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第九話 制限という名の保護
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王都への帰還命令は、即時だった。
命令――と書いたが、書面上は違う。
「協議のため、速やかに王都へ」
柔らかい言葉ほど、逃げ道は少ない。
城に入ると、以前より警備が増えていた。
視線の数が、明らかに違う。
会議室には、セレーナ王女だけではなかった。
軍務卿、宗務官、内政官。
全員が揃っている。
俺は、席を勧められたが、座らなかった。
「立ったままでいい」
そう言うと、
空気が一段、張り詰める。
最初に口を開いたのは、宗務官だ。
「宗教都市ルメアの件、
余波が出ています」
知っている。
「魔王信仰そのものは抑えられていますが、
“終わりを待つ思想”が、各地で芽を出している」
思想は、剣より厄介だ。
「勇者殿が現地で妥協したことが、
一種の前例となりました」
責めているわけではない。
分析だ。
次に、軍務卿。
「我々は、あなたの判断を尊重してきた」
過去形だ。
「だが、影響が読めない」
内政官が続ける。
「勇者の行動は、政策と同義です。
個人の裁量が大きすぎる」
視線が、俺に集まる。
セレーナ王女は、黙っている。
「結論を言います」
軍務卿が言った。
「今後、あなたの行動には、
事前承認が必要です」
来た。
「移動、交渉、武力行使。
すべて、王都の判断を仰いでいただく」
「……戦場で?」
「可能な限り」
現実的ではない。
だが、それが“理想”なのだ。
俺は、王女を見る。
「あなたの判断か」
彼女は、目を逸らさなかった。
「私の提案です」
声は、静かだ。
「あなたを守るためでもあります」
「守る?」
「あなた一人に、
責任を背負わせないために」
言葉としては、正しい。
だが。
「俺は、選ぶためにここにいる」
低く言う。
「選ばせないなら、
俺は何になる」
一瞬、王女の表情が揺れた。
「……象徴です」
はっきり言った。
「判断は国家が行い、
あなたは、それを実行する」
空気が冷える。
それは、勇者の否定だ。
会議は、そこで終わった。
俺は、了承も拒否もしていない。
だが、決定は覆らない。
城を出ると、
護衛がついた。
命令ではない。
だが、離れない。
夜、部屋で一人になる。
剣を壁に立てかける。
軽い剣だ。
だが、今は重い。
選ぶ自由を失うということは、
間違える自由も失うということだ。
そこへ、声がした。
「檻に入ったね」
魔王だ。
「安全だろう?」
皮肉が混じる。
「責任から、守られる」
「……守られているのは、国だ」
「そうだ」
魔王は、楽しそうですらある。
「君が選ばなくなれば、
世界は“予定通り”進む」
予定通り。
滅びへの、既定路線。
「それで、いいのか」
問いが投げられる。
答えは、まだない。
だが、一つだけ分かっている。
俺は、剣を振るうために選ばれたのではない。
選び続けるために、ここにいる。
それを奪われるなら、
勇者である意味はない。
窓の外、王都の灯りが揺れている。
守るべきものは、確かに多い。
だが、
守りすぎた結果、
何も変えられなくなる。
俺は、剣を握る。
次は、
命令に従うか、
それとも――
選択肢が、
狭くなった音がした。
命令――と書いたが、書面上は違う。
「協議のため、速やかに王都へ」
柔らかい言葉ほど、逃げ道は少ない。
城に入ると、以前より警備が増えていた。
視線の数が、明らかに違う。
会議室には、セレーナ王女だけではなかった。
軍務卿、宗務官、内政官。
全員が揃っている。
俺は、席を勧められたが、座らなかった。
「立ったままでいい」
そう言うと、
空気が一段、張り詰める。
最初に口を開いたのは、宗務官だ。
「宗教都市ルメアの件、
余波が出ています」
知っている。
「魔王信仰そのものは抑えられていますが、
“終わりを待つ思想”が、各地で芽を出している」
思想は、剣より厄介だ。
「勇者殿が現地で妥協したことが、
一種の前例となりました」
責めているわけではない。
分析だ。
次に、軍務卿。
「我々は、あなたの判断を尊重してきた」
過去形だ。
「だが、影響が読めない」
内政官が続ける。
「勇者の行動は、政策と同義です。
個人の裁量が大きすぎる」
視線が、俺に集まる。
セレーナ王女は、黙っている。
「結論を言います」
軍務卿が言った。
「今後、あなたの行動には、
事前承認が必要です」
来た。
「移動、交渉、武力行使。
すべて、王都の判断を仰いでいただく」
「……戦場で?」
「可能な限り」
現実的ではない。
だが、それが“理想”なのだ。
俺は、王女を見る。
「あなたの判断か」
彼女は、目を逸らさなかった。
「私の提案です」
声は、静かだ。
「あなたを守るためでもあります」
「守る?」
「あなた一人に、
責任を背負わせないために」
言葉としては、正しい。
だが。
「俺は、選ぶためにここにいる」
低く言う。
「選ばせないなら、
俺は何になる」
一瞬、王女の表情が揺れた。
「……象徴です」
はっきり言った。
「判断は国家が行い、
あなたは、それを実行する」
空気が冷える。
それは、勇者の否定だ。
会議は、そこで終わった。
俺は、了承も拒否もしていない。
だが、決定は覆らない。
城を出ると、
護衛がついた。
命令ではない。
だが、離れない。
夜、部屋で一人になる。
剣を壁に立てかける。
軽い剣だ。
だが、今は重い。
選ぶ自由を失うということは、
間違える自由も失うということだ。
そこへ、声がした。
「檻に入ったね」
魔王だ。
「安全だろう?」
皮肉が混じる。
「責任から、守られる」
「……守られているのは、国だ」
「そうだ」
魔王は、楽しそうですらある。
「君が選ばなくなれば、
世界は“予定通り”進む」
予定通り。
滅びへの、既定路線。
「それで、いいのか」
問いが投げられる。
答えは、まだない。
だが、一つだけ分かっている。
俺は、剣を振るうために選ばれたのではない。
選び続けるために、ここにいる。
それを奪われるなら、
勇者である意味はない。
窓の外、王都の灯りが揺れている。
守るべきものは、確かに多い。
だが、
守りすぎた結果、
何も変えられなくなる。
俺は、剣を握る。
次は、
命令に従うか、
それとも――
選択肢が、
狭くなった音がした。
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