ここは血塗れ乙女亭!

景丸義一

文字の大きさ
25 / 108
前菜 開店準備に大車輪!

第25話 私は完全幸福サレンダー

しおりを挟む
 私はウィラ・グルナイ!
 獣人ガルワナ族の永遠の一八歳!
 そう、永遠になりました。
 これもすべてクレアさまのお陰です。
 無知で貧弱で矮小で下劣だった私はあの日、愚かにもご主人さまの暗殺に向かって失敗し、クレアさまによって永遠なる眷属ヴァンパイアにしていただきました。
 お陰でもー毎日がちょーハッピー! って感じ?
 えへえへ……
 仲間もできたし。
 仲間……
 初めての、おともだち……
 えへえへえへ……

 そうそう、お店の一員になるまでになにがあったかちょろっと話しとこうかな!
 クレアさまの眷属にしていただいた私は、翌日からたっぷり調教を受け、ご主人さまからとっても大事な任務を言い渡されたの。
「ラジェル商会の目ぼしい悪党どもをブッ殺してこい」
 よゆーのよっちゃんちょーお任せ! って感じ!
 あのクソ野郎どももとから大嫌いだし皆殺しにしても全然オッケーなんだけど、皆殺しはダメなんだって。なんか難しいこといってたけど私馬鹿だからよくわかんない。
 しかもご主人さま、すんごい注文が多くて覚えるのが大変だった……
 私、殺すしか能のない暗殺者だからあんまりいろいろいわれてもできるか不安なんだけど、でもでもご主人さまの命令は絶対で、クレアさまの命令より絶対だってクレアさまがいってたから、失敗しないように頑張って覚えたのだ!
 そんなわけでシェラン王国に戻って、サクッと頭取の首をかき切ってやりました。
 噴き出した血が死ぬほど美味しそうだったけど、あんなクズ野郎の血なんて死んだって飲みたくないから死ぬほど我慢して立ち去って、どんどん殺していった。
 だけどすぐに噂が広まって、殺せば殺すほど難しくなっていったよ……
 同業者とか私と同じように商会に買われて暗殺者になったやつとかも出てきたし、何度か普通だったら死んでたような傷ももらっちゃった。
 でもへーき!
 だって私、ヴァンパイアになったから!
 もーいつでもビンッビンのギンッギン!
 いやー便利だねーヴァンパイアって。
 血さえ飲んでれば生きてられるし、私もとから夜型だし、傷はすぐ治るし、クレアさまさまさま!
 まっ、顔馴染みのやつにはさすがに驚かれたけどねー。同期で訓練受けた子とか私を妹みたいに可愛がってくれてたお姉さまとかが護衛についてたりもしてちょっとやりにくかったけど、まっ、こんな商売だし?
 敵なら殺《ヤ》っちゃうしかないよねー!
 お姉さまの血、たいへんおいしゅうございました。

 そんなこんなで一週間ほど殺しに殺し回って、ラジェル商会は滅亡しましたとさ!
 残念!
 まー報いだよね、あくどい方法でぼろ儲けしてたし、単なる奴隷商売ならともかくさらった子供や貴族なんかを売買しちゃってたことがぜ~んぶバレちゃったんだもん。
 バラしたの私だけど!
 うん、これがご主人さまの命令だったのね。
 やつらの悪事の証拠をできるだけバラ撒いてこいって。
 ついでにバリザード商工会の紋章の入った空封筒を現場に置いてきたから、シェランじゃあ商工会の怨念だーとかやつらがヴァンパイアになって復讐しにきたんだーとかいって、大騒ぎ。
 あ、うん、ヴァンパイアの仕業ってことはさすがにバレちゃった。
 だってしょうがないじゃん!?
 殺したら吸うでしょ、フツー!

 ってな感じで無事任務完了して戻ってくると、クレアさまからご褒美をいただいた。
 耳と尻尾がふさふさで犬っぽいから首輪だって!
 わんわん!
 でも本命は別にあって、クレアさまから血を吸ってもらっちゃった~……にへへ。
 しかも吸った血を逆流させて私に戻すの!
 吸われては戻され、吸われては戻され、吸われるときの天にも昇るような快楽と戻されたときの、快感が全身を駆け巡って中から弾け飛ぶようなあの気持ちよさったらない……!
 もう頭の中ぐっちゃぐちゃ。
 体のほうもぐっちゃぐちゃ。
 私、完全にトチ狂っちゃった!
 前の私ってどんなんだっけ?
 もっとじめじめして暗かったような気がするんだけど、もう思い出せないや!
 暗殺者になるための訓練を受けてたときからハシスとかいう変な薬を飲まされてて、あれもおかしくなるくらい気持ちよくなれたんだけど、そんなのメじゃないね! もうあんな紛い物の快楽なんていりませーん!
 そういえばハシスの話をしたときご主人さまがすんごい顔してたけど、なんでだろう?
 まっ、なんでもいいや!
 私は完全に生まれ変わったのです!
 最高の主人と、たくさんの仲間ができてちょーハッピーなのだ!


「今日からうちの従業員として働くことになった、ウィラ・グルナイだ。こいつの担当は夜間警備で基本単独の仕事だが、なにかあったときは渡した鈴を鳴らせ。こいつが駆けつけて綺麗さっぱり処理してくれる」
 ハイ!
 キレイ殺ッパリ処理シマス!
「ほら、挨拶しろ」
「よろしく……」
 思ったほど声が出なかった……
 初めてできた仲間だし、やっぱりちょっとキンチョーしちゃうかなっ?
 でも大丈夫!
 時間なんていくらでもあるし、きっとすぐに仲良くなってやるんだっ!

 おともだち、たくさん……
 えへっ、えへえへえへ……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました! 裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。 ※2019年10月23日 完結 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...