解消じゃなくて、娘の不貞が原因だなんてお父様の立場が悪くなるだけだ。
第一私は嘘が下手だから、王子には直ぐに見破られちゃうだろうし。
ここはちゃんと話そう。
「殿下…、私がこれから話す事は殿下を責めるとかそういう気持ちは一切ありません。自分の中でも納得していますし、悪いのは私だと分かっています」
「ん?どういう事かな?」
はあ、もう何で2人の事を私の口から言わなくちゃいけないの……。泣きそう。
「殿下、フォレスター様を想っていらっしゃるのですよね」
「…え?」
「別にその事を責めるつもりは全くありません。そもそもは私が殿下にご迷惑をお掛けした事が悪いのですから」
そりゃ、婚約者のせいで疲弊してる時にあんなに素敵な人に出会って、一緒に過ごしたら惹かれるわ。
「正直、とてもショックではありました…。ですがリリアさんなら仕方がありません、とても、とても素敵な方で私なんか全く敵いませんもの」
なにより、私もリリアさんが大好きだしね。
「ですので、もうこれ以上私に気を使って無理に婚約し続けなくても良いのですわ。誰も幸せになりませんもの」
「えっ、ちょっ、ちょっと待って。全然話についていけないんだけど…」
私が知ってた事に同様してるんだろうな…。殿下、女って思ってるよりも鋭い生き物なんですよ?
「だ、誰が誰を好きだって?」
「ですから、殿下がフォレスター様を」
「は!?な、何でそうなるの!!?」
殿下…、もう隠しきれませんよ?さっきからちょいちょい素が出ちゃってるし。
「……殿下、普段はご自身の事を『俺』と呼ばれているのですね」
「っ!!」
王子が大きく目を見開いた。
「話し方も仕草も、今よりも親しみやすい感じですのね」
隠された腹いせにちょっとだけ嫌味っぽく言ってしまった。
リカルド王子はというとこれ以上ないくらいに目を見開いていて、初めて謝った時を思い出す。
「きっと、殿下なりの使い分けなのですよね?親しい方と、そう出ない方の」
「それ、何処で…」
あんまり思い出したくないんだけど……
「昨日、応接間に向かっている最中に、フォレスター様との会話を聞いてしまいました。…申し訳ありません」
公爵令嬢が盗み聞きは良くないだろうし、殿下もいい気はしないよね。
「……もしかして、それで昨日」
「はい……。何も言わずに急に居なくなってしまって申し訳ありませんでした」
いくらショック受けたとはいえ、勝手に居なくなるのは良くなかったよね。
「……フォレスター様には、素の殿下を見せていて、私は知らなかった…」
自然と手に力が入る。ここで泣いたら、なんかダメな気がする。
「それって、フォレスター様が特別で、私はそうではないという事ですよね…?」
泣くな、泣くな
「あっ、決して責めている訳ではありません!私フォレスター様も……殿下も、とっても大好きなんです」
まだ、まだ我慢して、
「心から、お二人の幸せを願っておりますわ」
大丈夫。私、上手く笑えてるよね…?
すると、向かいに座っていたリカルド王子が急に立ち上がった。
私の言質もとったし、これからリリアさんを迎えに行くのかな……なんて下を俯いたら、緊張が溶けたのか急に涙が溢れてきた。
(最悪の1日だーー)
そう思った瞬間、
「きゃっーー」
急に暖かいものに包まれた。思わず顔を上げると
「で、殿下!?」
思ったより顔が近くて心臓が止まりそうで、もうこんなの初めてでよく分からない。
「ごめんーー」
「えっ?」
「そんな顔をさせるつもりはなくて」
なに、どういう事?リリアさんを好きになってごめんって事?えっ?
「で、殿下…?」
困惑していると急に体を離されて。
(って、嫌だ!私泣いてるから酷い顔してる!!)
思わず顔を背けると「こっち向いて」と言われて、恐る恐る顔を前に向けるけど目は見れなくて。
「好きだ」
ーーーーえっ?
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