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第7話 初めての食堂
しおりを挟む4時間目終了後。昼休みの真っ只中
颯は食堂に身を置いていた。颯の両親は仕事で多忙だ。そのため、滅多に自宅に帰宅しない。1人暮らしも同然だ。従って、学校での昼食は颯が自身で用意する必要がある。
自炊はほとんどしていない。ごくたまにスーパーで食材を調達し、調理に従事するぐらいだ。
自然と学校での昼食は食堂か購買の2択に絞られる。早起きして弁当を作る選択肢は存在しない。
大概は食堂で昼食を取る。
今日も食堂での昼食を選択した。
食堂では長蛇の列ができる。学年関係なく、多数の聖堂高校の生徒が、食事を求めて1列に並ぶ。列の長さは3メートルは超える。
長い列に並ぶ生徒達の大部分は友人との雑談に傾倒する。男女の声が混合した騒音が、食堂を支配する。
ガヤガヤ騒がしい音が、しっかり颯の鼓膜を刺激する。
そんな日常的な環境に身を置きながらも、颯は席に座って、カレーライスを堪能する。颯の前は空席だった。つまり誰も座っていない。
「美味い。いつものカレーの味だ」
肉と野菜がたんまりと入ったカレーを咀嚼し、ピリッとした中辛を楽しむ。口内が僅かに痛む感覚を味わう。だが、その程よい辛みと痛みが快感だったりする。
1年の頃から食堂を愛用するため、一通りすべてのメニューを食べた経験がある。
ラーメン、うどん、そば、チャーハンなど、すべてのメニューの味を既知する。どれも颯好みの風味だ。だが、1番味覚に適したのはカレーライスだった。だから、カレーライスを食べる頻度が最も上位だ。
「失礼。前の席いいかい? 」
聞き覚えのある声色が颯の鼓膜を撫でる。
聞き馴染みのある声では無い。颯の鼓膜は、ここ最近この声色を覚えたばかりだ。しかも今日の午前中にだ。
凛とした声の種類だ。自信も感じさせるタイプでもある。
「八雲さん」
目前で認知し、颯は声の主の名字を呟いた。
前の席には、銀髪のロングヘアを左右に揺らし、イスに腰を下ろす遥希の姿があった。
向かい側の机には、お盆と共にうどんが置いてある。器に入ったうどんからは、生温かい湯気が立ち昇る。湯気は肉眼でも視認できるほど、堂々たる存在感を放つ。遥希の前でモクモクと立ち上がる。
「よっ! 」
部活の男子部員のようなノリで、遥希は軽く挨拶する。右手を頭の上辺りに掲げ、よっといったポーズを取る。
「いただきますっと」
律儀に両手を合わせ、食事の挨拶を行う。軽く頭を傾けた終えた後、器に添えた箸に手を付ける。
手慣れた手付きで箸を扱い、汁に浸かったうどんの麺を摘まむ。3本ほどの長い麺は箸に絡む。
「ふぅ~ふぅ~」
唇を尖らし、吐息を吹き掛け、うどんを冷ます。2、3度ほど息を吹き掛け、うどんを口に運ぶ。チュルチュルとうどんを啜り、飲み込む。
「うん! 美味しい!! 食堂のうどんは初めてだが。私の口に合うな! 」
咀嚼を終え、遥希は満足そうな顔を作る。美味しさから、頬は少し緩む。
「天音もこのうどん食べたことあるか? 」
うどんから颯に視線を移す。颯と遥希の目が合う。遥希の水色の瞳が光っているように錯覚した。それほど優美だった。
「うん。食堂のメニューはすべて口にしたことがあるから。うどんは美味しいよね。出汁が効いてて、あっさりだし」
「そうなのか! じゃあ、天音は食堂のメニューの味を大方理解しているわけだな」
「まあ、一応は」
「じゃあ今度、私におすすめのメニューを教えてくれよ。今日初めて食堂を利用してみたんだ。だから知らないことばかりなんだ。例えば、天音が注文した、そのカレーの味とか」
箸を揃えてお盆に置き、右手の人差し指を用いて、遥希は颯のカレーを指す。
遥希の指を追うと、カレーに到着する。
「いいけど…」
「よし! 私は少食だからな。できるだけカロリーの低い食べ物がいいな」
遥希の注文は、女性らしい要望だった。
口調、佇まい、態度とは対照的に女性らしい一面も何個かある。
それが、颯の抱く八雲遥希の印象だ。
「コホンッ。そろそろ本題に行こうか」
わざとらしく、遥希は咳払いを行う。先ほど前の砕けた様子は消え、真剣なオーラを醸成する。人によれば重苦しい空気かもしれない。
「ほ、本題と言うのは? 」
突然の態度の変化に、颯は戸惑いを隠せない。
歯切れの悪い返答になってしまう。若干、ドキッともした。
瞬間的な対応が苦手だったりする。臨機応変な対応も上手く立ち回れない。
「1つ天音に助言の提供をしようと思ってな」
頬杖をつき、遥希は颯を見据えた。
颯の胸中を推し量るように。
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