ここは血塗れ乙女亭!

景丸義一

文字の大きさ
64 / 108
主菜 ただいま営業中!

第37話 売れ残りには福があったのか?

しおりを挟む
 ……なにをどう話すべきか。
 ……そうだな、順を追って話そうか。

 昨日の昼過ぎ、突発性局所的暴風雨のごとく現れたピリムなる仕立て屋の少女もどき(あとで聞いたが本当に子供じゃないらしい)は、夕飯どきまでシャルナたちと店の一角を占領して作戦会議に興じ続け、そろそろ客が増え始めるから場所を変えさせようとしたところへユギラが戻ってきて、ピリムの事情を詳しく教えてくれた。ついでに身元を請け負うとまでいったから、気に入ってるんだろうな。根無し草の冒険者じゃなんの保証にもならんが。
 で。
 すっかり商売色に染まっちまったシャルナはとりあえず自分のところで預かるとピリムを連れてゆき、一晩を経た今朝、改めておれのところへやってきて、こういった。
「このお店の裏の空き店舗、売ってください!」
 それは元ホフトーズ傘下の商会が所有していた物件で、おれが奪い取ったあとそれなりに信頼性と影響力のある商会が入ってくれないものかとキープしていた、日当たりの悪い三階建て。今ユギラのペットを置いてる庭もこの建物の敷地だ。
「本気か?」
 そう訊いたのは、ピリムのための店を自分が用意したい、という前置きがあったからだ。
「もちろん本気ですよ。やりかたさえ間違わなければあの子の服は絶対売れます! そのための投資としてはむしろ安いぐらいかもしれません」
「マジか……」
 おれにはあの破廉恥な衣装の数々が一般的に受けて一般的に流通するとは到底思えないんだが……
 誰が着るんだよ、あんな奇抜な服。
 そりゃあ、クレアとイクティノーラは着る気満々だが、あれはおれを目当てに張り合ってるだけだしなあ……
「しかし、そこまで利益を期待してるんならなんで専属にすることをやめたんだ? そのほうがゾフォールは儲かるだろうに」
「それがそうでもないんですよねえ」
「どういうことだ?」
「五年ほど前に実際に起こったことなんですけど、ある商会がある超人気職人を抱え込んだところ、ライバルたちがいろいろ工作して不買運動を起こしちゃって……」
 それ、ゾフォールはどっちの立場だったんだろうな。
「それ以来、アンセラのアルバラステやシュデッタのブルージュなんかの大都市だと、ああいう才能ある職人は独占契約せず、自由に商売させようっていうのが主流になってるんですよ。ただ、そういう職人ってだいたい経営は下手だから大手が顧問として人員を送り込むんですけどね」
「なるほどな」
「それにホラ、ウチがきてから他の商会とちょっとあったし、ここで抱え込みなんてしようもんなら今度はウチが痛い目に遭いかねないし……」
 なるほど、ゾフォールは不買をそそのかした側だったか。
「そういうことなら構わないが、ひとつ条件がある」
「なんですか?」
「建物はいいが、土地の権利書はしばらく売らない。もし商売に失敗して両方とも手放さざるを得なくなったとき、怪しげな相手に売られたらうちが困るからな」
「疑り深いなあ~」
「ゾフォールについては心配してないが、おれはファッションのことはさっぱりわからないんだ。これくらいの防火策は打たせてくれ」
 というわけで、この数ヶ月入居者がないまま放置されいっそ市長のいうように従業員寮に作り変えるしかないかと持て余していた裏の店舗が、あっさり売れた。
 そんでもってその手続きやらなんやかんやでおれの午前は終了し、午後にはピリムとその他数名を連れて裏の店舗に向かったわけだ。


「なんだ、中は案外ちゃんとしてるじゃないか」
 とは、ユギラの感想。
 なんでこいつがいるのかというと、さすがに子供と見まごうピリムを一人でこの広い店舗兼住宅に置いておくのは危ないということで、護衛代わりに一緒に住むことにしたようだ。冒険者が拠点にするには贅沢すぎるってもんだぜ。
「おぉう、おおおぉぉうぅ……!」
 当のピリムは感動のあまり小さな体を震わせながら嗚咽を漏らしている。
「さあ、ピリムちゃん! ココがキミの工房だよ! とりあえず初期資金と必要な道具や素材はウチで用意したげるから、じゃんじゃん作っちゃってね!」
 ドーンと胸を張るシャルナに、ピリムは不安いっぱいの顔を向けた。
「そんなこといって、あとで十倍にして返せとかいわない……?」
「そんなあくどいやりかたはゾフォールの誇りに反するのでやりません!」
「好きに作れとかいって持ち上げといて、出来上がったのを目の前で破いたり焼いたりしない……?」
「そんな心配するほうがどうかしてるよ!?」
 されたんだな……
「ホントのホントに、ココ、あたしのお店……?」
「そうだよ! 経営に関しては私が顧問をやるし、人員も集めてあげるし、ユギラさんがいるから強盗も怖くない! 正真正銘安心安全な、キミのお店だよ!」
 シャルナの頼もしい言葉を受けて、ピリムは滝のような涙を流しながら俯いた。
 大泣きするのかな、と思ったら……
「うおおおおおおおっ!!! ヤルぞおおおおおおっ!!! あたしをバカにしてきたやつらを根こそぎギャフンといわせちゃるうううううっ!!!」
 涙の飛沫を撒き散らしながら、野望の炎を猛らせた。うるせえ。
「さーあ! そうと決まったら早速準備するよ! まずはこの紙に必要な物を書いてね! 他の人はお掃除! ハイ、行った行った!」
 ようするにおれたちはそのために連れてこられたわけだ。
 うちの従業員数名とゾフォールの従業員数名……後者はきっとここで働かせるんだろうな。

 ……おれ、必要か?
 最初はジローとかいうフェンリルの小屋を作るためにユギラからどういう作りがいいのか聞くだけのつもりだったんだが、あいつもこっちに移ることになったってんで小屋の製作費もシャルナがついでに出すってことで落着しちまったんだよなあ。
「あ、店長はこっち」
 こっそり帰っちまおうかと思ってたら、シャルナから部屋の隅に呼ばれた。
「店長にきてもらったのは他でもありません。大事な任務をこなしてもらうためです」
「掃除要員じゃなかったのか」
「ハイ、これ」
 と手渡されたのは、昨日見たばかりのピリムのデザイン画の束。
「クレアさんとイクティノーラさんに着てほしい服を選んでください」
 おれの機嫌は一気に地下まで下落した。
「おまえ、いくら握らされた」
「やだな~! ワイロなんてもらってませんって!」
 そのニヤけ面を誰が信用するものか。
「私としてはこのボディスを改良したような胸部用の下着がオススメですよ~。胸を固定する衣服を外じゃなく中に着けてしまおうという逆転の発想がスバラしい! それにホラ、お二人ともおっぱいボインボインだからこういうの着けたほうが服の上からのラインが綺麗に見えるし! ね!?」
「ね!? じゃねえよっ!」
 こうしておれは、夜まであいつらの服選びをさせられた挙句、その後もシャルナとピリムに挟まれなぜかファッションについてたっぷり教育を受けるのだった……

 おれ、服屋じゃなくて料理屋なんだけどなあ……
 おれの貴重な時間を返せ……!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆ 毎日朝7時更新! 「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」 過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。 絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!? 伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!? 追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。

腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。 魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。 多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。

【完結】異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり
ファンタジー
望んで異世界へと来たわけではない。 望んで召喚などしたわけでもない。 ただ、落ちただけ。 異世界から落ちて来た落ち人。 それは人知を超えた神力を体内に宿し、神からの「贈り人」とされる。 望まれていないけれど、偶々手に入る力を国は欲する。 だからこそ、より強い力を持つ者に聖女という称号を渡すわけだけれど…… 中に男が混じっている!? 帰りたいと、それだけを望む者も居る。 護衛騎士という名の監視もつけられて……  でも、私はもう大切な人は作らない。  どうせ、無くしてしまうのだから。 異世界に落ちた五人。 五人が五人共、色々な思わくもあり…… だけれど、私はただ流れに流され…… ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

処理中です...