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シェードカオン
憤怒
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スワロウはホテルに着くまで一言も話さなかった。
しかし、付き合いの長い者には、抑えても抑えきれない怒りの波動を放ちまくっているのがよく分かった。
部屋についたとたん、スワロウの拳がクロスの顔面を襲ったが、クロスはこれを予測していたように首を最小限に動かして避けた。一度はふりぬいた拳が、肘うちに変化して側面を狙うが──それも沈み込んでクロスは避けそのまま後ろにとんだ。それまでクロスの体のあった場所を、スワロウの脚撃が通り抜けた。スワロウの三連打を全てかわせたのはクロスだったからだ。
いったん距離をとったクロスは体勢を整え、スワロウもまた、新たに拳を繰り出した。クロスはそれを掴みとめる。片手を掴みとめられたスワロウはそれでも自由な方の拳で腹部を狙ったが、それさえも掴みとめられた。
力比べのような形になった。
スワロウは決して非力ではない。片手で剣を自由自在に振り回すのだ。腕力がなくては出来ないが、クロスがわずかに上回っている。それでも不意打ちならともかく、身構えられていれば、簡単に制することはできない。
本気ではない(殺すつもりがないのなら本気のうちに入らない)が、暴れられると始末に困る。クロスのほうにスワロウを傷つけるつもりがないのでなおさらだ。
「この……」
激怒しているスワロウは、眦を吊り上げクロスを睨みつける。
「……話を、聞いてくれるか?」
怒らせると分かっていて行動したクロスは下手に出た。
「聞いてやるとも! どういうつもりだ!」
スワロウの膝がクロスの腹を直撃した。
「~~~~」
予測して腹筋に力を入れていたとはいえ、かなりきいた。
とりあえず一撃いれて、気が少しは収まったのか、スワロウが放れた。
「気がすんだか?」
「すむわけねえだろうが!」
「仕方ない。こっちはこっちで必要だった」
「なにがだよ!」
「俺が女はいらないということを証明するためだ」
「あ?」
スワロウが訝しげな顔をした。
「あんた、女もいけるだろうが」
クロスの〝男〟はスワロウ限定だ。むしろ、抱くだけなら女の方ができる。それはスワロウも了承している。
「まあな。問題は三番目だ」
スワロウが視線だけで先を促す。
「ギルバートの後釜に俺をすえようとしていやがる」
スワロウが顔をしかめた。
「二番目の後は未亡人が継ぐんだろう?」
「そうだ。そして、次に配偶者となる者が実質の後釜だな」
「……そういうことかよ」
新たなエリシアの夫はマドゥの姓を持つ者と同じ待遇になる。変な相手が寄ってくる前に、本来その姓を名乗る資格を持つクロスをあてがう──
「嫌な考え方だぜ」
「だが、俺にはそういうつもりはない。あっちも、男色家に義姉を嫁がせるつもりはないだろう」
スワロウが視線をそらした。
分かってはいても、はっきりと言われるのは嫌だった。
スワロウは別に男好きというわけではない。スワロウの〝男〟もクロス限定だ。クロスとのことは自分の中では認めるしかないが、公表できるほど突き抜けていない。
『サザンクロス』内部では、クロスが認めてしまったために広まっているが、それ以上に広められるのは、非常に嫌だった。
「一度断っても、保留にされたからな。諦めてもらうにはよほどの理由がいるだろう」
それはスワロウにも分かる。
情婦がいる程度なら、結婚しておいてそちらは愛人として囲うよう強制されかねない。だが、それが男なら──結婚相手のほうが嫌がるだろう。
破談にするには充分すぎる理由だ。
だからといって許せるものではないが。
「あれで信じてもらえないなら、目の前でヤッて見せるぐらいしないとだめかとも思ったが──」
「馬鹿野朗! 冗談じゃねえぞ!」
スワロウが顔を真っ赤にして怒鳴った。
「諦めてくれて、幸いだ。俺も、見せて悦ぶ趣味はねえ」
クロスは喉の奥で笑った。
からかわれたと悟ったスワロウは無言で踵をかえし、扉に向かった。
「待てよ、どこへ行く」
「今日から、別の部屋で寝る。カモフラージュ用に無人にした部屋があるだろうが!」
「おい……」
スワロウの副官を長年務めているのはソニックという男だ。スワロウより四つ年上だが、年下の上司をよく理解し、そつなく仕事をこなしている。
スワロウは『サザンクロス』最速のスピードと旋回力を誇る。それだけに、それについていけない隊をまとめることが間々ある。
かつてリッパーの副官を務めていたサムとよく似た立場だ。
いわゆる強面で、外見はスワロウより遥かにコネクションの人間らしい。
直接の上司とボスの関係を知ったときは、内心かなり動揺した。
二人がそういう趣味を持っていないことを知っていたからだ。
しかし、退院した後の二人の様子を見ていれば、関係は明らかだった。
とにかく、クロスは隠さなかった。それどころか、あからさまな態度をよくとる。それに彼のボスは度々激怒している。
その日もそうだった。
彼の二人の上司はスワロウを先頭に彼の部屋に飛び込んできた。
「部屋を替われ」
「は?」
「今夜から、おまえがボスのとなりの部屋に入れ」
クロスがスワロウを抱きとめた。
「すまんな、今のことは忘れろ」
スワロウがクロスの腕の中で暴れた。
「放せ! この野朗!」
「嫌だ。絶対に放さん」
「……」
ボスがスワロウを怒らせたらしい。一度部屋に呼ばれてからずっと怒っていたが、なにがあったのだろうか──考えると怖いことになりそうだった。
「なにかありましたか?」
「他愛のない痴話喧嘩だ。気にするな」
「なにが、痴話喧嘩だ! 放せこの野朗!」
クロスがスワロウを抱えたまま部屋を出て行った。スワロウが抵抗して壁を掴んだが、無理矢理引き剥がされる。
「嫌だ。絶対に放さん」
扉が外から閉められたので、その後の顛末をソニックは知らない。
ホテルの設備は優秀なので、一部屋の騒音は外へは漏れなかった。
葬儀は翌日に迫っていた。
しかし、付き合いの長い者には、抑えても抑えきれない怒りの波動を放ちまくっているのがよく分かった。
部屋についたとたん、スワロウの拳がクロスの顔面を襲ったが、クロスはこれを予測していたように首を最小限に動かして避けた。一度はふりぬいた拳が、肘うちに変化して側面を狙うが──それも沈み込んでクロスは避けそのまま後ろにとんだ。それまでクロスの体のあった場所を、スワロウの脚撃が通り抜けた。スワロウの三連打を全てかわせたのはクロスだったからだ。
いったん距離をとったクロスは体勢を整え、スワロウもまた、新たに拳を繰り出した。クロスはそれを掴みとめる。片手を掴みとめられたスワロウはそれでも自由な方の拳で腹部を狙ったが、それさえも掴みとめられた。
力比べのような形になった。
スワロウは決して非力ではない。片手で剣を自由自在に振り回すのだ。腕力がなくては出来ないが、クロスがわずかに上回っている。それでも不意打ちならともかく、身構えられていれば、簡単に制することはできない。
本気ではない(殺すつもりがないのなら本気のうちに入らない)が、暴れられると始末に困る。クロスのほうにスワロウを傷つけるつもりがないのでなおさらだ。
「この……」
激怒しているスワロウは、眦を吊り上げクロスを睨みつける。
「……話を、聞いてくれるか?」
怒らせると分かっていて行動したクロスは下手に出た。
「聞いてやるとも! どういうつもりだ!」
スワロウの膝がクロスの腹を直撃した。
「~~~~」
予測して腹筋に力を入れていたとはいえ、かなりきいた。
とりあえず一撃いれて、気が少しは収まったのか、スワロウが放れた。
「気がすんだか?」
「すむわけねえだろうが!」
「仕方ない。こっちはこっちで必要だった」
「なにがだよ!」
「俺が女はいらないということを証明するためだ」
「あ?」
スワロウが訝しげな顔をした。
「あんた、女もいけるだろうが」
クロスの〝男〟はスワロウ限定だ。むしろ、抱くだけなら女の方ができる。それはスワロウも了承している。
「まあな。問題は三番目だ」
スワロウが視線だけで先を促す。
「ギルバートの後釜に俺をすえようとしていやがる」
スワロウが顔をしかめた。
「二番目の後は未亡人が継ぐんだろう?」
「そうだ。そして、次に配偶者となる者が実質の後釜だな」
「……そういうことかよ」
新たなエリシアの夫はマドゥの姓を持つ者と同じ待遇になる。変な相手が寄ってくる前に、本来その姓を名乗る資格を持つクロスをあてがう──
「嫌な考え方だぜ」
「だが、俺にはそういうつもりはない。あっちも、男色家に義姉を嫁がせるつもりはないだろう」
スワロウが視線をそらした。
分かってはいても、はっきりと言われるのは嫌だった。
スワロウは別に男好きというわけではない。スワロウの〝男〟もクロス限定だ。クロスとのことは自分の中では認めるしかないが、公表できるほど突き抜けていない。
『サザンクロス』内部では、クロスが認めてしまったために広まっているが、それ以上に広められるのは、非常に嫌だった。
「一度断っても、保留にされたからな。諦めてもらうにはよほどの理由がいるだろう」
それはスワロウにも分かる。
情婦がいる程度なら、結婚しておいてそちらは愛人として囲うよう強制されかねない。だが、それが男なら──結婚相手のほうが嫌がるだろう。
破談にするには充分すぎる理由だ。
だからといって許せるものではないが。
「あれで信じてもらえないなら、目の前でヤッて見せるぐらいしないとだめかとも思ったが──」
「馬鹿野朗! 冗談じゃねえぞ!」
スワロウが顔を真っ赤にして怒鳴った。
「諦めてくれて、幸いだ。俺も、見せて悦ぶ趣味はねえ」
クロスは喉の奥で笑った。
からかわれたと悟ったスワロウは無言で踵をかえし、扉に向かった。
「待てよ、どこへ行く」
「今日から、別の部屋で寝る。カモフラージュ用に無人にした部屋があるだろうが!」
「おい……」
スワロウの副官を長年務めているのはソニックという男だ。スワロウより四つ年上だが、年下の上司をよく理解し、そつなく仕事をこなしている。
スワロウは『サザンクロス』最速のスピードと旋回力を誇る。それだけに、それについていけない隊をまとめることが間々ある。
かつてリッパーの副官を務めていたサムとよく似た立場だ。
いわゆる強面で、外見はスワロウより遥かにコネクションの人間らしい。
直接の上司とボスの関係を知ったときは、内心かなり動揺した。
二人がそういう趣味を持っていないことを知っていたからだ。
しかし、退院した後の二人の様子を見ていれば、関係は明らかだった。
とにかく、クロスは隠さなかった。それどころか、あからさまな態度をよくとる。それに彼のボスは度々激怒している。
その日もそうだった。
彼の二人の上司はスワロウを先頭に彼の部屋に飛び込んできた。
「部屋を替われ」
「は?」
「今夜から、おまえがボスのとなりの部屋に入れ」
クロスがスワロウを抱きとめた。
「すまんな、今のことは忘れろ」
スワロウがクロスの腕の中で暴れた。
「放せ! この野朗!」
「嫌だ。絶対に放さん」
「……」
ボスがスワロウを怒らせたらしい。一度部屋に呼ばれてからずっと怒っていたが、なにがあったのだろうか──考えると怖いことになりそうだった。
「なにかありましたか?」
「他愛のない痴話喧嘩だ。気にするな」
「なにが、痴話喧嘩だ! 放せこの野朗!」
クロスがスワロウを抱えたまま部屋を出て行った。スワロウが抵抗して壁を掴んだが、無理矢理引き剥がされる。
「嫌だ。絶対に放さん」
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