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悪役令嬢はヒヤヒヤする
しおりを挟む「うわ、これは酷いな…」
目が腫れまくっている。
これはリルに心配かけちゃいそう……。
今日はお父様早く仕事に行く日で良かった、見つかったら凄い騒がれるわ、これ。
「失礼致します」
噂をすれば何とやら、早速リルが入ってきた。
「おはようございますセリア様!今日はとてもいいお天気で…」
リルが私の顔を見て固まった。
「……セ、セセ、セリア様その目元はどうなさったのですか…」
「っ、な、なんでもないわ。昨日少し感動的な本を読んだだけよ」
この言い訳通じるのかな…。リルって可愛らしい見た目に寄らず結構鋭い所があるから。
「……セリア様、昨日はお城に行かれてましたよね」
「っ!」
「いつもよりも早くお帰りになられて、様子がおかしかったと他の使用人が申しておりました」
「っ!!」
「原因は……殿下、ですね?」
な、なんなの!?名探偵もびっくりの推理なんだけど!?
昨日はリルは用事で屋敷にいなかったから大丈夫だと思ったのに、どこかで私の事見張ってるんじゃないでしょうね!?
「いいえ、殿下は関係ないわ。本を読んでただけだって言っているでしょう?」
「…では、その本を私にも見せて頂けますか?」
なっ、無いよ!そんな本!咄嗟についた嘘だもん!!
あーもう!こんな事なら普段から本読んでおけばよかった!!
「…セリア様?」
「…っ、」
リ、リルさん?性格がかわってませんか?
笑顔なのに、目が笑ってなくてめちゃくちゃ怖いんだけど!?
絶体絶命もう無理だと思ったその時、扉がコンコンと音を立てた。
(た、助かったーー)
私が、返事をしながら逃げるようにドアへ向かうと、慌てた様子の侍女が立っていた。
「おっ、お嬢様!お客様がお見えです」
お客様?特に予定は入って無かった筈だけど…。
「こんな時間に?予定は特に無かったと思うのだけれど、一体どなたかしら?」
「そっ、それが」
「モーガス嬢」
ーーーーえ?
「……大変だわリラ。私ったら幻聴が聞こえるだなんて、疲れてるのかしら」
今日はゆっくり休んだ方がいいみたい、もう1回寝直そうかな。
「いえ、セリア様。残念ながら幻聴ではないみたいですよーー」
そんな警戒心剥き出しの声で言わなくても流石に分かるよリル。1回現実逃避をしたかったの…。
だって、この声はどう考えても
「殿下ーー」
リルの方を向いていた顔を扉に向けると、やはりそこにはリカルド王子がいらっしゃいました。
「…モーガ」
「殿下」
リカルド王子が話始めた途端、リルが冷たい声で遮った。
な、なんか今日のリル凄く怖いんだけど…。さっき知らせに来てくれた侍女の子も慌てて居なくなっちゃったよ。
「失礼を承知で申し上げますが、この様な時間になんの知らせもなく訪れるのは些か不躾ではないでしょうか」
!!?ちょっ、リルさん!?相手は王子!王族の人間ですよ!!
「リ、リルっ」
「いくら王族の人間とはいえ、最低限のマナーという物は守らなければいけないと思います」
だ、ダメだ私の声聞こえてないよ。
「昨日はセリア様と何かあられたようですし、もう少しセリア様のお気持ちをお考えになられてはいかがですか?」
いや、それは王子関係ないって言ったのに!
やっぱりあんな言い訳リルには通用しないのか…。
「確かにセリア様は少し行き過ぎてしまっていた所もありましたが、でもそれも殿下を想うが故の事です!」
「リ、リル!?ちょっと!」
な、何言い出してるの!!
「それを少しも考えずに、あまつさえセリア様を泣かせるとは!!」
「リル!!」
これ以上はいけないと、リルを私の後ろに隠す。
いくらなんでもこれは不敬罪として捕まってもおかしくないくらいの発言だ。
「殿下、私の侍女が大変失礼致しました。私の方からしっかりと言い聞かしておきますので、どうか今回は見逃して頂けないでしょうか」
そうして、頭を下げる。これでどうにか許して貰えるといいんだけどーー。
「セリア様!!」
リルが後ろから慌てた様子で止めようとする。
「モーガス嬢、顔を上げてくれないかな…?」
言われた通りに上げると、困った顔の王子がいた。
「私は別に怒ってもいないし、特に何か罰を与えたりするつもりは無いよ?」
その言葉にホッとする。
王子は優しいから不敬罪とかはないとは思ったけど、やっぱり本人の口から聞くまでは安心出来ないから。
「それに、リルさん…だったかな?彼女の言う事もとても考えさせられるものだったしね」
「殿下」
リカルド王子が、苦笑しながら話した所で誰かが呼んだ。
あれ、この声どっかで……。
「それは些か甘すぎるのではないでしょうか」
少し棘のある言い方で、王子の後ろから少し上がり気味の目に黒髪の男性が出てきた。
(って、あの人王子の側近のジュードさんだ!)
そっか、流石に王子が1人で来るのは周りの人が許さないよね、そりゃそうだ。
側近なんだからジュードさんが一緒に来るのは当然だ。
なんて考えていると、しっかりとジュードさんからひと睨みされましたとさ。
相変わらず私が大嫌いなご様子で、私が悪いんだけど、この人ちょっと苦手だな…。
「先程殿下があちらの娘から言われた言葉は立派な不敬罪に当たります。それを安易に許されてしまっては殿下の尊厳にも関わります」
「ジュード…」
そういえば、こんな感じだったな。
この人言い方はちょっと、いやかなり冷たく感じちゃうけど、要はただの王子大好き人間だった。
今のも王子に注意してる様に聞こえるけど、多分王子を悪く言われて単純に腹が立ったんだと思う。
そりゃ、王子に迷惑掛けまくりの私なんか大嫌いに決まってるよ。
「第一、そこの娘はモーガス様のお気持ちがどうのと申していますが、最初に殿下の気持ちも考えずに散々迷惑を掛けたのはそちら側ですよね」
ぐうの音も出ない…。
なんて思ってたら、後ろにいたリルがプルプル震えたと思ったら私の前に出て怒り始めた。
「なっ、何ですかその言い方は!セリア様はこの国の名高い公爵家のご令嬢であらせられるのですよ!それを、そ、そちら側ですって!?迷惑ですって!?失礼にも程があります!!」
「殿下はこの国の第一王子であらせられますが?最初に失礼な言動をしたのは貴女では?」
「ぐっ…!」
リル…、ぐっ…!って、そんなの現実で言う人初めて見たよ。
そして私は何もフォローが出来ないよ……。
「それに、殿下の都合も気持ちも考えずに暇有れば学園に押し掛け、休暇となればお城に押し掛け、周りに少しでも人がいると文句を言い、鍛錬も勉強も邪魔をし、更には何もしていなフォレスター様を罵倒する。数々の傍若無人な行いをされてもまだプレゼントを送り、昼食を一緒に食べ、笑顔を向ける。これ以上にないくらいに慈悲のある対応だったと思いますが」
……人に改めて言われると、本当に私酷いな。
そして王子が我慢強過ぎる、本当にごめんなさい…。
「……そんなに、そんなに好きな方に会いたいと思うのはおかしい事でしょうか」
「は?」
「ちょっと、リル!?」
何言ってるの!すぐそこにリカルド王子いるから!!
「想いを寄せる方に、殿下に会いたいと思うのはおかしい事ですか?二人きりで話したいと思うのは変ですか?異性の方と仲良くするのを見て嫉妬してしまう事がそんなに駄目な事ですか?セリア様はまだ学園に通うまでに月日があります。殿下の周りの人を見て焦る気持ちがあるのは当然の事ではありませんか?」
「……」
「それに、セリア様は確かに少し行き過ぎてしまった所もあるかもしれませんが、今はとても後悔をしておられます。好きな方に嫌われてるかもしれないと思いながらも向き合って謝罪をする。それがどんなに勇気のいる事か、分かりますか?」
……もう、本当に、何で私の周りにはこんなに思ってくれてる人がいるのにあんなに我儘になっちゃったんだろう。
まさかリルがこんな風に思ってくれていたなんて、あんなに迷惑掛けたのに本当にいい子過ぎる。
「……、ですが、そもそもその謝罪も本心なのでしょうか」
はい?そこから信じて貰えてないの!?
……ちょっとショック、かも。
「大体、急に態度が変わるなんて何か企んでいるようにしか思えません。今迄とは真逆の態度をとって、殿下の気を引こうとでもしているのではないですか」
「なっ!!」
ちょっと、これはリルじゃなくても怒ってしまいそうなんだけど……。いくらなんでも酷くない?
「案の定、殿下は直接会いに行き、今では定期的に会って話をしている」
「ちょっ、ちょっと、貴方!セリア様になんて事を!!」
「今は上手くいっているようですが、私はーー」
「ジュード!!!」
「!!」
急に、リカルド王子の声が響いた。
(びっ…くりした……)
王子のこんな声初めて聞いた。こんな大きな声出るんだ、この人。
「……それ以上言ったらお前を許せなくなる」
「っ、で、ですが殿下」
「ジュード、モーガス嬢に謝れ」
「……っ、…はい」
そう返事をすると、ジュードさんが私を見る。
ちょっと、こんなにちゃんと目が会うのは初めてだから緊張するな…。
「……先程は、大変失礼な事を言ってしまい、申し訳ありませんでした…」
そのまま頭を深く下げられた。
「いっ、いえ!私が悪いのですから、こちらこそ今まで大変申し訳ありませんでした。どうぞ、お顔を上げてください」
そう言うと、恐る恐る顔を上げて王子の顔を伺っている。その顔はまるで捨てられた子犬みたいで、なんだかちょっと可愛いというか、可哀想というか。
(この人、本当に王子が大好きなんだな…)
「モーガス嬢、本当にすまない。ジュードも普段はこんなに言う奴ではないんだ」
「大丈夫ですわ。ほんの少しびっくりしましたけど、それだけ殿下の事を大切に思っていらっしゃるという事ですわ」
そう言うとジュードさんの肩がピクリと動く。
……なんか、この人の扱い方分かってきた気がする。
「…それで、その、2人だけで少し話をしたいのだけれど、いいかな…」
こっちもこっちで私の顔を見ながら子犬みたいな目で恐る恐る聞いてくる。
「ふふっ、ええ、いいですわ」
「っ、良かった…ありがとう」
凄いホッとした顔をしてる。私が断るとでも思っていたのかな?嬉しそうにジュードさんに外に居るように言っている。
私もリルに外に出るようにお願いすると、先程の王子の声にまだ驚いていたのか、点になった目をパチパチとして急いで出ていった。
ちょっと可愛いなんて思っちゃったりするのは、流石に空気が読めなさすぎるよね……。すいません。
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