自動販売機にて。

雷仙キリト

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「細木ってさ、いつもどこで飯食ってんの?」

 4時間目の授業が終わり、昼休みの時間が訪れた。弁当代を持って立ち上がった僕に菊池くんがそう尋ねてきた。

「購買で昼飯買ってんだろ? その後教室に帰ってこないよな」

 人がたくさんいる場所は苦手だった。より一層、自分の孤独を痛感させられるから。だから僕はいつも人気のない場所でご飯を食べていた。

「細木、俺と一緒に飯食わねぇ?」

 菊池くんのそんな鶴の一声により、僕はいつもの「穴場」へ菊池を招待した。階段を登る時、僕の背後で「まさか……」と菊池くんは言っていた。そして辿り着いた後も。

「……まさか、お前もここに来てたとはね」

 屋上前の階段に腰掛ける。ここは埃っぽいけど、屋上の扉から差し込む光がどこか暖かくて柔らかい。まるで、お爺ちゃんの書斎に潜り込んでこっそりと本を覗き込んでみた時のような、懐かしさとくすぐったさがここにはある。だから好きだった。

「菊池くんも来たことあるの?」
「まあ、何回か」
「良い場所だよね、ここ。何だか落ち着くんだ」

 僕の隣に菊池くんが腰掛ける。菊池くんは小さな黒いバッグのジッパーを開き、2段の弁当箱を取り出した。

「菊池くんって、いつもお弁当食べてるの?」

 僕の昼食事情を知っているようだから、てっきり同じく購買でパンを買っているのだと思っていた。だけど、違っていたみたいだ。菊池くんはさらっと、僕にとっては驚きの言葉を淡々と言ってのけた。

「前は購買行ってたけど、最近小遣いが少なくってさ。自分で作った方が安上がりなんだよ」

 僕は思わず袋に入ったままのパンを床に落とし、立ち上がっていた。

「え!? 菊池くんって料理できるの!?」
「何だよ。俺がメシ作ってたらおかしいか?」
「いや、そんなことは、全然……」

 勢いのまま立ち上がってしまったものの、特に何をするわけでもなく、僕はその場に座り直し、パンを拾った。

「いただきます」

 袋の端っこのギザギザに手をかけ、開けようとする。だけど、どんなに頑張っても袋は開かなかった。

「貸しな」

 隣から手が伸びてきて、パンを取っていく。菊池くんは人差し指と親指でしわくちゃになったビニールの端を掴み、いとも簡単に袋を開けてしまった。

「ほら」

 僕は、じっと菊池くんを見つめる。

「何だよ。そんなに見つめられたら、食べづらいんだけど」
「菊池くんって、何でもできるんだね」

 卵焼きを口元に寄せ、大きく口を開いたところで菊池くんはピタッと動きを止めた。

「運動もできるし、勉強もできる。料理も作れて、運だって良いんだ。菊池くんって、本当にすごいんだね」

 それに比べて僕は、何もできないんだ。
 自虐思考が首をもたげ、目頭を熱くさせる。鼻水が垂れそうになるのを啜って誤魔化すと、呆れたような表情で、菊池くんが箸を差し出してきた。

「食え」
「え、でもこれって、菊池くんの分じゃ」
「良いから食え」

 唇に、卵焼きを押し付けられる。観念して口を開くと、雪崩のように、卵の香りと感触が僕の鼻腔を支配する。箸が抜かれ、僕の口内に卵焼きが取り残された。咀嚼して、舌が拾う味に、脳がびっくりするのを感じる。

「……しょっぱい」

 噛む度に、ざりざりと音がした。あまり料理をしない僕でも、その正体は分かった。卵の殻だ。

 菊池くんが、ニヤッと笑う。

「不味いだろ?」

 不味い、というほどではなかったけど、咳き込みたくなるくらいにはしょっぱい。ペットボトルの水を飲み込み、舌に残る塩辛さを洗い流す。

「お前は俺を勘違いしてんだよ。俺は何でもできるわけじゃない。何でもできるフリをしてるだけだ。まあ、少なくともお前よりは器用だとは思うけどね」

 菊池くんはもうひとつの卵焼きを摘み、口に含んだ。さっきまでその箸の先が僕の唇にちょっとでも触れていたのだと思うと、無性に心臓が高鳴った。

 菊池くんが、顔を顰めて舌を出す。

「やっべ。ちょー不味い」

 やっぱり調味料を勘で入れない方が良いな。菊池くんはぶつぶつと呟きながら、口直しをするように、白米を食べた。
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