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プロローグ・その3
しおりを挟む「……転生の話、承りました」
「うむうむ。地球の神とはすでに話は付けてあるのでな。あとはお主の希望を聞くだけだ」
「希望、ですか? そんなこともできるのですか?」
彼女は驚き、パチパチと瞬きをする。まさか希望を叶えてもらえるとは思わなかったからだ。
「できる。お主には穢れた魂の掃除を手伝ってもらったのでな。して、何かあるか?」
「そう、ですね。人間はもうこりごりなので、動物がいいです」
「ふむ、動物だな。何でもよいのか?」
「あ、いえ、そのできれば……」
彼女には好きな動物がいた。とても部屋では飼えない、そう、“ホワイトライオン”だ。一度テレビでちらっと見ただけなのだが、その美しさと気高さに心臓を鷲摑みされた。
もしなれるのであれば――
「ホ、ホワイトライオンがいいのですが……」
「ふむ。ホワイトライオンか。わしの世界には存在せぬな」
「そうですか……」
「しかし! わしは神! このわしにかかれば、新種を生み出すことなどどうということはない! ほれ、他にはないのか?」
神がこう言ってくれているのだ、ここまでくれば全部言ってしまおう。
「では、ホワイトライオンに翼を付けることはできますか?」
大空を自由に羽ばたく鳥にも憧れていた。できれば空を飛んでみたかったのだ。
「ふっ、そのくらい造作もないぞ。しかし、お主はスイーツを食べることも好きであろう? ならば人間の姿にもなれた方がよいな。では変身できるようにしておこう。よいか?」
「はい。ありがとうございます」
そんなことまで考えていなかった。神の気遣いに感謝する。
スイーツを食べるにはやはり、人になれた方がいいだろうと彼女も思った。
「あとは……そうだな、収納がいるな。バッグ……はホワイトライオンでは使えぬな。……うむ、よし、右手をアイテムボックスにするか。右手を翳せば物を出し入れできる」
「まぁ、そんなことができるんですね」
「……しょ、少々珍しいだろうが……な」
神の小さな呟きは、おそらく彼女に聞こえないように言ったのだろう。しかし、バッチリ届いてしまっていた。
「珍しいのですか? でしたら、無理にお願いは致しませんが……」
「よかろう! よし! 大体は決まったな。さて、最後に――言霊使いとしての能力はどうする? わしの世界でも使えるようにすることは可能だ。その場合、魔法は使えないようにさせてもらう。世界のバランスを保つ為だ」
若干無理に話をすり替えたような気はするが、再度どうするかを目で問われ、彼女は――
「魔法というものがどういったものなのかは分かりませんが……わたくしは言霊使いであることを選びます。この力は母の形見でもあるので」
そっと喉に触れ、目を伏せた。
あの日、貴重な一族が減ると男が言っていたのはこのことだ。当たりが出るまで産ませるというのは、言霊の力を持った子供が生まれるまで、ということだろう。喉を潰されていたのも言霊を使えなくする為であった。
“言霊”――使い方次第ではどんな凶器よりも鋭い武器となる。幼少の頃から使い方や心構えは母親から仕込まれている。
「そうか。では一通り決まったな。そろそろお別れの時間だ」
「もう? そうなんですか?」
「うむ。人間の姿になった時は、十五歳くらいの見た目しておく。さぁ、わしの世界に送るぞ」
「……わたくし、大丈夫でしょうか? せっかく動物に生まれ変わることができても、また――」
また――裏の世界に戻ることになるのでは……?
そんな不安が彼女の中を駆け巡る。
彼女の不安を察した神は、ふわりと抱きしめ口を開く。
「大丈夫だ。そんなに不安ならお主の歩む道を照らす光をやろう。――ルーチェ。これがお主の名だ。不安になればその名を口にしろ」
「はい。……ルーチェ。わたくしの名前、嬉しいです。……そう言えば、あなた様の名前を聞いておりませんでした。聞いてもよろしいですか?」
「うむ。わしの名はブラフマ。教会に行けばまた会うことも可能だ」
その言葉に彼女――ルーチェはほっと胸を撫で下ろした。
「これでお別れになるのは寂しかったので、その言葉が聞けて安心しました」
ふわりと微笑み、ルーチェはブラフマの小さな身体に抱きついた。
「また。会いにきます」
「ああ、待っておるぞ、ルーチェ」
転生の準備が整い、ルーチェの身体が光り出す。
「――ルーチェ。どうかわしの世界でも、助ける側の存在でいてくれ。優しい心根のままのお主で。それがわしの願いだ」
キラキラと一際輝いた次の瞬間にはルーチェの姿はなく、ブラフマが管理している新たな世界へ旅立って行った。
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