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悲劇の始まり

一回戦の悲劇(ミナミver.) I

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 おとといの練習から自分の能力が着々と上がってきていることを最近自覚し始めた。自分の練習に付き合ってくれたからだろう。二人には感謝しなければ。あとちょっとで、自分の出番だ。相手は序列97位で決して高い序列とはいえないが、油断してかかれば、負ける可能性もゼロではない。とはいえ、まず負けることはないだろう。
 大会の実行委員役の教師が私に声をかけてくる。
 「次はミナミ、だな。早く準備しなさい。」
 「はい、了解です。」
 遂に私の大会が始まる。

 審判が大きな声で叫ぶ。

 「始めっ!」

 相手は私が序列11位のエリートクラスのメンバーであることが原因か、腰が引けている。このままなら気合だけで勝てそうだ。だが、私は【技】『炎纏』を発動させ、バルムンクが炎で包まれる。すると、今までの態度から一変して、相手は気を引き締めた顔でこちらを見る。
 「はあ!」
 まず私が動く。すると、相手もそれを迎撃しようと剣を構えた。剣がぶつかる。バルムンクがぶつかった剣を燃やそうと炎の勢いが強まる。徐々に相手の帝剣を溶かしていく。このままではまずい、と思ったのか、相手は一旦距離をとった。
 そして、突撃してきた。私は、そのとき突き出された剣の切っ先をバルムンクで跳ね上げ、バルムンクを上にあげたまま、その瞬間体を横にひねり、バルムンクを袈裟斬りのかたちで振った。
 すると、見事に相手の胸から腹の部分に傷を負わせ、試合は終了した。

 試合を見ていたアリアが近づいてくる。
 「ミナミ、良い試合だったわ。おめでとう。」
 「ありがとう、アリアちゃん。これもミナト君とコウ君、アリアちゃんのおかげだよ!」
 「私は大したことをしたつもりはないわ。感謝するなら、彼らにするのね。」
 「そんなことないよ、アリアちゃん。アリアちゃんも付き合ってくれたもん。試合最後まで見てくれてありがとう。アリアちゃんの試合絶対見に行くね!」
 「緊張するから、見に来られても派手なことはしないわよ。せいぜい勝つのが精一杯よ。」
 「それで十分だよ。頑張ってね!」
 アリアとの会話を終え、二回戦まで時間があることに気づいた。
 結構あとのほうだし、ちょっと休憩しようっと。あっ、でも私の前にミナト君の試合があるんだっけ。一人で休憩だけしているのもなんだし、見に行ってみよう。ついでに応援も。うまく行けば、話せて、二人きりになれるかも…
 いやいや、二人きりになったところで何にもない、何にもない。普通に応援しに行くだけ。
 
 そして、ミナトの大会の時刻が近づいてきた。
 どうせすごくかっこいい試合になるんだろうな。楽しみだな。
 大会観客者用の椅子に座って、始まるのを待つ。ボーッとしていると、いつの間にかフィールド上にミナトが立っている。相手は序列28位だったかな。ミナトが負けることはないと思うけど。一応声援を送る。
 「頑張ってー!!ミーナートくーん!」
 少しばかり声が大きすぎたのか、それとも立っているからか、回りからひかれているような感じがする。気のせいだと言い聞かせながら、もう一度席に着く。

 試合が始まった。ミナトはすぐに『全斬一閃』を使った。
 ええー!エリートクラス以外の人にその【技】?!それはちょっとやりすぎじゃない!?
 思った通りミナトの相手は刀傷だらけになる。
 あーあ、かわいそう。だけど、ミナト君かっこいー!あの【技】もかっこいー!全部かっこいー!!
 と、一人で興奮していると、相手も攻撃体勢に入る。ミナトの『全斬一閃』に頑張って抵抗している。だが、防戦一方で攻めることができないように見える。遂に相手の剣が膝丸に切られた。すでになす術なしと思われたが…

 すると、突然相手が咆哮した。ミナトに素手で突っ掛かっていったのだ。ミナトはその覚悟に応えたのか、何かをする構えになる。
 『静寂斬』
 確かにそう聞こえた。何だろう?まさか新しい【技】?!ミナト君、二つ目使えたの?!すっごーい!さすがとしか言えないよ。
 相手は倒れ、ミナトの勝利が宣言された。
 
 ミナトの試合が終わると、次は自分の二回戦だ。あっ…よく考えたら、ミナト君と話す時間なんてない…
 地味にショックを受けた私は二回戦の準備のために少しの間、イメージトレーニングをして、試合に臨んだ。

 二回戦目は何事もなく終了した。相手の序列は45位だったが、全然大したことはなかった。もしかしたら、一回戦の序列97位の子の方が強かったかもしれない。気のせいだと思うが。
 しばらくして、コウの試合があると聞いたが、行く気がでなかったので、家に帰ることにした。大会期間中は二回戦目が終われば、帰っていいのだ。というわけで、身支度を済ませて、さっさと学校を出ようと思ったが、突然の叫び声に私は反応せずにはいられなかった。

 
 
 
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