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コトウ
カナリヤは鳴く
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「ヤッホー、スワローいるー? いるよね~。リッパーだよ~。お見舞い~。生きてる~?」
がんがんと何度も扉を叩くリッパーに負けて、スワロウは痛む体を無理矢理起こし、扉をあけた。
「なんだよ」
「にゃ~はは、仲間思いの僕ちゃんがお見舞いにきたよ~」
リッパーが果物を詰め込んだ籠をあげて見せた。
「寝巻き姿も色っぽいね~。色男~」
戯言を吐いたとたん、リッパーは胸倉を掴まれて引っ張られた。
「俺は機嫌が悪い。今そういうこと、言うと、刻むぞ、コラ」
「誉めたのに~。あ、マジ? マジじゃん。殺気が……」
さすがに本気を察してリッパーの顔色が変わった。
「ああ、気にさわった? ごめんして。具合悪いんでしょ? 大人しくしてないと悪くなるよ、ボスがさ──」
「ボスがどうしたって?」
「スワローが、当分休みだってゆうからぁ、看病にきたんだよ~。一人モンしょ」
スワロウは鼻を鳴らして、リッパーを開放した。
「うちの幹部はみんな独り者だろうが」
踵を返して──痛みが走った。
スワロウは思わず顔をしかめた。
歩くだけでも、痛みが走る。正直動きたくないのだ。
「……どっか怪我した? 怪我から熱でてるんじゃねーの? 昨日はそんなそぶりなかったけど」
まさにそのとおりだった。
傷から発熱し、体がだるい。痛みと熱でベッドの上で朦朧としていたのだ。
傷の箇所は──とても言えない。
目ざとくサイドテーブルの上におかれた小瓶をリッパーが見つけて手に取った。
「ありり、鎮痛剤? スワローが薬使うなんて、珍しいじゃん」
スワロウはリッパーの手から小瓶をひったくった。
「な・ん・の、用だ? さっさと言え」
リッパーは肩をすくめた。
「僕ちゃんの小鳥から、連絡。二番目がヒルト鉱石を動かしてる。行き先不明」
おちゃらけているように見えても、リッパーも幹部の一人だ。独自の連絡網を持っている。
奇妙なものだった。
クロスを憎んでもいいはずだった。それこそ、殺してやりたいほど怨んでもいいはずだ。
意思に反して力づくで陵辱され、傷つけられた。今も傷つけられたところは痛む。
なのに、気がつけばクロスの身を案じている。
「……兵隊も動かしている。行き先は不明だ」
「戦争でもする気かね?」
「多分な、腕利きばかりのところと喧嘩するつもりかも知れん」
疑問の形をとっているが、既に予想はついている。そんな口ぶりだった。
「座っていい? スワローも座ったら」
「……横にならせてもらうぞ」
「あ、どそ。無理しないほうがいいから~」
スワロウはベッドに横になった。
サイドテーブルに籠をのせ、りんごをひとつ手に取ったリッパーは椅子を返して、背もたれを跨ぐように座り、あごを背もたれに乗せる。
「お前はどちらにつく?」
「な・ん・の話かな~。聞くまでもないっしょ。僕ちゃんとボスは一蓮托生~。スワローは?」
見舞いと称して持ってきたはずのりんごをリッパーが齧った。
「……選ぶ余地があると思うか?」
スワロウはクロスの部下だ。ギルバートにとっては片付けるべき相手の付属物にすぎないだろう。
「けどさ、こっちの人間を取り込もうとするかもよ~」
裏切りを唆されるかもしれないということだ。リッパーはそれを確認に来たのだろう。
そしてそれは、スワロウに限らない。
「俺があの人に勝てると思うか?」
「全然」
首までぶんぶん横に振っての答えだった。
「の野朗……そういうことだ」
「マリオとヴィオは真っ先に除外~、あいつらボスに死ねっていわれりゃ死ぬっしょ?」
「だな……」
「アランとダグは金を積まれりゃ危ないけど、あれらじゃボスはやれないし~」
歌うようにいうリッパーの眼は笑っていない。実際にはアランもダグラスもクロスに傾倒している。
また、クロスをどうにかできるかといえば、まったく相手にならない。
「一番ありえそうな俺に、釘を刺しにきたってのか? 切り裂き魔」
ベッドの下に隠していた剣に触れながら、スワロウは聞いた。万全の体なら、この体勢からでもリッパーを斬る自信はある。
しかし、今この体では、万が一ということもある。
「ちゃうちゃう、生き残る算段。降りかかる火の粉は払うけどさぁ、勝っちゃっていいわけ? 相手は五代目の息子だよ? 勝ったはいいけど、本家に報復されたら目もあてられねぇ」
「……その前に、勝てると思うか?」
クスクスとリッパーが笑う。
「それ、本気で言ってんの?」
スワロウは答えず、口元に不敵な笑みを浮かべた。
「笑えないねぇ。黙ってりゃ、ボスのおまけで一網打尽。勝てば勝ったで、こっちが悪者だぁ」
後ろ向きのままリッパーがりんごの芯をくずかごに放り込んだ。
「誰だろうと、かまわねぇ。噛み付く野朗は刻む。後の事は、後のことだ」
「僕ちゃん達が出来ることって、限られてるじゃん。スワローの方から、ボスに警告しといてくんない?」
スワロウは盛大に顔をしかめた。
「スワロー?」
「ボスはとっくにご存知だとさ」
「へぇー」
リッパーがじろじろとスワロウを見た。
「なんだよ」
ニィとリッパーが笑う。
「なんでもないよ♡ じゃあ、僕ちゃんそろそろ行くね~」
リッパーが腰を上げた。
スワロウはベッドの中でそれを見送った。扉を閉じれば自動的に鍵がかかる。もう一寝入りするつもりだった。
とにかく起きているのがつらい。
部屋から出て行くとき、首だけをのぞかせてリッパーが一言言う。
「もしかして、初めてだった?」
「何の話だ!」
スワロウは枕を投げつけたが、一瞬早く、リッパーは扉の向こうに引っ込んだ。
(き、気づいてやがるのか?)
本気でリッパーの口を塞ぐことを考えるスワロウだった。
がんがんと何度も扉を叩くリッパーに負けて、スワロウは痛む体を無理矢理起こし、扉をあけた。
「なんだよ」
「にゃ~はは、仲間思いの僕ちゃんがお見舞いにきたよ~」
リッパーが果物を詰め込んだ籠をあげて見せた。
「寝巻き姿も色っぽいね~。色男~」
戯言を吐いたとたん、リッパーは胸倉を掴まれて引っ張られた。
「俺は機嫌が悪い。今そういうこと、言うと、刻むぞ、コラ」
「誉めたのに~。あ、マジ? マジじゃん。殺気が……」
さすがに本気を察してリッパーの顔色が変わった。
「ああ、気にさわった? ごめんして。具合悪いんでしょ? 大人しくしてないと悪くなるよ、ボスがさ──」
「ボスがどうしたって?」
「スワローが、当分休みだってゆうからぁ、看病にきたんだよ~。一人モンしょ」
スワロウは鼻を鳴らして、リッパーを開放した。
「うちの幹部はみんな独り者だろうが」
踵を返して──痛みが走った。
スワロウは思わず顔をしかめた。
歩くだけでも、痛みが走る。正直動きたくないのだ。
「……どっか怪我した? 怪我から熱でてるんじゃねーの? 昨日はそんなそぶりなかったけど」
まさにそのとおりだった。
傷から発熱し、体がだるい。痛みと熱でベッドの上で朦朧としていたのだ。
傷の箇所は──とても言えない。
目ざとくサイドテーブルの上におかれた小瓶をリッパーが見つけて手に取った。
「ありり、鎮痛剤? スワローが薬使うなんて、珍しいじゃん」
スワロウはリッパーの手から小瓶をひったくった。
「な・ん・の、用だ? さっさと言え」
リッパーは肩をすくめた。
「僕ちゃんの小鳥から、連絡。二番目がヒルト鉱石を動かしてる。行き先不明」
おちゃらけているように見えても、リッパーも幹部の一人だ。独自の連絡網を持っている。
奇妙なものだった。
クロスを憎んでもいいはずだった。それこそ、殺してやりたいほど怨んでもいいはずだ。
意思に反して力づくで陵辱され、傷つけられた。今も傷つけられたところは痛む。
なのに、気がつけばクロスの身を案じている。
「……兵隊も動かしている。行き先は不明だ」
「戦争でもする気かね?」
「多分な、腕利きばかりのところと喧嘩するつもりかも知れん」
疑問の形をとっているが、既に予想はついている。そんな口ぶりだった。
「座っていい? スワローも座ったら」
「……横にならせてもらうぞ」
「あ、どそ。無理しないほうがいいから~」
スワロウはベッドに横になった。
サイドテーブルに籠をのせ、りんごをひとつ手に取ったリッパーは椅子を返して、背もたれを跨ぐように座り、あごを背もたれに乗せる。
「お前はどちらにつく?」
「な・ん・の話かな~。聞くまでもないっしょ。僕ちゃんとボスは一蓮托生~。スワローは?」
見舞いと称して持ってきたはずのりんごをリッパーが齧った。
「……選ぶ余地があると思うか?」
スワロウはクロスの部下だ。ギルバートにとっては片付けるべき相手の付属物にすぎないだろう。
「けどさ、こっちの人間を取り込もうとするかもよ~」
裏切りを唆されるかもしれないということだ。リッパーはそれを確認に来たのだろう。
そしてそれは、スワロウに限らない。
「俺があの人に勝てると思うか?」
「全然」
首までぶんぶん横に振っての答えだった。
「の野朗……そういうことだ」
「マリオとヴィオは真っ先に除外~、あいつらボスに死ねっていわれりゃ死ぬっしょ?」
「だな……」
「アランとダグは金を積まれりゃ危ないけど、あれらじゃボスはやれないし~」
歌うようにいうリッパーの眼は笑っていない。実際にはアランもダグラスもクロスに傾倒している。
また、クロスをどうにかできるかといえば、まったく相手にならない。
「一番ありえそうな俺に、釘を刺しにきたってのか? 切り裂き魔」
ベッドの下に隠していた剣に触れながら、スワロウは聞いた。万全の体なら、この体勢からでもリッパーを斬る自信はある。
しかし、今この体では、万が一ということもある。
「ちゃうちゃう、生き残る算段。降りかかる火の粉は払うけどさぁ、勝っちゃっていいわけ? 相手は五代目の息子だよ? 勝ったはいいけど、本家に報復されたら目もあてられねぇ」
「……その前に、勝てると思うか?」
クスクスとリッパーが笑う。
「それ、本気で言ってんの?」
スワロウは答えず、口元に不敵な笑みを浮かべた。
「笑えないねぇ。黙ってりゃ、ボスのおまけで一網打尽。勝てば勝ったで、こっちが悪者だぁ」
後ろ向きのままリッパーがりんごの芯をくずかごに放り込んだ。
「誰だろうと、かまわねぇ。噛み付く野朗は刻む。後の事は、後のことだ」
「僕ちゃん達が出来ることって、限られてるじゃん。スワローの方から、ボスに警告しといてくんない?」
スワロウは盛大に顔をしかめた。
「スワロー?」
「ボスはとっくにご存知だとさ」
「へぇー」
リッパーがじろじろとスワロウを見た。
「なんだよ」
ニィとリッパーが笑う。
「なんでもないよ♡ じゃあ、僕ちゃんそろそろ行くね~」
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スワロウはベッドの中でそれを見送った。扉を閉じれば自動的に鍵がかかる。もう一寝入りするつもりだった。
とにかく起きているのがつらい。
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「もしかして、初めてだった?」
「何の話だ!」
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