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前菜 開店準備に大車輪!
第23話 毒を食らわば口に苦し
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その日のおれは、朝からギルド員たちとともに二階の仮事務所で書類仕事をやっつけていた。
昨日の日中はクレアと食べ歩き、夜にはクレアがサロの作ったクレープにドハマりしてしまったせいでおれも死ぬほど食わされかなり胃もたれ気味だが、昨日は一切手をつけられなかったため剣の素振りでもして腹ごなししたいのを我慢しながら書類との格闘に没頭している。
しかし朝食を抜くのはよくないな、パンとスープだけでも入れておくんだった。昼食にはチーズをまぶしたサラダとベーコンでワインをグイっといきたいもんだ。
そんなことを考え始める時間に、来客があった。
「失礼します」
入ってきたのはリエル。
もちろんこいつは客じゃない。各勢力とのパイプ役をやってもらってるから、こいつが自分で客を連れてきたってことは、うしろにいるその人物が重要だと判断したってことだろう。
その客は、かなり深いスリットの入った黒いドレスと紫のショールをまとう、亜麻色の髪の美女だった。
ついにきたか、この勢力が。
色彩的にも布面積的にも、そして容姿的にもこれほど目立つ女は、この町には一種類しかいない。
そう、娼婦だ。
「お初にお目にかかります、ルシエド卿。私は娼館・夜蝶風月を営んでおります、イクティノーラ・ハノンと申します」
スカートを軽くつまんで小さく腰を引く仕種が堂に入っている。年齢はおれより上だろうが、年齢と年季が比例していないんじゃないかというほど瑞々しい色気が部屋を支配した。
こいつは一種の毒物だな。
リエルなんかあからさまに表情が硬いし、ドミたち事務員も一発であてられちまったようだ。
「場所を変えようか」
そうしないと庶民のおっさんどもは仕事にならない。
おれはリエルを下がらせ、イクティノーラを連れて五階のサロンへ向かった。
大きな町にはだいたい娼婦のギルドもある。娼婦に対する考え方が国や地域によって違うから名称は様々だが、少なくともシュデッタには娼婦を軽侮するような文化はなく、トヴァイアスの領都ではまんま娼婦ギルドという名前で存在しているそうだ。
ただ、このバリザードには存在していない。
これほどの町で商工会なんて裏社会の勢力が仕切っていたんだからあって当然と思うかもしれないが、どうも娼婦という職業そのものを商工会が独占していたらしいんだな、これが。
つまり娼婦ギルドはないが商工会が職業自体を支配し、その実質的な管理を任されていたのがイクティノーラの娼館、夜蝶風月というわけだ。
娼館自体は他にもあるし街娼もいるが、それらすべてを一括管理しているわけだから夜蝶風月こそが娼婦ギルドで、その経営者であるイクティノーラがギルド長と考えて間違いない。
その構図はとっくに承知していた。いたんだが、おれは放置し続けた。リエルにも向こうから接触してこない限りこっちからは一切関わるなといっておいた。
理由は市長を無視していたのと同じだ。しかしこっちはあっちと違って明らかに商工会勢力であり、主な客が商工会のごろつきやら外部勢力の有力者やらと、かなり物騒な連中ばかりときたら、慎重にならざるを得ないだろう。
下手につついて外部勢力を呼び込んだりこっちの情報が漏れたりするのは困るしな。
とはいえ、町を出られても困る。この町の娼婦はすべて夜蝶風月の管理下にあるから、夜蝶風月が町を去る、もしくは廃業するとなると、この町から娼婦がいなくなってしまう。そうなると失業者対策やら男どもへの娯楽提供やらでただでさえ忙しいおれの手がさらに忙しくなってしまうので、放置だったわけだ。
本当は監視でもつけて適度に力を削いでおきたかったんだが、そこまでおれの手元に人材がないからな、仕方ない。
で、残る唯一となった商工会勢力がついに向こうからやってきたってわけだ。
さてさて、なにを言い出すのかね。
あいにくおれに色仕掛けは通用しないぜ?
そんなもんとっくの昔に慣れちまったからな!
いやいや、決して遊び呆けてたわけじゃないぞ?
たま~にゼルーグなんかを連れてイキヌキいやいや息抜きに行ってただけだ。うん。
というわけで、おれはサロンのソファーにイクティノーラを座らせ、気分転換も兼ねて紅茶を淹れた。この建物、各階に簡易的だが厨房がついてるんで便利なんだよな。
「わざわざルシエド卿自ら、恐縮です」
笑いぼくろのある口元が小さく三日月形に吊り上がり、一口すすった。
ためらいなく飲んだということは、少なくとも警戒するつもりはないということかな。
「それで、どういった用件かな?」
おれも対面に座ってまずは香りを楽しむ。
「最初に申し上げておきますが、われわれは商工会の内部組織ではあっても手先というわけではありません」
「ほう?」
「この町の娼婦、特に夜蝶風月に勤める娼婦はほとんどが人身売買や誘拐によって連れてこられたか、勤める娼婦が産んだ子で構成されているのです」
おれは右の眉が不機嫌に身じろぎしたのを自覚した。
「そのような事情ゆえ、支配を受け入れるのはともかく手先となって積極的に悪事に加担する気になれないことは、ご理解いただけるかと思います」
「なるほど。つまりおれたちに敵対する理由もないということか」
「はい」
笑顔で即答した。
しかし、なんでかな。
おれの勘がいってるんだよな、そいつは本心じゃないって。
顔は笑っていても、青い目の奥が、心の奥底が、目の前のおれに対して拒絶反応を示しているような、そんな違和を感じる。
夜蝶風月はいわゆる高級娼館だ。そういうところに勤める高級娼婦ってのは礼儀作法やら読み書きに計算など、貴族レベルの教育を受けるから味方にできればかなり心強い。
ただし、敵に回せばある意味軍隊より厄介な連中でもある。
なにせ、色んな客の情報を握ってるからな。恥ずかしい性癖はもちろんのこと、「ここだけの話」として漏らした機密まで知っていることがあるから、娼婦たちが一丸となって情報を共有し、最も頭が切れるであろう経営者がそのネタを方々に売るなり吹聴するなりして情報操作に乗り出せば、たちまち大混乱となる。国内・国外問わずだ。
特にここは国境の町。三国の裏社会の人間が頻繁に出入りしていた町だ、どんな情報を握ってるかわかったもんじゃない。
だからおれとしても敵にしたくはないし、そもそももう政治やらなんやらああいう面倒なことに関わりたくもないから、お互い不干渉でいたいんだが……
「そこで、お願いがあります」
おれは本音を抑え込んで促した。
「こちらのお店で従業員を募集していると聞きました。いくらか、うちの者たちを雇っていただけないでしょうか?」
「なに?」
意外や意外!
まさか娼婦からウェイトレスへ鞍替えか?
「商工会が潰れ、外部との繋がりも絶たれたことで経営に懸念が出て参りました。あなたがたが商工会に替わるというのならさしたる問題ではなかったのですが、どうやらそのおつもりはないようですので、この機会に娼婦をやめ、真っ当に生きたいと願う者が出てきたのです」
なんだ、随分と健全なお話だな。おれの考えすぎか?
「しかし、それならうちでなくても働き口はいくらでもあるだろう。教養はたっぷりあるだろうし、自分で事業を起こせるやつもいるんじゃないのか?」
「ええ、そうしようと考えている者もいるようですが、やはり実力者のお膝元というのは心強いものです」
つまり、こういうことだな。
おれたちが商工会をブッ潰したせいで客がこなくなった。
そのせいで娼婦が食いっぱぐれる。
だから責任取って雇ってくれ……と。
うん、めちゃくちゃ道理に適ってる。
「そいつはなんともありがたい話だが、あんたはどうするんだ?」
「もう少し続けてみようかと。まだ面倒を見なければならない者も多いですし」
「これを機にというなら、全員親元に帰ればいいんじゃないか? それぐらいの支援ならしてやるぞ」
自分の利益を無視してガラにもなく完全なる厚意でそういったんだが……
どうもまずいところをつついてしまったらしいな。
彼女の奥底に潜んでいると思われたなにかが、さっきよりよほど強く眼光として現れた。
ほんの刹那で再び笑顔の奥に隠れてしまったが、間違いない。
こいつを味方だと思うのは危険だ。
この申し出も、単に仲間の救済だけじゃない。おれのもとに手下を送り込んで探る気でいると見たほうがいいだろう。
「もう帰れない者も多いので……」
イクティノーラは悲しげな顔でおれの提案を断った。
どうするか……
拒絶するのは簡単だ。それで敵対するぐらいならわざわざやってきたりはしないだろうしな。
ただ、おれたちのことを探られるのは、ちょっと困る。
随分遠くまできたとはいえ、絶対に原点まで辿り着かないとは限らない。裏社会の情報網を甘く見ていると必ず痛い目を見る。
かといっておれが手を下して潰すのは、あまりに酷だ。商工会のような悪党どもならいくらでも捻り潰せるが、やつらの犠牲者である彼女たちに同様の仕打ちをするなど、人のすることじゃない。
どうせ味方じゃないなら、こっちも近くで監視できるようにしておいたほうがいいか……
「いいだろう、雇おう」
「ありがとうございます。いずれも一流の教養を叩き込まれていますから、必ずお役に立つでしょう」
「ただし、条件がある」
「なんなりと」
「ギルドを作ってあんたがその長になれ」
「ギルド、ですか」
「そもそもないのが不自然だからな」
既にすべてのギルドが事実上おれの監視下にあるから、いずれ手放したとしてもこの繋がりは消えない。そこに夜蝶風月も放り込んでおけば、なにかあったとき他のギルド員たちに報せてもらうこともできるだろう。
「わかりました、そのように致します。それと、もうひとつよろしいでしょうか?」
「ああ、なんだ?」
「気が早いのは承知の上ですが、開業後はこちらの宿を利用させていただいでもよいでしょうか?」
「店内や店の近くで客引きをしないなら構わないぞ。ただできるだけ綺麗に使ってくれ」
「このお店で無茶をしようという者は娼婦にもお客にもいませんよ」
そういうことで、事務所に戻ってギルド開設の手続きを取り、この件は落着となった。
さあて、このイクティノーラという女、どう出るかね……?
狙いさえわかればいくらでも手は打てるんだがなあ。
昨日の日中はクレアと食べ歩き、夜にはクレアがサロの作ったクレープにドハマりしてしまったせいでおれも死ぬほど食わされかなり胃もたれ気味だが、昨日は一切手をつけられなかったため剣の素振りでもして腹ごなししたいのを我慢しながら書類との格闘に没頭している。
しかし朝食を抜くのはよくないな、パンとスープだけでも入れておくんだった。昼食にはチーズをまぶしたサラダとベーコンでワインをグイっといきたいもんだ。
そんなことを考え始める時間に、来客があった。
「失礼します」
入ってきたのはリエル。
もちろんこいつは客じゃない。各勢力とのパイプ役をやってもらってるから、こいつが自分で客を連れてきたってことは、うしろにいるその人物が重要だと判断したってことだろう。
その客は、かなり深いスリットの入った黒いドレスと紫のショールをまとう、亜麻色の髪の美女だった。
ついにきたか、この勢力が。
色彩的にも布面積的にも、そして容姿的にもこれほど目立つ女は、この町には一種類しかいない。
そう、娼婦だ。
「お初にお目にかかります、ルシエド卿。私は娼館・夜蝶風月を営んでおります、イクティノーラ・ハノンと申します」
スカートを軽くつまんで小さく腰を引く仕種が堂に入っている。年齢はおれより上だろうが、年齢と年季が比例していないんじゃないかというほど瑞々しい色気が部屋を支配した。
こいつは一種の毒物だな。
リエルなんかあからさまに表情が硬いし、ドミたち事務員も一発であてられちまったようだ。
「場所を変えようか」
そうしないと庶民のおっさんどもは仕事にならない。
おれはリエルを下がらせ、イクティノーラを連れて五階のサロンへ向かった。
大きな町にはだいたい娼婦のギルドもある。娼婦に対する考え方が国や地域によって違うから名称は様々だが、少なくともシュデッタには娼婦を軽侮するような文化はなく、トヴァイアスの領都ではまんま娼婦ギルドという名前で存在しているそうだ。
ただ、このバリザードには存在していない。
これほどの町で商工会なんて裏社会の勢力が仕切っていたんだからあって当然と思うかもしれないが、どうも娼婦という職業そのものを商工会が独占していたらしいんだな、これが。
つまり娼婦ギルドはないが商工会が職業自体を支配し、その実質的な管理を任されていたのがイクティノーラの娼館、夜蝶風月というわけだ。
娼館自体は他にもあるし街娼もいるが、それらすべてを一括管理しているわけだから夜蝶風月こそが娼婦ギルドで、その経営者であるイクティノーラがギルド長と考えて間違いない。
その構図はとっくに承知していた。いたんだが、おれは放置し続けた。リエルにも向こうから接触してこない限りこっちからは一切関わるなといっておいた。
理由は市長を無視していたのと同じだ。しかしこっちはあっちと違って明らかに商工会勢力であり、主な客が商工会のごろつきやら外部勢力の有力者やらと、かなり物騒な連中ばかりときたら、慎重にならざるを得ないだろう。
下手につついて外部勢力を呼び込んだりこっちの情報が漏れたりするのは困るしな。
とはいえ、町を出られても困る。この町の娼婦はすべて夜蝶風月の管理下にあるから、夜蝶風月が町を去る、もしくは廃業するとなると、この町から娼婦がいなくなってしまう。そうなると失業者対策やら男どもへの娯楽提供やらでただでさえ忙しいおれの手がさらに忙しくなってしまうので、放置だったわけだ。
本当は監視でもつけて適度に力を削いでおきたかったんだが、そこまでおれの手元に人材がないからな、仕方ない。
で、残る唯一となった商工会勢力がついに向こうからやってきたってわけだ。
さてさて、なにを言い出すのかね。
あいにくおれに色仕掛けは通用しないぜ?
そんなもんとっくの昔に慣れちまったからな!
いやいや、決して遊び呆けてたわけじゃないぞ?
たま~にゼルーグなんかを連れてイキヌキいやいや息抜きに行ってただけだ。うん。
というわけで、おれはサロンのソファーにイクティノーラを座らせ、気分転換も兼ねて紅茶を淹れた。この建物、各階に簡易的だが厨房がついてるんで便利なんだよな。
「わざわざルシエド卿自ら、恐縮です」
笑いぼくろのある口元が小さく三日月形に吊り上がり、一口すすった。
ためらいなく飲んだということは、少なくとも警戒するつもりはないということかな。
「それで、どういった用件かな?」
おれも対面に座ってまずは香りを楽しむ。
「最初に申し上げておきますが、われわれは商工会の内部組織ではあっても手先というわけではありません」
「ほう?」
「この町の娼婦、特に夜蝶風月に勤める娼婦はほとんどが人身売買や誘拐によって連れてこられたか、勤める娼婦が産んだ子で構成されているのです」
おれは右の眉が不機嫌に身じろぎしたのを自覚した。
「そのような事情ゆえ、支配を受け入れるのはともかく手先となって積極的に悪事に加担する気になれないことは、ご理解いただけるかと思います」
「なるほど。つまりおれたちに敵対する理由もないということか」
「はい」
笑顔で即答した。
しかし、なんでかな。
おれの勘がいってるんだよな、そいつは本心じゃないって。
顔は笑っていても、青い目の奥が、心の奥底が、目の前のおれに対して拒絶反応を示しているような、そんな違和を感じる。
夜蝶風月はいわゆる高級娼館だ。そういうところに勤める高級娼婦ってのは礼儀作法やら読み書きに計算など、貴族レベルの教育を受けるから味方にできればかなり心強い。
ただし、敵に回せばある意味軍隊より厄介な連中でもある。
なにせ、色んな客の情報を握ってるからな。恥ずかしい性癖はもちろんのこと、「ここだけの話」として漏らした機密まで知っていることがあるから、娼婦たちが一丸となって情報を共有し、最も頭が切れるであろう経営者がそのネタを方々に売るなり吹聴するなりして情報操作に乗り出せば、たちまち大混乱となる。国内・国外問わずだ。
特にここは国境の町。三国の裏社会の人間が頻繁に出入りしていた町だ、どんな情報を握ってるかわかったもんじゃない。
だからおれとしても敵にしたくはないし、そもそももう政治やらなんやらああいう面倒なことに関わりたくもないから、お互い不干渉でいたいんだが……
「そこで、お願いがあります」
おれは本音を抑え込んで促した。
「こちらのお店で従業員を募集していると聞きました。いくらか、うちの者たちを雇っていただけないでしょうか?」
「なに?」
意外や意外!
まさか娼婦からウェイトレスへ鞍替えか?
「商工会が潰れ、外部との繋がりも絶たれたことで経営に懸念が出て参りました。あなたがたが商工会に替わるというのならさしたる問題ではなかったのですが、どうやらそのおつもりはないようですので、この機会に娼婦をやめ、真っ当に生きたいと願う者が出てきたのです」
なんだ、随分と健全なお話だな。おれの考えすぎか?
「しかし、それならうちでなくても働き口はいくらでもあるだろう。教養はたっぷりあるだろうし、自分で事業を起こせるやつもいるんじゃないのか?」
「ええ、そうしようと考えている者もいるようですが、やはり実力者のお膝元というのは心強いものです」
つまり、こういうことだな。
おれたちが商工会をブッ潰したせいで客がこなくなった。
そのせいで娼婦が食いっぱぐれる。
だから責任取って雇ってくれ……と。
うん、めちゃくちゃ道理に適ってる。
「そいつはなんともありがたい話だが、あんたはどうするんだ?」
「もう少し続けてみようかと。まだ面倒を見なければならない者も多いですし」
「これを機にというなら、全員親元に帰ればいいんじゃないか? それぐらいの支援ならしてやるぞ」
自分の利益を無視してガラにもなく完全なる厚意でそういったんだが……
どうもまずいところをつついてしまったらしいな。
彼女の奥底に潜んでいると思われたなにかが、さっきよりよほど強く眼光として現れた。
ほんの刹那で再び笑顔の奥に隠れてしまったが、間違いない。
こいつを味方だと思うのは危険だ。
この申し出も、単に仲間の救済だけじゃない。おれのもとに手下を送り込んで探る気でいると見たほうがいいだろう。
「もう帰れない者も多いので……」
イクティノーラは悲しげな顔でおれの提案を断った。
どうするか……
拒絶するのは簡単だ。それで敵対するぐらいならわざわざやってきたりはしないだろうしな。
ただ、おれたちのことを探られるのは、ちょっと困る。
随分遠くまできたとはいえ、絶対に原点まで辿り着かないとは限らない。裏社会の情報網を甘く見ていると必ず痛い目を見る。
かといっておれが手を下して潰すのは、あまりに酷だ。商工会のような悪党どもならいくらでも捻り潰せるが、やつらの犠牲者である彼女たちに同様の仕打ちをするなど、人のすることじゃない。
どうせ味方じゃないなら、こっちも近くで監視できるようにしておいたほうがいいか……
「いいだろう、雇おう」
「ありがとうございます。いずれも一流の教養を叩き込まれていますから、必ずお役に立つでしょう」
「ただし、条件がある」
「なんなりと」
「ギルドを作ってあんたがその長になれ」
「ギルド、ですか」
「そもそもないのが不自然だからな」
既にすべてのギルドが事実上おれの監視下にあるから、いずれ手放したとしてもこの繋がりは消えない。そこに夜蝶風月も放り込んでおけば、なにかあったとき他のギルド員たちに報せてもらうこともできるだろう。
「わかりました、そのように致します。それと、もうひとつよろしいでしょうか?」
「ああ、なんだ?」
「気が早いのは承知の上ですが、開業後はこちらの宿を利用させていただいでもよいでしょうか?」
「店内や店の近くで客引きをしないなら構わないぞ。ただできるだけ綺麗に使ってくれ」
「このお店で無茶をしようという者は娼婦にもお客にもいませんよ」
そういうことで、事務所に戻ってギルド開設の手続きを取り、この件は落着となった。
さあて、このイクティノーラという女、どう出るかね……?
狙いさえわかればいくらでも手は打てるんだがなあ。
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