SS・短編 オメガバース

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プロポーズ

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※グロい描写あります



 ナイフが利き手に握られたまま彼が横たわっている。抱き上げ、彼の顔に耳を近づけると、まだ細い息使いが聞こえる。
 うなじの肉を削ぎ落としたのは、望まぬ番の解除のため。彼が自分で削いだ。

 今から十五分前のことになる。
 彼からのメッセージがスマホに届けられた。見れば、すぐに来て欲しいとの内容だ。どのみち後で向かう予定だから、承知した旨の返信をする。
 約束の時間より少し遅くなってしまったが、予定通り彼の自宅アパートに着くと、合鍵で扉を開ける。
 ベッドに横たわっている彼の様子は穏やかで、眠っているのだろうかと思った。
「来たよ」
 自分が到着したことを伝えるが、彼は横たわったまま目覚めない。頭から掛布を被ったまま微動だにしない彼に不審を抱き、掛布をはぐ。
「え?」
 我ながら素っ頓狂な声だと、どこか遠いところで思う。果物用だろう、握られたナイフには、血がこびりついている。ベッドのシーツに染み込んでいる、彼の体内から流れ出ている血の匂いが広がる。
 何が起きているのかわからないが、思わず抱き上げ、皮膚が抉られているうなじに手を当てる。
「何故……?」
 声が聞こえたのだろう、彼は薄らと瞼を開ける。
「……噛ん、で」
 噛んだら番になれるのだろうか。
 彼は、いつもの微笑みを浮かべている。
 彼の言うように、噛めば番になれるのだろうか。
 番になっても彼は――それでも彼の望みを叶えたい。
 目の前に見える、まだ生々しい血を舐めると、削がれた皮膚の横に噛みついた。
「っ、……あり、が、とう」
 消えていく声を聞きながら、番の証しを刻み込むために、もう一度うなじに噛みつく。ほぅ、と息の漏れる呼気が聞こえる。
 オメガの彼は、望まぬ相手と番になった。番関係は冷え切っていて、結局彼は番に捨てられる。彼には終わりのない発情の熱だけが残されていた。そんな彼と出会ったのは、今から半年前のこと。
 番の噛み跡が残されていても構わないと思う。番以外の相手と交われば、オメガは苦痛を伴うから、交われなくても抱き合うことが出来れば、それでよかった。
 運命だと思いプロポーズをした。結果がこれだ。
「……これでよかったのか」
「これ、が……よかっ、た」
 ありがとうと言い残し、彼は目を閉じた。ひゅうひゅうと聞こえていた彼の息使いは消え、静寂に包まれる。
 ナイフが握られている彼の手を取ると、自分の首に当てる。
 プロポーズ、したんだ。
 指にはめた彼の指輪が、月明かりに照らされ、輝くふたつの星になり消えた。

 END



氷月詩乃さん @hidushino に描いて頂きました。
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