綺麗なものが嫌いな魔女の話

はむ

文字の大きさ
1 / 1

綺麗なものが嫌いな魔女の話

しおりを挟む

 魔女は、美しいものが嫌いだった。
 宝石、キラキラと輝く海、色鮮やかな動物。
 …そして、容姿の良い人間。

 魔女は人目に着く場所に行くのが苦手だった。
 魔女の家は森の中にある大木の上部をくり抜いて作られていた。たまに顔を出す薬草の店に行く際は、森の中を通り抜けて移動していた…。



 ある日の魔女は薬草の店から珍しい草を手に入れ、ご機嫌で帰路についた。いつもは森の中を枝葉をかき分けながら移動するが、この日は少し見通しの良い道を歩いていた。

 ふと、道の先の草むらに目を向けると、何かがモゾモゾと動いている。

 …人間の足だ。

 いつもの草だらけの道を歩いていたら見つけられなかった。靴の大きさからして子供だろう。人助けなんて魔女のすることでは無いが、魔女はその足を持ち上げ引きずり出した。

 …やはり。

 魔女は引きずり出した子供を見て目を輝かせた。ズボンと靴は黒ずんでボロボロになり、シャツは所々に穴が空いている。髪の毛は暫く洗っていないのか、いくつかのダマができている。

 …醜い子は好きよ。

 魔女はその子供を持ち上げ、パチンと指を鳴らした。するとどこからか、愛用のホウキが飛んできた。子供を担いだ魔女はホウキに乗り、家に連れ帰った。



 ーーーーーー



 …醜いものは好き。綺麗なものは嫌い。

 家の中はその者の心を表すとはよく言ったものだ。魔女の家にはあちこちに蜘蛛の巣があり、机やキッチンは埃まみれ。いつも使っている魔女のベッドだけは綺麗に整えられている。
 …カビやキノコは生えているが。

 魔女は、連れ帰った子供を風呂に入れた。
 醜いものは好きだけど、風呂には定期的に入らなければならない。薬草の店で働く娘に口酸っぱく言われたから仕方なく入ってやっている。

 風呂に入れた子供は抵抗すことなく無言でされるがままだった。体を洗い、髪を櫛で梳かし洗ってやる。髪の手入れは風呂に入ることの次に大事な事だ。これも薬草の店の娘に言われた。

 …なんてことだ。

 風呂から上がった子供の前髪を、目にかからないところまで切ってやった。それが間違いだった。

 子供の顔は酷く整っており、目を閉じていれば彫刻のように、目を開ければ人形のように見える。どちらも私の嫌いなものだ。

 酷く整った顔をこちらに向けた子供は、初めてその口を開いた。

「あの、まじょさま。助けて頂きありがとうございます。この恩は、一生をかけてお返しします」

 …おそろしい。

 その子供は、声まで美しい。目にも耳にも悪い子供を連れ帰ってきた私は酷く後悔した。

 …それから、10年の月日が経った。

「まじょさま。まだ僕の顔を見れないですか?僕はまじょさまと目を合わせて話したいです」

 子供はみるみるうちに成長し、魔女の身長より頭ひとつ高い。恐ろしいことに、子供は魔女の家を10年かけて、隅々まで綺麗に掃除した。魔女が長い年月をかけて醜い素敵な空間を作ったのに、その努力が水の泡になってしまった。

 それから子供は、魔女が家をこっそり汚す度に掃除をしてくる。イタチごっこだ。それから私の感性はおかしくなってしまった。

 …綺麗なものが、あまり嫌いで無くなってしまった。

 子供によって感性が変わった魔女は魔女は、宝石、キラキラと輝く海、色鮮やかな動物も悪くないと思えるようになってしまった。

 …そして、酷く容姿の良い子供も。





しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

蝋燭

悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。 それは、祝福の鐘だ。 今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。 カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。 彼女は勇者の恋人だった。 あの日、勇者が記憶を失うまでは……

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

処理中です...